第2話 また目を覚ましたら、妹に怒鳴られました

 ——た……が!


 誰かの声が聞こえる。


 ——た、……いが!


 誰かが俺を呼んでいる。


 いきなり知らないバンドのボーカルになり、どこかライブ会場なのかは知らないが、あんな訳の分からない状況下でと呼ばれた時よりもずっとこちらの方が断然馴染み深いし、ちゃんと俺の名前を呼んでくれているので聞き心地が良い。



 というかあの時呼ばれたというのは、本当に誰なんだろうか。後あれは夢だったのだろうか。にしてはすごく現実味があり、とても鮮明なものだった。とてもではないが、夢という一言で終わらせられるような出来事ではなかった。


(……正夢。それとも、幻覚だったのか)


 暗闇の中で、先程の光景を薄らに思い返すと——







「——いい加減に起きろこのバカ豚ぁ!!」

「どわぁっ……!?」


 と、そこで突如として自分の意識が明転する。誰かに耳元で怒鳴られたようで、それに驚いた結果、ソファーから思い切り転げ落ちてしまった。


「いっ……てぇ——っ!」


 床に強く落とされた背中の痛みを感じると同時に、ここが自宅のリビングであることを理解した。内心、とても安心する。

 ホッと一息着くと、今度はこんな目覚めの悪い起こし方をしてきた奴は誰なのかと視線を上げれば、そこには如何にも蔑んだ目でこちらを見下してくる妹がいた。


「……お、帰ってたのか。多恵たえ

「帰ってたのか、じゃねぇわ! またその邪魔な巨体でソファーを占拠してさ。何考えてんの?」


 田代たしろ 多恵たえ。今年で中学三年になった、俺の一個下の妹だ。義理ではなく、歴とした兄と妹との関係だが、妹はデブで日陰者な俺とは違う。九分九厘、誰もが一目で俺の妹とは分からないような、似ても似つかない容姿をしている。

 つまり、端正な顔立ちをしているのだ。オマケに可愛いらしくて、性格は先程の俺への豪快な悪口から想像出来ない意外な几帳面な所もあったりする。あと、外面は凄く良い。先生、近所の人達、同級生などなど、多くの人から親しまれている。恐らく外で誰かと接するときは、今のような裏の顔は出さず、且つ分け隔てなく明るく振る舞っているのだろう。

 部活はソフトテニス部に所属しており、無所属の俺とは違い、精一杯青春を謳歌している。クラスでの立ち位置は、確証は持てないが多分人気者なんだろう。休日に友達と隣町までよく遊びに行ってる姿を見かけるためだ。

 元々、そこまで多恵とは話すような仲ではなかったのだが、最近になって更にその仲の微妙な距離感が顕著になったような気がする。


(中学一年生の頃までは、なんだかんだでちょくちょく雑談がてら、学校での近況報告してくれてはいたけど)


 と、思った風に、そんな昔の多恵の素直な一面が垣間見える記憶自体はあるのだ。しかし、今やそんな記憶の中の妹は見る影もない。中三になってから、俺への当たりも強くなってきていて、自身に素直なことは良いことなのだが、それが裏目に出ている気がしないでもないと思う今日この頃である。


「お、おう。すまん。今日は体育でマラソンがあってな。全身が……その、筋肉痛で。あまり動きたくなくてだな」

「は? なに授業のマラソンくらいでグダってんの? 私なんて体育の持久走の後に部活でも散々走りまくったんですけど? あんまり私の目の前で苦労自慢に近い言い訳しないでくれる?」

「……そうだな」

「というか、だから特に今日はくっさいのね。ねぇ? さっさと風呂洗って入ってきてくれる? あと出来れば視界に入らないで。暑苦しいからさ」

「……ああ、分かった。ごめん」

「……」


 近頃の多恵と俺の会話は、このように一方的に罵倒されて、最終的に俺が折れることが多い。というか俺が妹との会話を諦めているに近いだろう。思春期の兄妹のコミュニケーションは大体このようなものだとは思うが、しかしながら結構心には来るものだ。


