READY FIGHT
「それでは順番をシャッフル! そして、第一試合のカードを発表します!」
光を壁に投影することで対戦カードが映し出される。最初のカードはアルケス対ネフテュス。
武器はそれぞれ扇と矛。リーチに差があるとはいえ戦況は予想がつかない。
ルリリは考える。ネフテュスの能力は高圧の蒸気、対してアルケスの能力は無を生み出す能力だった。故に遠距離攻撃は無の中へ吸い込まれてしまう。
「ネスはどう勝つのかな」
最初から接近戦で挑むか、扇を
「第一試合は三十分後に開始します!」
場内アナウンスで一度ルリリ達はステージを降りた。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい──」
ネフテュスは怯えていた。なぜなら相手は接近戦でも強いからである。扇とその能力が相まって、手先の技術で戦況を覆すこともできるかもしれない。
しかも試合は三十分後。
心の準備にも時間が足りない。カチカチと音を立てる時計が煩わしく感じる。
「はあ、どうしようかなぁ」
何時にも増して自信を失くすネフテュス。
「ただでさえあいつも出てるってのに……! なんだよあの仮面は!? 何がレーカ選手はいないだよ」
思わず声が裏返ってしまう。同時に沸々と実況のコルリにも怒りを覚えるネフテュス。
つまるところ、ふざけてるのか──と。
コンコン、コンコン。
控え室をノックする音。
「ネスいる?」
声の主はルリリだ。
ネフテュスは部屋の中へ招き入れると一言、苦言を呈した。
「お前も出てたのか。絶対にいないと思ってたのになんであいつも出場してるんだよ」
「私も知らないよ。それに何なのあの仮面? 絶対にバレると思うよ。レーカは甲殻武装使わないし」
「やっぱりそうだよな」
ネフテュスは頷き返す。
何故仮面までつけて出場しているのかは現状分からない。
「私も強くなるために優勝したい」
個人戦である以上レーカに勝利しなければルリリの目標であった「優勝」もなし得ない。
悶々としながらネフテュスへ質問する。
「ネスはなんでここに?」
「……自分を叩き直したいと思ったからだよ」
「やっぱり考えは同じなんだね」
「ああ。ロニもショウも同じ考えだと思うぞ。蜘蛛人の……ニーオだっけ? その子はよく分からないが」
他の出場者の意図を代弁するネフテュス。ハイネの一件もあり、このままでは駄目なんだと言葉を付け足した。
「頭冷えた。そろそろ始まるよな? 勝ってくるぜ」
ネフテュスは八重歯を見せて笑う。ルリリへ軽く手を振ると控室を出た。
***
「さあ始まります! 第一試合、アルケス選手対ネフテュス選手〜!!」
ステージ上にて対峙する。
向かい合って改めて感じる圧力。体格差がある訳でもないが、ショウを下した実力は本物のようだ。
「来い、甲殻武装! テトラポセイドス」
顕現する四つの牙。やがて矛の全貌が明らかになる。ネフテュスは柄の部分を短く握った。
「来い! アルヴァンタイユ」
姿を現したのは波打つような扇。それを両手に持つと肩の力を抜く。
「それでは第一試合!
戦いの幕開けとなる
先手必勝。ネフテュスは距離を詰める。矛先は扇を持つ手の近く。所謂、扇の中心。
面で戦う武器なのだから、その一点を突けば勝てるとネフテュスは考えていた。
「はぁっ!」
面を狙う。しかし、扱う矛は斜めに吸い寄せられた。扇の羽と競り合う形で鈍い音が鳴る。
「ッ!?」
驚愕に目を見開くネフテュス。その様相を見てアルケスはニヤリと笑む。
幾度と打撃をぶつけ合い、気がつけば互いに肩から息をしていた。ガツン、ガツンと金属音──否、打撃音が鳴り響いている。
「粘るね、君……」
「
ネフテュスは考えるのをやめた。
「相手の内を気にするのはもうしない。一気に行く!!」
ネフテュスは蒸気で周囲を包み込んだ。見通しは悪くなり水滴が視界を奪う──はずだった。
「アルヴァンタイユ!」
吸い込まれるかのように霧が流動する。気づいた頃には霧が晴れ、接近戦を許してしまっていた。
扇で斬りかかるアルケスに対して矛で競り合うネフテュス。武器の外見にそぐわない重苦しい一撃。ネフテュスは唇を噛む。
「今回も勝たせてもらうよ」
「うっせぇ! 扇の先に無が生まれる? そんな能力があるなら今頃俺はここにいない。ただの見せかけだ!」
「ッ!?」
ネフテュスはアルケスの能力──その本質を見抜いていた。勢い良く蒸気が噴出し、アルケスを押し返す。
「膂力と勢いは想像以上だったけど、お前の能力は粗方真空とかだろ?」
「……よく見抜いたね」
肯定するアルケス。それに伴って扇から伝わる圧力は増大していく。
やがてアルケスは一言、唱えた。
「──根源開放ッ」
黄緑色のオーラを身に纏い、身体能力が向上する。ドクドクと波打つ鼓動に身を任せ、扇を横に一閃。吹き荒れる風が渦を巻く。発生したつむじ風はネフテュスへと迫る。
「っ……! 天蒸開放」
ネフテュスも全身を駆け巡る血液を一度に流入させた。同時に蒸気を噴出させ、それを身に纏う。四肢は橙色の光に包まれ、その中心では黄緑色が輝く。
能力の副作用による硬直を防ぐためにネフテュスが編み出した身体強化技法。身体能力が向上するとともに、吹き荒れる蒸気は勢いを増した。
アルケスの一撃を跳ね除けると一度距離を置く。そしてネフテュスは右脚を左上へ回す。予想だにしなかった横からの攻撃にアルケスは目を剥く。
ステージの上を転がるが身体が遠くへ投げ出されることはなかった。すんでのところで手脚を地面につけていたのである。
アルケスはすぐに立ち上がると扇を構えた。剣で言うならば上段の構えである。
「……やるな」
どちらが発した言葉なのかは分からない。ネフテュスは柄を握り直して深呼吸。アルケスも短く息を吐いた。
「次で決めよう」
「ああ、次で決着だ」
アルケスの宣言に同調するネフテュス。互いに呼吸を読み、攻撃のモーションへ移行するタイミングを窺っている。
──そして動いた。
先に一歩踏み出したのはネフテュス。扇目掛けて矛先を突きつけようと迫る。対してアルケスも防御の姿勢をとった。
そして、能力を発動させる。
「させるかよ!」
結果的に甲殻武装を破壊できないのなら、能力を発動させなければよい。
ネフテュスは攻撃から移り、甲殻武装を投擲した。甲殻武装からは蒸気が吹き出し宙を滑空する。
そして矛は扇を穿った。
「し、試合終了ーーーッ! 勝者、ネフテュス選手〜!! 」
勝ち残ったのはネフテュスであった。
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