第14戦 ブランク

ブランクがやばい。


入部初日。俺が思ったことである。


ボールが足に馴染まない、長年のブランクによる動きのキレのなさ、全てにおいて技術が劣っていた。


「秀。だいぶブランク効いてるな。動きがとろいぜ」


3対3のミニゲームが終了し、休憩中に声をかけてきたのは久本。中学時代、こいつのパスから何点取ったか数えきれない。そんなサッカー内での相棒だからこそ、気づいたのか。


「仕方ねぇだろ。1年ちょっとやってないんだ」


「まぁ、それもそうか」


微笑で答える久本。久本は中学時代と比べものにならないほど上達していた。パスの質、速さ、全てにおいて中学時代より上手い。1年間でこれだけの差が出てしまうのか。


しかし、もっと酷いのは技術面より体力面である。


サッカーどころか運動すら疎かにしていた俺は体力の消費が激しい。

30分、走っただけですぐ息が上がってしまう。


厳しい、かもな。

これから練習しないと他のメンバーと離されるだけだ。

俺は重い体をうんと起こし、立ち上がる。


「ちょっと俺、走ってくるわ」


それを聞いた久本は少し嬉しそうにニヤッと笑った。


「おう、いってら」


俺はその言葉に微笑で返し、グラウンドに足を向けた。


◆◇◆◇


帰路。

久々の運動で心地よ…くはない感覚が体に感じる。

初夏の少し暖かい風が、俺を包み込んでいく。

まだ微かに残る夕日に照らされながら、俺は1人で帰っていた。

はずだった。


「お疲れ様!北山くん!」


こいつがいなければ。


「……なんでお前がいるんだよ」


「いや、一緒に帰りたかったから…かな?」


俺の隣で上目遣いで見つめるのは桜井三咲。

破壊力のあるその目は極力見ないようにしている。


「はっ、そうですか。嬉しいなー」


「超棒読みじゃん!」


俺の渾身の棒読みにぷんすか怒る桜井。

現在は18時半すぎ。

恋愛相談部の活動時間は17時半までのはず。

わざわざ1時間も待ってくれたわけか。

こいつといるとつくづく罪悪感に見舞われる。

まぁ、だからといって付き合う訳にはいかないけど。

まだ、若奈との決着がついてないからな。

でも、待ってくれてたお礼くらいは言わないとな。


「…ありがとな。桜井」


「え!?あっ!ど、どうも……」


俺の急なありがとうにわたわたする桜井。

言葉尻が小さくなって、最後の方は聞こえない。

うつむく桜井の顔は恥ずかしさか、照れなのか真っ赤である。

こっちまで照れくさくなるのでやめて欲しい。

俺は、話を変えるため桜井にある事を尋ねる。


「そういえば、なんでサッカー部の先生と話してたんだ?」


そう。

桜井は俺たちが練習している時、サッカー部の顧問と長々と話していた。

そのせいか、今日のサッカー部の連中はそっちに目がいって集中力が欠けていた。

まぁ、学園一の美少女だしな。

その学園一の美少女は先程の照れはどこへやら、いじらしい笑みを浮かべて答えた。


「ふふっ、内緒!」


「んだよ。なんか大事な用なのか?」


「ひ・み・つ!」


「うぜぇ…」


ニマニマと口を緩ませる桜井。

こういうときは大概、ろくなことがない。

何か仕掛けてくる時の顔だ。

俺は心の中で警戒心を高めておいた。

それより、今の状況。

意識してなかったがなぜこいつと一緒に帰ってるんだ?


「てか、なんで俺たち一緒に帰ってんの?」


「え、今ごろ?」


「こんなのごめんだ!先帰るぜ!」


「あ!ちょっ!待て!」


全力で駆け出す俺を追いかけてくる桜井。

足は速い自信はあるのでその差は広がっていく。

まぁいくら離してもどうせ駅で合流するんだけどな。



結局、本日も一緒に帰る羽目になりました。

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全力で落としにくる学園の女神に俺は全力で対抗します ななし @nanashi_39

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