(だけど、今日は一段と凄かったな)


 普段の多恵は今日みたいにキレたりはしないのだが。あるとしても、「は? ……チッ」という大きな舌打ちをした後に「◯ね。デブ」と、なんともストレートな悪口を吐いてくるくらいなものだ。あと今回のような、多恵から話しかけられるのは、結構珍しいことである。基本は空返事か無視という、よく刑事ドラマで見かける、黙秘権を行使し続ける被告人みたいな姿勢を貫いているのだが。

 

(今回のは……機嫌悪かったのか、イラついてたのかは知らんが、半ば八つ当たりみたいな感じだったけど。あいつ、大丈夫かな)


 機嫌が悪い理由はいくつかは予想出来る。例えば、中三になったことで、学期早々に後輩たちとのコミュニケーションに悩んでいるとか。あとは、テニス部でなにかしらの失敗をしたとか。他にも友人関係の拗れという理由も考えられる。


 世間の兄妹関係がどうなのかは知らないが、多恵と俺の仲は色々と微妙なので、どうしよう。こういう時、助けようにも勝手が分からない。普段からちゃんとコミュニケーションを取っておくべきだった。


 いつも辛辣な口撃をしてくる妹だが、妹は妹だし。確かに本心に多少なりとも、日頃からの妹に対する恨み辛みはあるが、それ以上に妹のことを心配してしまう。


――を感じているのであれば、尚更だ。


(……ストレスでドカ食いして俺みたいなデブになってほしくもないし)


「じゃあ入るからな」

「……」


 とにかく。今日は妹を余り刺激しない方が良い。さっさと風呂入って寝るとしようか。あと、さっき起こった出来事についても考えておきたい。









「……はぁ」


 思わず、一息吐いてしまう。

 一番風呂。マラソンのせいで疲れた身体に染みる。もちろん、身体は洗ってから浴槽に入った。汚いまま入るのは後の人に迷惑だし、すごく抵抗感があるのだ。


「……」


 湯船に浸りながら、ふと珍しく考え事をしてみる。


 多恵とのコミュニケーションのことでの悩み事はあるが、今日考えるべき主題は、やはりあの夢か幻覚か分からない体験だ。


 ——数千人を優に超える、スタジアムを埋める大観衆。束になった歓声が一斉にステージ上に居た、あの時の俺を含めた三人の接点も見当たらない見知らぬ男たちと一緒に浴びせられ、大勢の声による反響で床が揺れ、自身の耳に、胸に大きく響いていた。

 それに、観客たちがあたかも俺が、あの場に居た三人の見知らぬ男たちと一緒に最高のライブをしたというように、口々に感想や賞賛を混じえながら叫んできたのだ。しかも、自分を指差して『ショウタ』という、これまた俺が聞き覚えのない男の名前を。


 そして驚くのが、夢とは思えないほどの、あの時にその場にいたと錯覚してしまうほどの臨場感と、確かに感じた独特の場の匂いや、何よりも一挙に襲いかかってきたあの疲労感と、何故かは知らないがやり遂げたという謎の達成感を感じていたことだ。突然誰かの身体に成り代わったかのようにだ。


 なんだこの言いようのない怖さは。自分が自分でないようなこの感覚がする。もしも本当に誰かの身体に、それこそ幽体離脱でもして憑依していたとしたら。


 中々にイタイ考察だとは思うが、確かに俺は


「……」


 考えられなくはない。しかし、根拠がない。


「いや、でも待てよ。もしかして、本当に正夢だったとしたら、別に考えなくても良いんじゃないのか」

 

 一時的に誰かの身体に成り代わるだなんて。そんな水の上を歩く以上の夢物語、あり得る訳ない。


(……でも確かに最近疲れていたし、ソファーで眠った時なんか無意識のうちにすぐ眠っちまったからな。要は熱で寝込んでいるときに見る夢と同じようなもんだろな)


