始まり

 入学式当日。センカは寮生活での不自由と負担を軽減するため自分に就けられたメイド『ユリア』と共に学校へ向かっていた。

「へぇ~…ここが『グラス学園』かぁ…。」

屋敷を出て小一時間ほどユリアと他愛もない話をしながら歩くと、大きな時計台を中心に並んだ校舎が見えてきた。

外見は大半が薄茶色で地味だが、外からでもわかる丁寧で整った塗り。なんだか人目を引くような雰囲気がある。

気が付けば自分と同じように使用人を連れた子供の姿がちらほら見え始めていたが、手に何かを持っている子供は見当たらない。

「やっぱりみんな自分では荷物を持たないんだな…。」

センカは背筋を伸ばし、ユリアにのみ聞こえるような声で話しかける。ユリアは腰から身体をセンカの方へ曲げ、同じく小さな声で。

「えぇ、そうですね。使用人としてお供させて頂いている以上、ご主人様の荷物を持つのは当然ですから。」

「そういうもんか…。」

「はい。」

屋敷を出発する際、荷物を持ってもらうという行為が子ども扱いされているようで他の生徒に見られたくないことから自分で持つと言っていたセンカだったが、ユリアも自分の立場があるからかセンカには何一つ荷物を持たせようとはしなかった。

生まれつきこの生活が当たり前の人間からしたら特段気にすることでもないのだが、センカは前世の記憶がある。

そこまで重くはない荷物とはいえ、女性に荷物を持たせて自分は何も持たない状況に若干負い目を感じていた。だが無理に荷物を持っても目立ってしまう上、ユリアへの視線も異様なものになるだろう。ここは大人しくユリアに荷物を任せたまま校舎の門を通る事にした。

 校舎へ入ると自分の靴箱がすでに用意されており、中には室内用の靴が入っていた。

念のため上靴を取り出してユリアに目を向けると、ユリアは肩にかけていた大きなカバンから自分の上靴を取り出しながらも、センカに気づき笑みで返す。その反応をうけセンカは靴を脱ぎ、上靴へ履き替えて入学式が開催される体育館へ足を運ぶ。

体育館前方にはそれぞれ名札のついている椅子が並び、後方には『来訪者用』という紙が貼られた看板が立てられている。

ユリアはセンカの席を探し出し、その場まで案内すると一礼して後方へと歩いて行った。

とても広い体育館には席は一つ一つの間が一メートルほど開けられており、入学式というのに席は全てで三十席ほどしかない。

まだまだ開始予定時刻から二十分ほどあるが、全席は埋まり皆背筋を伸ばして涼しい顔で前を向いている。

(本当に坊ちゃん嬢ちゃんの学校って感じだな。体勢を維持するの割ときついし、早く始まってくれ…。)

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異世界で楽々無双する物語は嫌いだった。 てすたねっと @examer

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