第13戦 再帰、光明カルテット
俺は部室を出たその足でグラウンドへ向かっていた。
理由は簡単。
入部するためである。
そのためにはとりあえず顧問とキャプテンに話をしなければいけない。
とはいえ、おそらく顔パスでいけると思うが。
俺は靴を履き替えて外へ出る。
出たその目の前にはグラウンド。
野球部の掛け声や陸上部の足音などで賑わっている。
そんなグラウンドの半分を占めている部活。
それがサッカー部である。
私立東院学園サッカー部は強豪とは言えないが、だからと言って弱いわけではないごく普通のサッカー部。
強豪校である野球部に比べれば知名度は地の底に落ちているが、ちょこちょこ県大会の上位にはくい込んでくる。
だが、今年は光明カルテットの3人が入部したことで、その名を一気に馳せている高校である。
以上、東院サッカー部の説明でした。
とりあえず顧問と話をつけることにする。
グラウンドをぐるっと見渡すと、部員を集めて何やら指示を出している人を発見した。
そのメンバーに澤田の顔もあるのでおそらくあの人が顧問であろう。
俺が歩きながらその集団に近づいていると、澤田と目が合った。
「ぷふっ」
「……ちっ」
あの野郎。俺の様子を見て笑いやがった。
あとでしばいてやろう。
俺は部員が解散したタイミングを図り、顧問に声をかけた。
「あの〜すいません。サッカー部の顧問の先生で間違いないですか?」
その声を聞いた顧問は振り返り、俺の顔を見た。20代後半ぐらいの男性で、ガタイがいい。その顧問は驚愕の表情を浮かべて、俺にズカズカと歩み寄ってきた。
「もしかして君が北山くんか!?」
少々興奮気味な顧問。
それもそのはず、俺はサッカー界ではかなりの有名人だからな。
俺の目の前で立ち止まった顧問に、俺は返事をする。
「はい。入部希望です」
「ほんとか!?」
驚きすぎて嘘かどうか疑う顧問。
大丈夫かよこの人。
俺は苦笑しながら返す。
「嘘なんてつきませんよ」
「ははっ、そうかそうか!話は澤田から聞いてるぞ!」
なんだよ。あいつ話してたのかよ。
俺はふと澤田を見ると、親指を立ててウインクしてる。
なんかムカつくからぶっ飛ばしたい。
「入部はもちろんオーケーだ!これからよろしく頼むよ!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そして、俺が澤田を睨んでいる間に、勝手に入部が決まった。
やっぱり顔パスで大丈夫だった。
◇◆◇◆
サッカー部員たちが全員揃って目をキラキラさせて見ている。
「えー新入部員の北山です。よろしくお願いします」
俺の挨拶を聞いた部員達は、それぞれに返事を返してきた。
俺の耳に入ってくるものといえば
『よろしくー!』
やら
『こちらこそよろしくお願いします!』
やら
『想い人のために頑張るねぇ!』
やら。
っておい。
「おい澤田。蹴るぞ」
「あれぇ?新入部員がそんなこと言っていいのか痛いッ!」
俺は横で俺を煽っていた澤田に蹴りを入れる。
普通なら「新入部員が何してんの?」ってなる流れだが、俺はあいにく有名人。逆に澤田が部員達に睨まれている。同じ光明カルテットなのにこの差よ。
そんなやり取りをしていると、キャプテンらしき人が前に出てきた。
「俺はキャプテンの森下優希。君の話はよく知ってるよ。じゃんじゃん点とってくれよ!」
この優しいイケメンがキャプテンか。
絶対モテるなこいつ。
「1年やってないんでそんな取れるかわかんないですけどよろしくお願いします」
俺はキャプテンに挨拶をする。
キャプテンはにっこり笑顔で微笑む。
元々かっこいい顔がさらにイケメンじみて眩しい。
キャプテンが引っ込むと、入れ替わるように2人の部員が出てきた。
「よっ、久しぶりだな。秀」
「1年寂しかったんだからな!」
その人物は、光明カルテットの久本と河野。
懐かしい顔を見て、俺も思わずテンションが上がる。
「お前ら!久しぶりじゃないか!」
「お前がサッカーやめた時はびっくりしたよ」
「あははーっ悪い悪い!」
「まぁ戻ってきたから文句は言わねぇよ!」
「おう!ありがとな!河野」
にひひと笑う久本と河野。
一昔を思い出しながら話す俺たち。
あの時から戻ってきたんだな、
俺はそんなことを思い、共に微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます