第12戦 退部届
俺がサッカーの再開を誓ったその日の放課後、俺はいつもの部室へ向かう。
理由は2つ。
俺が退部することの報告と、部長の後釜を決めることである。
俺が辞めると言い出したらあいつら、多分驚くだろうな。
でも、あいつらなら恋愛相談部も何とかなるだろ。
なんだかんだであいつら3人は仲がいいし、お互い協力し合いながらこの部活を盛り上げて欲しいものだ。
俺はそんなことを考えながら、
部室の扉を開く。
そして、そのまま言い放つ。
「おいお前ら、ちょっと話があ…え?」
が、俺のその言葉は目の前の事態によって阻まれた。
その俺の目の前には、
俺の席に座った桜井三咲がいた。
そして、それを見守る部員。
……どうしてこうなっている。
俺は困惑しながら言う。
「おい桜井。お前なんでここにいんだよ」
すると桜井は指をピンと立て、笑顔でその問いに答えた。
「私、この部活に入部しました!」
「………は?」
なに?
桜井が恋愛相談部に入部した?
んなバカな。どうしてわざわざ入部したんだこいつ。
俺は考え込む。
その答えはすぐに出てきた。
「お前あれか。俺がここで部活やってるから来たのか」
「う、うん!そうだよ…」
「「「ちっ」」」
照れながらも明るく答える桜井と、嫉妬の目線を浴びせる部員。
その恥じらい、ちょっとこっちも照れるのでやめていただきたい。
あとお前ら。怖いから睨むのやめ。
そんなことよりもだ。
桜井が恋愛相談部に入部か。
そんなことされたら本当にこの部活には居られなくなったな。掛け持ちという形でこの部活は続けられたらラッキーとかちょっと思っていたが、これは完全に退部だな。
となると桜井が入部したことは割といい事だな。部員3人だと、部長を誰がやるかで揉めるかもしれんかったが、部長を桜井に押し付ければ部員も文句を言わぬまい。
これで安心して退部できる。
俺はその趣を伝えるべく、口を開いた。
「桜井。せっかく部活に入ってくれたんだが残念ながら俺は退部させていただく」
「「「はぁ?」」」「え?」
それを聞いた部員達は目を見開いて俺を凝視しており、当の桜井は驚いた表情をしていた。
やっぱりみんなびっくりしたか。
俺はそのまま続ける。
「いやこれにはちょっとしたわけがあってよ。俺、小中とサッカーやってきてたんだよ。それで最近、ちょっとした事件があって、また続けることになったんだ」
「「「へ?」」」
すると、部員は目を点にしてキョトンとしている。
そして桜井は、なぜか少し嬉しそうな表情をしている。
ほんとになんでだ。そこは悲しむとこじゃねぇのか?
まぁいい。続けよう。
「ということで俺はサッカー部にこれから入部するわけだが、このまま俺が辞めると部長がいなくなってしまう。そこでだ。次期恋愛相談部長を決めないといけない訳だがその役は桜井にやっていただきたい」
「「「了解!」」」「え?」
部員たちは桜井部長案に満更でもない様子で元気よく返事する。俺が部長辞めるって言うのにこいつら何も悲しくないのかよ。
当の桜井はキョトンとしている。
その桜井に俺は確認をとる。
と言っても断る理由もないだろ。
「桜井、お願いしてもいいか?」
すると桜井は
その俺の考えとは反した発言をした。
「あんまりやりたくない…かな?」
桜井は微妙な顔をして桜井部長案を却下した。
なんでだ?俺の後釜に座れるんだぞ。
「どうしてだ?」
俺はその訳を問うと、桜井は少し頬を赤くして答えた。
「北山くんがいないなら、やる必要ないから…」
「お、おう。そうか」
「だから、私も部活辞めようかな…」
「「「えぇ!?」」」
桜井の直球の答えに少し動揺する俺。
そして、辞める宣言でドギマギする部員たち。
てかこの人恥ずかしくないのかね。
そんなストレートに好意を示して。
いや恥ずかしいから顔赤くなってんのか。
それはそうと、最大の望みである桜井に部長を拒否られてしまった。
どうしようか。
まぁあいつらの誰かに任せるんだけど。
「んじゃお前らの中で1人、部長決めとけよ」
そう言って俺は扉に向かう。
もうこれ以上いる必要はないからな。
「ちょっ!待ってください部長!」
「もう部長じゃねぇよ」
「勝手に話進めないでください!」
「知らねぇ。頑張れ」
「部長なら俺がやりますよ!」
「頼んだぞ後輩」
「「ちょっと待て!俺がやる!」」
最後の最後まで騒がしい部員の声を聞きながら、俺は笑いながら部室から出た。
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