 アニメ、漫画の見過ぎ。今回の出来事はその一言に尽きるだろう。

 そう思うと、こんなに考えてるのがバカに思えてきた。


「……脳も脂肪になってきたのか俺」


 独り言をぼやく、湯槽に浸かるメタボ男の図。イケメンで細マッチョであれば、多少は映えたのかもしれないが、俺だと途端に醜く思える。真っ白な天井を見上げながら自嘲していると


 ——グルルル


 と、大きなお腹から大きな音を発した。自分で思っててなんだかすごく悲しくなってくる。 


「そういえば夕飯はまだ食ってなかったな。さっき玄関が開く音も聞こえたし、お母さんも帰ってきたんだろ」


 頃合いか。ゆっくりと湯槽から立ち上がり、適当に背伸びしてパジャマに着替えて、リビングに向かうのだった。





◆ ◆ ◆


田代家 リビング



 一方、リビングでは——



「はぁ……」


 入浴しに行ったバカ兄を他所に、私は独りで嘆息していた。理由は今、消臭剤を片手につい先程、ソファーで爆睡していたあのバカの臭いが染みつかないように撒いているからだ。


(うーん、大丈夫かな。このくらい消臭剤かけとけば、まあいいでしょう)


 ウチの兄はとにかく無頓着である。自分の食器は片付けない、部屋も片付けない、風呂入るときも、とにかく無造作に洗濯機に洗濯物を入れたり。なんとも側迷惑な兄である。


 というか、最近はもう妹からみて、兄としての威厳もクソも感じないので『大雅たいが』と、下の名前で呼んでさえいる。

 昔の私は正直だったためか、大雅のことを『兄さん』と呼んでいたが、今それを思い出すだけで寒気がしてならない。


 あと、とにかく暗いし、不器用だし、キモい。話してるとこっちまで暗くなってくる。

 汗臭いし、明らかに私が話しかけないで下さいオーラを醸し出しているにも関わらず、夕飯の時はそれとなく近況を聞いてきたり、あと何も出来ないくせに、時々兄ぶって節介を焼いてこようとしてくる。本当にキモい。

 見た目は、力士みたいな太り方ではなく、ぽっちゃりとしている。デブと言っていいのか、ぽっちゃりと言っていいのか良くわからないラインにいる。身長は平均よりやや高めなのだが、要はただのデブである。顔の方は美人なお母さんに似たのか、綺麗な二重と涙袋であり、若干童顔に近い。あと意外にも鼻筋も整っている。痩せればそこそこの男にはなると思う。痩せればの話だが。今は全くの論外だけど。

 あと何もできないくせにとさっきは言ったが、少し嘘を吐いた。勉強だけは意外に出来る。


 さて、何にせよだが。私は部活から家に帰ってくるたび、そんな兄——大雅を目にすると妙にイラついてきてしまうのが、最近の悩みの中の一つである。


 今日は特にキツく当たった気がする。実は今日、部活で顧問にプレーの面で叱られて、気分が落ち込んでいたせいもあったとは思うが、何より私がこんなにも頑張って帰ってきて、一方兄である大雅が何故こんなにも堂々とソファーで爆睡してるのだろうと、一種の八つ当たりみたいな感情が芽生えてしまっているのだ。それに、姿を知ってしまっているからこそ、尚更腹が立ってきてしまう。勝手でエゴだということは分かっているが、やはり目の前にするとキツく当たってしまう。


 今こそ大雅に対して、嫌悪と軽蔑その他諸々の感情を抱いているが、昔は兄として尊敬の念を抱いていた。私がまだ小学校五年生の頃、大雅はまだ一つ学年上の小学校六年生だった。当時の私は今のように社交性は無く、もはや皆無に等しかった。暗くて、インドア派で、家では兄と遊ぶものの、殆ど同年代の子と遊びに行くことはなかった。ある日まで大雅に見栄を張っていたのだ。『友達がいる』と。


