ソーカル事件

 そして発表者たるMJ―12は、ジョンが予想した通りの話をしたのだった。


「いや単細胞生物どころか、それより遥かに複雑な構造である多細胞生物で知的生命体たる我々人間が現実にこうして誕生しています。

 つまり、ボーイング747よりもずっと複雑な構造の物体が宇宙で自然発生していても不思議はないはずで、ましてや旅客機などより圧倒的に単純な構造である人形など、それこそもっと簡単に自然が偶然に造り上げられるはずなのです」


 そこでひと息吸い、彼は自信を持って断言したのだった。


「ですから、ロズウェル事件で墜落したあの人形は、宇宙で自然に誕生したものと考えればいいのですよ。それが、隕石のように落ちてきただけなのです」


 このバカげた推理を結論とすることに、MJ―12は全会一致で同意した。

 彼らは、落ちてきたのは確かに気球と人形なのだからある意味嘘も付いていないことになると喜び、軍部にはフレッド・ホイルの説は省いて、改めて例のUFOの正体は気球と人形で間違いないとだけ告げ、軍はそれを信じて結論とし、1997年に再び公式見解として発表したのである。そしてそれを聞いた異星人や政府の陰謀を信じる人々は、相変わらず疑念を持ったままで、陰謀論を結論としたままだった。


 おかしな話だ。


 あのときあの場所で起きたロズウェル事件は一つなのに、結論が複数あるのだから。少なくとも一つ以外は間違っているはずで、もしかしたらまだ真実は明らかにさえなっていないかもしれないのだ。しかし、彼らはそれぞれが辿り着いたものを結論としたのだった。


 この物語にしても、数多あるロズウェル事件の真相について述べられた証言のうち、あくまでジョン・スミスが辿り着いたと主張するものに過ぎない。


 ――ソーカル事件というものがある。1994年、物理学教授アラン・ソーカルは、当時最も人気のあった評論雑誌の一つにある論文を投稿した。その論文は受諾され、雑誌にそのまま掲載された。

 ところがソーカルはここで驚くべき発表をする。実はその論文は、彼が自身の知識を駆使し、難しい言葉を並べ立てて説得力があるように見せ掛けただけのでたらめに過ぎず、評論家がそれを見抜けるかどうか試すために書かれたものだったのだ。

 結局、評論家たちは見事に騙され、ソーカルは彼らが難解な言葉を理解しないまま用いていることを証明したのだった。


 フレッド・ホイルは生物学の専門家ではなく、ジョンもそうだった。ホイルの理論は、進化論の断続平衡説で反論が可能だという。


 一方ジョンは、神を信じるようになった。

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ロズウェル事件驚愕の真相 碧美安紗奈 @aoasa

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