第74話 花火を見ながら告白するのですが?
彩乃と白﨑さんの一件が終わり、俺と白﨑さんはベンチで座っている。買ってきたジュースを渡して、花火が上がる時を今か今かと待つ。
それまでの間、やはり気になって白﨑さんに聞いてみる。
「でも、本当に良かったの? 彩乃にだいぶやられたんじゃないの?」
「いいの。これでいいの」
「白﨑さんがいいなら……。さっき、何を話してたの?」
「女の子同士の秘密。翔馬くんには教えてあげないっ」
悪戯っぽく笑う。そう返されてはこちらもこれ以上聞けない。並んで花火を待つとしよう。
ただ、ある程度予想している人もいるかと思うけど、その予想は正しい。今、俺は平静を装っているだけで緊張から心臓が破裂しそうだ。ジュース缶を口に運ぶ手が震えて歯と缶が何度もぶつかってカチャカチャと音を鳴らす。
「だ、大丈夫?」
「ううううん! 寒いだけ!」
「夏の夜だよ……?」
蒸し暑い中、寒いなんて言われたら健康を疑われるだろう。もっとマシな言い訳をするべきだった。
でも、これ以上逃げの姿勢を見せていても仕方ない。ここで、いこうか!
「し、白﨑さん!」
「は、はい!」
体を白﨑さんに向ける。突然大声で呼んでしまったからか、白﨑さんは顔を真っ赤にして驚いているように見える。そのことについては申し訳ないと思いつつ、全身にある勇気をすべてかき集める。
遠くでアナウンスが聞こえ、火薬の炸裂音が聞こえた。紺色の空を一筋の白い煙が分かち、天に昇って爆発する。赤色の美しい炎が花開き、俺と白﨑さんの横顔を明るく照らした。
「俺、白﨑さんに言いたいことがあるんだ」
「……うん。聞くよ」
たくさんの花火が夜空を彩っている。夏の風物詩たる音が響くが、その音に負けないように俺も声のボリュームを上げる。
「修学旅行の時、俺、諦めようと思ったんだ」
「……え?」
「でも、やっぱり無理だ! 白﨑さん。俺と、お付き合いしてください!」
自分の全てを振り絞った告白。ラブコメ小説ではお約束の花火の音にかき消されて聞こえなかった、なんてオチも回避した言葉を伝える。これが、今俺が出せる全て!
しばらく無言の時間が流れる。この時間が怖すぎる……。生かすか殺すか運命よ、早く決まってくれ!
神にすがる気持ちで祈っていると、クスクスと笑い声が聞こえた。白﨑さんが小さく笑っている。肩を震わせ、目尻に小さな涙を浮かべて。
「白﨑……さん?」
「あ、ごめんね。うん、大丈夫。……もう、大丈夫」
力強く顔を上げる。そして、俺の手を包み込むように握ると真っ直ぐ目を合わせるようにして言葉を発してくれた。
「去年からずっと、翔馬くんのことが好きでした。私と、交際してもらえませんか?」
「ッ! それって……!」
「うん。私も翔馬くんとお付き合いしたい。ダメ、ですか?」
ダメな理由などまったくない。むしろ、こちらから頭を下げたいくらいなのだ。
夜空に咲く花の数が増え、町全体を照らす。お互いに相手に対する想いを告げたこの場の雰囲気は最高潮。今、この瞬間に俺と白﨑さんは付き合うことになった。
特大花火が花開くと共に白﨑さんが顔を寄せてくる。瑞々しい桃色の唇が俺の唇と重なった。温かい感触に目を見開くが、その快楽に身を任せる。砂糖水のように甘い味が口いっぱいに広がった。
顔を離した俺たちの口に引かれる一本の糸。白﨑さんがそっと拭い、笑顔を見せる。
「夢だったんだ。こうして、翔馬くんとキスするの」
それは俺もだ。ずっとこの瞬間を夢見て過ごしてきたんだから。でも、これからはこれが日常になるように努力していこう。
両手を差し出し、目を閉じて顔を少し前に突き出す彼女の望みに応え、優しく抱きしめるともう一度唇を重ね合わせる。虹色の花火が空一面を覆い尽くし、穏やかに俺たちを見守ってくれているようだった。
キスを終え、ゆっくり花火を鑑賞する。もちろん、指を絡めて肩を触れ合わせた状態で――。
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