 そう。親しくしたい人には親しくし、親しく出来そうに無い人とも、一定の距離感を保って接するという、今のような私みたいに、賢い人との関わり方なんて、あの頃の私には出来ていなかったのだ。


 そんなある日。普段から教室の片隅で、独りで絵を描いている私の噂を聞きつけたのか、クラスまでやってきて強引に外へ連れ出してくれたのがあの頃の大雅だった。最初は馴染めなかった。でも、大雅の協力もあって小学校卒業までには友達も多くなっていて、一年前とは見違えるほどに、よく話して、明るい子という印象に変わったのだ。


 言ってしまえば、現在のような、ガツガツ暴言を吐くような素直な性格になれたのも、大雅のお蔭みたいなものなのだ。


 しかし、大雅は中学三年になった時から、変わり始めた。段々と、口数も減っていき、体重も増え始めていたのだ。私も思春期だったためか、周りに大雅と兄妹であることを隠していたためか、学校での大雅の噂を耳にすることはなかった。大雅も大雅で何か悩んでいるのだろうと、あまり触れないようにしていたが、日に日に悪い方に変わっていく大雅に見かねて、私はある日、何があったのかと聞いてみたが、そんな彼からの返答は『大丈夫』というだけの一点張りだった。

 こういう時の大雅は本当に口が硬い。頑固な性格なのは分かっていたが頑なに口を割らないので、私もその時は諦めて、部活にまた専念するようになってからというもの、真相は聞けていない。今更聞くというのも気まずく、ずるずると今日までに至ってしまったのだ。


「……」


 確かに、今の大雅は大嫌いだが——少なからず後悔の念も抱いているし、少しの罪悪感も抱いてしまっているのと事実だ。


 あの日、異様に私へ口を割らなかった大雅に根負けせずに、根掘り葉掘り悩みの種を聞いておけば、今のような醜態にはならなかったのではないだろうかと。勿論、たらればなのは重々分かっては居るが、何故かあの時の記憶が、ここ一年のうちに積もりに積もった罪悪感とともに、心の片隅に根深くしこりとなって残ってしまっている。


「——あのバカ」


 誰もいないリビングに響く、行く宛てのない文句。この静かな空間が、余計に今の私を心細くさせる。


「……何かやってないかな」


 寂しさを紛わすように、テレビのリモコンを手に持ち、先程消臭剤みのソファーに身体を預けた。側に置いてあったクッションを抱えて、顔を埋める。電源をつけると、適当にチャンネルを変更し続ける。


「……っ!」


 するとふと丁度写ったニュースに、普段はさほど興味もない報道ばかりなのだが、私からしたら今流れている報道は、とても興味深い報道がされていた。


《皆さんこんばんは。たった今新しく入った情報をお伝えします。今日17時37分頃、横浜ホームで行われていた今年流行している若手四人組バンド『ZIX』のボーカル、藍坂あいさか 翔太しょうたさんがライブ終了の直後、突然倒れたとの情報が入りました》


「え……!! 藍坂さんがっ! だ、大丈夫かな」


 ZIXジックス。今年、中高生を中心に現代流の曲調ながら、心に響く歌詞が大きな話題を呼んでいる、人気若手バンドの名前である。私も好きな曲が幾つもあり、いくつかのCM、ドラマ、映画までにも多くの曲が採用されている。特にそのバンドのボーカル、藍坂 翔太さんの、その気になれば女性の歌声も出せるほどの綺麗なハイトーンボイスが皆のツボに刺さるようで、私もその綺麗な歌声に惚れ込んだ一人でもある。ギターやドラム、キーボードとかには詳しくは無いが、かなりの高レベルな演奏をしている実力派バンドとして、その道の業界でも有名らしい。


 そんな四人組のバンドの大黒柱でもあり、私の大ファンでもある藍坂さんが、ライブ終了直後に倒れたというのだ。リモコンを握っている手に、自然と力が入ってしまう。


《現在、症状などは確認されておらず、藍坂さんは最寄りの病院である市立病院へ緊急搬送されているらしく、搬送される際には周りに約300人にも及ぶファンが押し掛けたようです。現場の横浜ホームは急に起こった悲劇によって、依然として騒然としているようです。現場から中継が繋がっております——》



