ヒイロミステリヰ

困難人形

第壱話 洋館のお姫様

 「…駄作ね」

 酒と葉巻のにおいが充満している部屋に、透き通るような女性の声が響く。いや、見た目だけなら、少女というべきか。

 「稚拙な文章と内容ね。時間の無駄だったわ」

 どうやら、読んでいた本が気に入らなかったらしい。読み終わった本を机に置き、グラスに酒を注いだ。彼女の容姿だけを知っている者が見たら、少女が酒を注いで飲んでいるという、とんでもない描写に見えてしまうだろう。

 「ん…今は何時かしら」

 飲み干したグラスを机に置き、懐から懐中時計を取り出し、時刻を確かめる。懐中時計は、6時を指していた。ふと、窓に視線を向けると、カーテンの隙間から遠くの空が明るくなっているのが見えた。

 「さてと…今日はどんな一日になるかな」

 そう呟いた彼女は、3日ぶりに書斎から出た。書斎から出る扉を開けると、見慣れた長身の男が立っていた。

 「やあ、姫。やっとお目覚めかい?」

 優しい顔をした男がそう尋ねると、彼女は無表情で言った。

 「お腹が空いたから、ご飯が食べたいわ」

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