第7話 変な江川 / 無言の宇宙人
今日は朝から全く江川と話していない。隣の席だというのに無言。
何かあったのだろうか。疲れてそう。とっても眠そうな顔している。私のセンサーに引っかかってずっと頭の中でアラームが鳴っている。
江川透。名前のわりに話していると色は濃い感じ。何色かな。学生服で黒、というのは少し違う気がする。人によって色を変えるタイプでもない。名前だけ聞くとラムネ瓶を思い出す。透き通る青。私の好きな色。でも、江川透はもっとこう明るい色な気がする。
気がする。気がするだけで実質分からないことが多い。話すときは私が主に何か言う。昨日は「今日はクラス長になれなかった」的なことを話したと思う。
今日もラーメン屋に誘ってみようか。私の家は両親が離婚していてお母さんが働いている。優しい人だが、一人で何もかも背負い込もうとする。そういう時決まって眉間にしわが寄る。若さを保つということはあまり気にせず、話がこのことを精いっぱい育てようと意気込むから子供より自分がどんどん体を劣化させてしまう。
江川も今そんな顔をしている。疲れたな、眠いな、昨日めっちゃ大変だったな。そんな顔だ。私はラーメン屋以降は何もしていない。家族かテレビか。まさか友達か?
江川が友達といるところはあまり見ない。前の席の男子と少し話していたっけ。
放課後は暇そうだから部活は入らないのかな。この学校は部活は自主的に、だから考えないでもいいのだろう。
とりあえず、私は黒板の文字も写さず、放課後のことを考えた。
宇宙人からの接触なし。
というのも、昨日は松村との関係について家族会議。喜ぶ母、しつこい父、何故か態度の悪い妹。三人に言い訳するのにたっぷり原稿用紙十枚使った分を脳内で組んだ。もちろん比喩表現だが。
そうして、今日は朝から疲れと母の相手をするはめになり、家を出たのは登校時間ぎりぎり。学校に着いて席に着席。眠い目をしっかりと開け、授業に臨んだ。
上田は今日は休みだった。三日目から何をしているやら。お隣は俺が話しかけないせいか、目に力入れまくってるせいか、話しかけてこなかった。案外らくちんな一日だった。
今日の放課後は早く帰ろう。そして近くの本屋に向かおう。ライトノベルと小説を最低三冊は買ってこよう。夢膨らむ放課後になりそうだ。そしてまた俺も夢の中へ向かって行ったのは言うまでも、な、い……。
ノートの一番上に『放課後リスト』と書き、数学の公式ではなく疲れているであろう江川をいやすための企画を考える。
ラーメンはどうだろう。いや、いつもと同じだ。三日目ともなると私もきつい。そのせいで体調を悪くしたのかもしれない江川にそんな無理をさせるわけにはいかない。
そうだ、カラオケは。無理だな。私とて、得体のしれない男子とカラオケに行くほど落ちぶれてはいない。宇宙から舞い降りた小見様と称賛される夢をあきらめるわけにはいかない。
そう言えば、江川は自己紹介で『音楽鑑賞』なるものが好きと言っていたではないか。私も好きなkNightのファンらしいし、CDショップなんていいのでは。
この近くにそんな店が存在しているのだろうか。ああ、古本屋さんがあるではないか。よかったこの土地について学んでいて正解だった。そうだ、誘おう。
……古本屋に。
今寝ている江川を。
寝ている。
観察してみた。寝顔はあちら側に行き見られないが黒く硬めの髪がうかがえる。暖かい太陽がささやかな癒しをもたらしているようだ。太陽に先を越されてしまった。
残念。でも少し暑そうだ。カーテンを閉めてあげよう。
「先生、カーテンしめてもいいですか。」
「お、ああ、どうした暑いか。」
「江川君が暑そうなので。」
「江川、体調でも悪いのか。」
俯せている江川。寝ているだけだろう。
「寝ているだけです。」
「えがわっああああああああああ!」
おのれ宇宙人。俺は怒られた。もちろん自分が悪いのは認めよう。
だが、先生にそのまま「寝ています」と伝える奴がいただろうか、まあ、いたんだけどさ。そこら辺の配慮をしてほしかった。
それにこんなに眠かったのも、もとはと言えば小見が「ラーメン奢り」というから一緒に行って、それを松村に見られ、そして家に来て家族を震撼させたため、起きたことだ。
すべて原因は小見にある。ぐぬぬ、小見め、覚えていろ。
――放課後。
「一緒に古本屋に行かない。」
「採用。」
俺はまた馬鹿なことを。
青春したいだけなんだ!! 詩鳥シン @utatorisin
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