第二章

獅子奮迅

「続きまして、第二試合のカードの発表です! まずはニーオ選手! 相対するのは……おっと、ロニ選手だぁ 〜ッッ!」


 発表された第二試合の対戦カードはニーオ対ロニ。ニーオの能力は嘘を見抜くとのことだが、実際のところ詳細は不明。ロニの能力は攻撃を受けた分だけ弾き返すというものだ。

 ニーオが攻撃特化であれば攻撃を受けて弾き返すのも容易いが、攻撃に長けた能力ではないように思える。ロニは内心「あまり戦いたくない相手」だと考えていた。


「さぁてさて! 次の試合は三十分後にスタートします。それまでの間、しばしお待ちください!」


 その間に試合ステージが整えられ、選手らも心構えを準備する。


「私は勝てるのかな、彼女ニーオに」


 ロニは不安だった。

 なぜならニーオの能力は単に嘘発見器のような能力ではないと考えていたためだ。嘘を見抜くというのはあくまで副次的なもので能力の本質が別の所にあった場合かなり分が悪くなる。


「はぁ」


 息を大きく吸って溜め息を吐き出す。しかし頭の中は鮮明にはならなかった。

 嫌な予感がどうにももどかしくなる。



 ***



 四半刻が経過して、舞台に立つニーオとロニ。互いの様相は穏やかではなかった。

 有り体に言ってしまえば分が悪い。二人の意見は見事に一致していた。


「それでは、試合開始です!」


 試合開始の合図が鳴る。その瞬間、各々の武器を取り出した。


「甲殻武装:ローゼンゴルドー!」


 大剣を出現させたロニは柄を両手で握り、下段に構える。


「甲殻武装:ハカマオニ」


 脚跡の鎧から紫煙が舞う。煙が霧散するとともに、ロニの前腕には太刀が握られていた。前腕、両手で柄を握り上段に構える。


「最初に伝えておくわ。私の能力は嘘も分かるけれど、その真髄は相手の思考を読むことよ!」

「なっ……!」


 顔色で「最悪だ」と内心を表にするロニ。最悪のケースが的中してしまった。口角を横一文字に結び大剣を握り直す。

 瞬間、ニーオは太刀を真横に構えて前進した。ロニとの距離を少しずつ詰めていく。得物のリーチが保たれた距離まで近づくと、ニーオは眼前の大剣へ刃を当てた。

 刃と刃が鍔迫り合う。ガタガタと音を立てながら激突する。

 数瞬経て、後方ステップで距離をとった。


「嫌な能力だね。今私が行おうとした攻撃も、全部読めちゃうんだ?」


 ロニは苦い表情で吐き捨てる。


「さてどうかしらね? 貴女の倍返しにする能力も相当に厄介よ」


 と、軽口で返すニーオも眉間に皺が寄っていた。ニーオは太刀を横に一閃する。

 するとロニは後方ステップで斬撃を躱し、開いた距離を一呼吸で埋めた。そして太刀を弾く勢いで斬り上げる。


 ――バキィィィン!!


 大木の枝に罅が入るような轟音。

 ニーオはロニの振り払いをつばの部分で受け止めていた。

 驚愕に目を剥くロニとギラリと笑むニーオ。

 ニーオは太刀を返して一度、大剣を押し返すとすぐに横薙ぎに一閃した。


「なッ……!?」


 今度はニーオの双眸が見開かれることとなる。ロニは姿勢を崩していたにも関わらず、斬撃を受け止めていた。大剣はジリジリとニーオを押していく。

 ニーオは身を翻そうとするが、ロニがそれを見逃すはずもなかった。


「させないよ」


 大剣の先端をくるりと回す要領でニーオの太刀を手から剥がす。

 ロニは切っ先をニーオへ突きつけた。


「……降参。私の負けよ」

「勝者、ロニ選手〜!!」


 激闘の末、勝者の登場に歓声があがる。

 激しい戦いを潜り抜け、二回戦に進出したのはロニであった。



 ***



「続きまして第三試合のカードを発表します! 第三試合の対戦カードは、カステル選手対ノーネイム選手ッ! カステル選手は雪辱を果たすことができるのくゎァー! おっとこれは失言でした」


 司会の席からハイテンションな実況が流れる。

 次の対戦は以前レーカに敗北したカステルと、仮面で顔が隠された正体不明の女選手、ノーネイム。

 短くホブカットにされた銀髪と仮面の中から覗く真紅の眼光に、カステルの口角は持ち上がる。


「やっと戦える。ノーネイムだったか、俺はアンタに再戦リベンジを希望するッ!」

「再戦? 何のことかしら。今回も私は勝たせてもらうわ」

「その仮面に意味があるとは到底思えないな! これは俺が勝つ日も近い」

「……そう。全力で相手してあげるわ」


 ――ステージ上の二人は戯言を言い合っていた。

 そしてまもなく、試合開始の鐘が鳴る。


「さてさて第三試合、カステル選手対レーカ選手。試合開始ィーーーッ!!」

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蟲の勇者は地底に眠る 文壱文(ふーみん) @fu-min12

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