第11戦 伝説のストライカーと幼馴染
その当時、
光明カルテットと呼ばれるものがあった。
光明中学のサッカー部の中心選手4人。
県選抜にも選ばれた4人が創り上げた光明中学サッカー部の全盛期である。
中学サッカー界の司令塔、久本悠翔。
最強のディフェンダー、澤田一成。
全てを置き去りにする、河野光輝。
そして、
日本のメッシこと、北山秀。
この4人の精鋭達の活躍で光明中学は初の県大会決勝まで勝ち上がった。
その決勝戦。
光明中学はPK戦の末、敗れた。
お互い5回ずつ蹴るPK戦。
その最後、
5回目に外したのは、
最強のストライカー、北山秀。
しかし、彼はその日2ゴールをあげている。
何も恥ずべきことでもない。
むしろ、彼がいたからPK戦までもつれこめたのだ。
だから、何も恥ずべきことはないのだ。
なのに、
高校に上がった途端、
彼の名前はサッカー界から姿を消した。
光明カルテットの4人は偶然なのか、同じ東院学園に進学した。
光明カルテットならぬ、
東院カルテットが誕生すると、サッカー界では話題になった。
しかし、
彼が名前を消したことにより、
光明カルテットは東院トリオに名を変えた。
彼の消息はいろいろな噂がある。
『あのPK戦でメンタルを痛めた』
やら
『本当はどこか怪我をしていて、怪我が限界に達したから』
など、ありとあらゆる噂がされている。
しかし、
彼の本当の理由は今でも分からないままである。
今彼が、どこで何をしているのか。
それは誰も知る由もない。
週間サッカー誌、『至宝の在り処』
◆◇◆◇
「なるほどな……」
「これ読んで思い出したんだよ」
澤田が質問と同時に出してきた週刊誌。
そこには一昔前の俺の記事があった。
確かに俺はこの雑誌の通り、光明カルテットと呼ばれる逸材の1人であった。
それも、とびきりずば抜けて。
「お前が本当にPK外しただけでやめるとは思えないんだよなぁ」
決勝戦でPKを外したからやめたというのは嘘ではない。
あの日、
俺はサッカーに対してトラウマを負った。
光明四銃士であるプレッシャーと、
あの外した時の絶望は、
もう二度と味わいたくなかった。
だから、サッカーをやめた。
それは半分正解だ。
しかし、
もう半分は違う。
それは至極単純で、
理由もクソもなくて、
俺がサッカーをしていた目的、
それを失ったから。
俺がサッカーをしていた目的。
それは
ただ一つ。
「若奈だよ…」
「まぁ、そうだと思ったわ」
あの日の後、
俺は若奈から転校を告げられた。
そして俺は、
冬のインターハイを残して、
サッカー部から去った。
俺は若奈のためにサッカーをしていた。
『サッカーできる男の子ってかっこいいよね!』
そんな幼い頃の一言で、
俺はサッカーにのめり込んだ。
社交辞令かもしれない。
そんなこと思ってもなかったかもしれない。
それでも、
俺はそれだけでサッカーを続けてきた。
しかし、
疎遠と共に、それを失った。
目的を無くした。
だから俺は、
サッカーをやめた。
ただ、それだけだ。
澤田は言う。
「お前は若奈のためにサッカーをしていたんだろ?」
「あぁ。若奈がいたから俺はサッカーをしていた」
すると澤田は口をニヤッとさせて言った。
「なら、お前は、今でも若奈が望んでいればサッカーをするってことだよな」
「…………………は?」
「だから、若奈がお前に今もサッカーして欲しいって言えば、お前はサッカーするのか?」
こいつは何を言っているんだ。
もう若奈はいないだろう。
東京で高校生活送っているだろ。
でも俺は、
もしこの学校に若奈がいたら、
サッカーを続けていただろうか。
振られた今でも、
サッカーをしていたのだろうか。
その答えは
「分からん」
「まぁそうか。でもよ、若奈はお前にサッカー続けて欲しいだとよ」
なんで今、若奈が出てきた?
だいたい、若奈は俺の事振ったんだぞ。
なのに、どうして俺に続けろって言うんだよ。
おかしいだろうが。
「………どうしてだ」
「その答えは、これだよ。北山」
そう言って澤田は、スマホの画面を指さして見せてきた。
そこにはひとつのメッセージ。
その送信主は
「なんでお前、若奈と連絡とってんだよ」
「一応、光明サッカー部のマネだから連絡先くらいは知ってるさ」
「ちっ」
そして俺は、
そのメッセージを読む。
『北山くんに伝えといて欲しい』
なら、直接連絡しろや。
あれからメール一通も送らないんじゃなくてよ。
そして俺は、
メッセージを読む。
『私が振った理由、あんたがサッカーやめたからだよ。私がいなくなった途端、インハイ残してサッカー部やめたよね。だから私が帰省した春、あなたを振ったのよ。最後の大会だというのに私がいなくなったからって勝手にやめて、他のメンバーに全て押し付けて。あなたのそうゆうところが嫌いだったのよ。自分勝手で、私利私欲で動いて。本気で全国目指していた彼らはなんだったのよ!ふざけるんじゃないわよ。悔しかったら今からでもサッカー始めて全国にでも出てみなさいよ!そしたら話聞いてあげるから。それだけ』
「…………………」
んだよ。
お前のためにサッカーしてたのによ。
なんで俺が怒られてんだよ。
全ての責任を押し付けた他のメンバーも悪いだろうが。
だいたい、
俺が本気で全国目指してなかったとでも言いたいのかこいつは。
何が私利私欲で自分勝手だ。
そんなやつはサッカー出来ねぇつーの。
ちっ、だんだん腹立ってきた。
そこまで言うならいいだろう。
やってやろうじゃねぇか!
澤田が尋ねる。
その口は、既に緩んでいる。
「どうだよ?サッカーやるのか?」
俺は、
キレ散らかしながら、
答えた。
「なんだあいつ!俺の事ボロカスいいやがって!なんだと思ってんだ!俺だって全国目指してたわこのクソアマァ!そこまで言うなら全国出ててめぇに一言文句言ってやらぁ!」
「あっははー!んじゃ決まりだな!」
笑う澤田と歩きながら、
俺はサッカーを続けると、
心の中で、誓った。
幼馴染回は以上です。
次回からは三咲ちゃんが出てきます。
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