「——ただいまー」


 女性アナウンサーの緊迫した声から紡がれた言葉を反芻していると、そこに母が帰ってきた。


「あっ、おかえり」

「ん……はー疲れた。多恵は部活あったのよね。お疲れー」

「うん。いつも通り。お母さんもお疲れ様」

「ありがとう。さて、今すぐご飯作るからね。多恵も手伝って」

「はーい」


 スーツ姿で忙しそうにキッチンへと、両手に大きく膨れたビニール袋を持ちながら向かう母を追うように、ソファーから腰を上げた。


(まあ、大丈夫だよね)


 ライブ後に倒れてしまった藍坂さんのことは日本の医療技術を信じて任せるとして、今は夕飯の支度をしなければならない。


「あれ? 大雅はまだ帰ってないの?」


 母が冷蔵庫の中へ買ってきた食材や牛乳を入れながら、そう問いてくる。


「あーお風呂だよ。あまりにも臭かったから無理矢理入れた」

「あら、そうなの。あなたも容赦ないわね」

「だって私が帰ったら、体育でマラソン走ってきて、沢山汗かいた状態でソファーで爆睡してたんだよ? 普通にキモいしあり得ないんですけど。しかもあの体型で寝られるとソファー壊れちゃうじゃん」

「こら、言い過ぎよ。確かに大雅に落ち度はあったかもしれないけど、人の気にしてることを馬鹿にするのは違うわよ。あなたも自分のコンプレックスのことを言われたら嫌でしょ?」

「……はーい」


 母に叱られてしまった。

 納得は行かないが、確かに今思い直してみれば、言いすぎた節はある。


「——……おかえり」


 噂をすれば、そこに風呂上がりで幾分かさっぱりとした大雅がリビングに入ってきた。


「あら、ただいま。ごめんね、ご飯今すぐ作るから」 

「いや、ゆっくりで良いよ。仕事疲れてるだろうし」

「ふふ、ありがと」

「……じゃあ俺は自室に居るから、出来たらRINEとかで適当に呼んで」

「分かった」

「——……あ」


 来て早々、部屋を後にしようとする大雅が、何か言い忘れたのか、顔だけ振り向かせて、こう言ってきた。


「あと多恵」


 意外にも、私に用があるようだ。


「……」


 無言で視線だけ向けて、言いたいことの続きを促すと、次には——



「……今日は。その、ごめんな。じゃ」

「え?」


 ——と、普段の平坦な声と比べて、若干暗い声色で言った。

 私の返事を聞かないまま、リビングを後にする大雅の背中を見届けて、思わず嘆息してしまう。




(……なんだか、気持ち悪い)


 何故か報われない気持ちになる。いや、自分でも薄々分かっているだろう。今、このむず痒く感じる心を。そして今、この行き当たりのない僅かな苛つきを覚えてしまった原因を。


「……」


 そんな私を母は静かに優しい目で一瞥したあと「……さぁ、支度しましょうか」と、敢えて今のことには触れずに、料理に取りかかった。


「……うん」


 そんな母の気遣いなのか、それとも何か私への暗示なのかは分からない言葉に、若干無気力に頷く。

 多分、母は今の大雅とのちょっとしたやり取りで、今日の大雅と私の間に起こったことの大体を察することができたのだろう。


「あら、こんなところに大雅の大好物なじゃがいもがあるわね。多恵、これでジャーマンポテト作ってくれるかしら。材料は近くに置いておくから」


 そして、あろうことか態とらしく、私に『この料理をきっかけに仲直りしなさい』とでも言うように、じゃがいもを手渡してくる。


「……はぁ。分かったから」

「ふふ、ありがとね」


 私はそこで、やはり母には敵わないと。そう思った。

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デブとイケメンの日替わり物語 水源+α @hikarea6250

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