誕生

ーーーオギャアッ、オギャアッ、オギャアッーーー

 (…なんだ、このうるさい音は。赤ん坊の泣き声…か…?)

 先ほどまで続いていた一つの声と静寂から一転、宇治の頭の中にはとても大きな産声と複数人の騒めきが響いていた。未だ身体と意識がふわふわと浮かび続けるような浮遊感が残っているが、何とか意識を引き戻し重い瞼を上げる。暗闇だった宇治の世界にとても強い光が差し込み、そのまぶしさに再び目を閉じたくなる衝動を抑え薄目で瞳を動かす。ぼやけた視界にはこちらを笑顔で覗き見る女性と男性、そして従者らしき人物数名と見慣れぬ天井が映った。感覚が徐々にはっきりとしていき、自分の口が空気を求めて鳴いていることに気づく。

(ん…?え、おいおい待ってくれ…。一体どういうこと…。)

 未だハッキリとしない意識で混乱する中、宇治の頭に一つの声が断片的に想起される。


ーーー君………。可哀…………世…転生……チート……………。…好感………ずっと……カラ…。---


(そうか…俺はあの時死んだのか…。まさか本当に異世界に…。)

 少しづつ脳が覚め、自分の置かれた状況を確信する。これは異世界転生というものだと。

宇治水沙は無事、『センカ・シュライデン』という名を得て異世界へ乳児として転生したのだ。

(異世界か…。よっしゃあああああああ!!! まさか本当にあるなんて信じられねぇ! でも母さんたちにも悪いことしたな…。……まあ死んじまったんならもうどうしようもない。よくわからんがなんかチートどうこう言ってたのも覚えてる。転生者は何かしらすごい能力があるのがお約束だもんな!! 赤ん坊からってのはあんまり親切ではないけど、ぽっと出の冒険者が突然無双し出しても不自然か。これから俺の異世界ライフが待ってる!)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 転生してから早五年、センカはこの世界への理解度もある程度深まってきた。

この世界には人間種・魔族・魔獣系と大きく分けて三つの種族が生息している。

人間種は生まれつきある程度のステータスを持っており、七歳になる頃には初期レベルでのステータスが確定される。

それ以外には肉体の成長や戦闘経験、日々の鍛錬などによってステータスを向上させ、魔族のモンスターや魔獣を倒すことによって経験値を得てレベルを上げる。

レベルが上がることによって習得できるスキルが解放される。スキルや魔法、特技などは生まれつき持っている者もいるが学や修行によって後天的に身につけられるスキルが大半だ。だがステータスなどの関係から、スキルにも一人一人に向き不向きがある。

それ故にステータスが高いだけでは強さは測れず、逆にステータスは微妙でも魔法やスキル、特技等で強力なものを使えれば強い戦士となることも可能だ。

魔獣や魔族は最初からステータスがその個体の最大値で生まれ、それ以外は人間と同じくスキルや技術で自己強化をする。

建物や町の作りはまさに異世界といったもので、昔のヨーロッパ文化であるケルト風のものだった。簡単に言えばMMOゲームの世界観。

 宇治が生まれた家『シュライデン』家は代々、それこそチート級の能力やとても高いステータス、強力な魔法などを持って生まれてきたという。

当然、宇治も大きな期待を向けられていた。生まれてから最高級の食事、育児、学環境、教育と何不自由ない暮らしを与えられ、周りの大人や屋敷の使用人にも宝のように扱われ育ってきた。

前世では平凡な生き方をしていた宇治には当然このような待遇を受けたことはなく、その期待に若干の重みはあったものの『転生者』という特別な立場にいることから焦りや戸惑いは沸いてこなかった。むしろこれからの輝かしい未来に胸を躍らせるほどで。

 一歳の頃から剣術、魔術、体術、弓術、盾術のすべてを一流の戦士に指導され続け、センカは五歳の有名な家の子供のみが通える名門の戦士学校に入学することとなった。

その名は『グラス学園』。この世界に生きる者なら誰もが知っていると言っても過言ではない認知度。

この学校は専用の寮があり、生徒はそこで寝泊まりをすることになっている。そういった規則上、子供に使用人をつけて一緒に寮に住ませるというところもある。

流石は指折りの学校に通う坊ちゃん嬢ちゃんといったところか。当然センカにもメイドがつくことになっている。

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