最終話 幼なじみが俺の青春を全力で潰しにくるのですが?

 夏休みが明けた。本当にいろいろあった休みだった。

 そして、今日から白﨑さんと一緒に学校に行こうと約束している。そのため、俺は早めに起きて着替えを済まし、志乃さんが作ってくれたトーストを食べる。

 ほどよい焼き加減のパンを噛み、牛乳で流すと席を立つ。そのタイミングで部屋の扉が開いた。


「おかあさーん。翔くん知らな……って! もう食べ終わったの!?」

「ん? ああ。今日は白﨑さんと一緒に登校するって約束したからな」

「へぇ、そうなんだ」


 さて、俺は一足先に出るかな。白﨑さんとは公園で待ち合わせしてるんだ。

 靴を履いて家を出る。普段見るのとは高さの違う朝日が登校道を照らしている。これも、ダメ人間脱却の一歩って所かな。

 学校までの最短ルートから外れ、少し裏道へ。このほうが公園に近く行けるのよ。

 塀の上で寝転ぶネコを微笑ましく見守り、公園に向かう。新鮮な感じがしてこういう寄り道もいいなと思える。

 やがてやって来た公園。すでに白﨑さんはパンダの遊具に座っていて、俺の姿を見ると笑顔で手を振って駆け寄ってくれる。


「おはよう」

「おはよう翔馬くん、彩乃ちゃん」


 ん? 今なんと?

 振り返ってみると、牛乳パックを片手に笑う彩乃の姿が。まさかこいつ、尾行したのか? ホント何してくれてるの?


「おはよう。私だって翔くんと一緒に行きたいし」

「お前なぁ……」

「いいじゃない。三人のほうがきっと楽しいよ」


 白﨑さんがいいっていうならいいか。というか、あの夏祭りの日にどんな話をしたんだろう? あれ以来、二人の仲がとてもよくなっているんだよな。この前なんて二人で出かけていたし。

 まぁ、以前みたいにどこかギスギスした雰囲気にならないからいいんだけど、俺個人としては少し寂しいな。たまにほったらかしにされちゃうし。

 まっ、そんなどうでもいいことは置いといて、早速行くとしようか。

 三人並んで学校へ。小鳥の囀りが朝の空気を煌めかせる。


「翔馬くん。腕、組んでいいかな?」

「うん、いいよ」

「ありがとう!」


 白﨑さんが右腕に抱きついてくる。体が密着してとてもいい心地やぁ。ふわりと甘い香水の香りも鼻孔をくすぐる。

 と、空いていた左腕を彩乃が取る。白﨑さんほどではないが、腕全体が密着するかたちだ。


「何してるの?」

「沙耶香を見てたら羨ましくなって。ダメ?」

「ダメって言いたいところだけど、仕方ないか」


 本当ならダメと言わなくてはならないところだろう。でも、白﨑さんが目で肯定していたから振り払うのもなぁ。

 そんなこんなで学校に来たけど、もう大騒ぎだった。


「見て。翔馬くんが二人と腕組んで歩いてる!」

「きゃーっ! さすがイケメンは一人じゃないのね!」

「私たちもチャンスないかな?」

「本命は白﨑さんらしいけど、どう転ぶのかしら!?」

「「「イケメン死すべし慈悲はない」」」


 女子の黄色い声と男子連中の怨嗟の声が続く。まぁ、そう見えるわな。それと、なにさらっと彰は怨念組に混じってやがるんだ。


「おはよう翔馬」

「おはよ~。なに? 翔馬早速浮気? 泣かすわよ?」

「朝から怖いこと言うなよ!」


 出会い頭に脅迫じみたことを言ってくる天音と、駿太にも挨拶して教室へ。今後はちょっと身の振り方を考えねば。

 朝から騒動を起こしたことで、教室でもちょっとしたことになっている。反省。

 HRが終わり、始業式を終え、下校の時間に。今日は授業もなく午前だけで学校が終わりだ。まあ、土日挟んでテストだから勉強しないと。

 これ、恋人同士で勉強会イベントが起きるのでは!? よっしゃ声を掛けよう!


「白﨑さん。よければ一緒に勉強とかどう?」

「いいね! じゃあ、後で私の家に来て。待ってる」

「……ねえ。二人とも世界史のテストは大丈夫?」


 彩乃の一言に思わず俺も白﨑さんも冷や汗をかく。その教科、二人とも期末テストでギリギリ七割の点数だったからな。ちなみに、彩乃は世界史満点であった。


「その様子じゃ微妙そうだね。まぁ、七割あれば充分とは思うけど」

「でも、今度はもうちょっといい点取りたいな」

「確かに。私は世界史と古文がイマイチだったから……」

「じゃあ、私も行くね。教えてあげるよ」


 流れで彩乃も参加することになった。うん。ありがたいことにはありがたい。

 ただ、ずっと思ってたけど彩乃さんや? なんか俺と白﨑さんの二人きりになる時間を邪魔しておらぬか? 気のせいか?

 もうずっと二人きりになってないぞ。最後にそうなったの告白のあの時だもん!


「彩乃? 忙しくないか?」

「別にいいよ。それに、彼女の家に二人きりとか間違いが起きたら大変だからね。子どもはまだ早いよ」

「「しないから!!」」


 思わずツッコむ。やっぱり、意図的に妨害してやがるな。


 頼むから……俺の青春イベントを潰さないでくれ! また少しでいいから二人きりの時間を過ごさせてくれ!!

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幼なじみが俺の青春を全力で潰しにくるのですが? 黒百合咲夜 @mk1016

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