第17話 春、高く飛べ!
それから宇佐木は自分の生い立ちを話してくれた。彼の父親はハルだった。隠し子って奴だそうだ。母親はとても綺麗な人でハルを心から愛していた。そんな宇佐木がハルと初めて会ったのが6歳の冬。つまり俺がハルに出会った後って事だ。
初めて会う父親はいつも音楽の話ばかりする人だったが、今まで会えなかった分の愛情をたっぷり注いでくれたそうだ。だが、そんな楽しい時間はほんの少しだけだった。
ハルがコンサートで全国ツアーの準備に取り掛かる為、会えなくなると言われた。まだ小さく幼い宇佐木はそれがどうしても嫌でハルに行かないでと駄々をこねたらしい。
小さい子供が親と離れなくないと思うのは当然だろう。それでもハルは世界で活躍する人間だ。一緒にいられる時間は少ない。それに加えて隠し子だ。世間に知られればマスコミが黙っていないだろう。こんな事もあり、ハルが家族と入れたのはほんの数日だけだった。
別れの日、玄関を出て行ったハルを追いかけ、母親の静止も聴かず外へ飛び出した。
それが悲劇の始まりだ。
飛び出した先は車の量が多い道路。ハルしか見えていない宇佐木は横からやってくる車両に気付く事が出来なかった。それに気がついたハルがとっさに宇佐木を庇い車に轢かれてしまったそうだ。だが、隠し子を守って死んだなんて世間に発表すれば宇佐木と母親は酷い罵声を浴びされると考え、ハルは自殺と発表する事になった。
目の前に血塗れになったハルを自分が殺してしまったと思い込んだ宇佐木はそれ以降喋る事が出来なくなり、母親との関係も悪くなっていき、しまいに母親は宇佐木の目の前で自殺したと言う。
両親の死は自分のせいだとずっと苦しんでいた宇佐木はケンに引き取られ、ハルの事を教えてもらったそうだ。その中で俺の事を知り、俺とハルの約束の事も知ったそうだ。
俺は全く知らなかったが、俺とハルの過ごしたスタジオの風景はずっと動画に撮られていたらしく、今もケンが大事に保管しているそうだ。
宇佐木はその動画を見て、ハルをよく知る俺に会いたいと転校してきたそうだ。転校初日、俺の声を聞いた途端、何故が声が出るようになったと言う。でも俺は誰も近づかせないオーラを纏っていて、話かけにくく、ハルのフリをして俺に近づいたそうだ。
「俺達の出会いは奇跡じゃない。運命だ。俺達は2人で一人前なんだ。だからこれからどんなに辛い事があっても俺達は2人で乗り越えて行こう。」
半年後、、。
「今日は待ちに待った初ライブだ。やっと揃ったメンバー4人。俺達の門出だ。ここから始めよう。」
「これは俺達の始まりの曲です。聞いてください。」
春、高く飛べ!
昔春が俺に言った。お前は孤独だと
俺なら走って行けると思ってた
檻も柵も全て飛び越えた、トゲの刺さった素足で
1人走って走って走った、先は罠だとも知らずに
ただ堕ちていく俺は冬の中、
超えられない春を見上げる
立ち上がって、立ち止まるなよ
君とした約束だってまだ残ってるから
上を向いて、睨み続けろ
まだ終わった訳じゃないんだから
希望の中にきっときっと俺だけの道があるはずだ
夜明けの風を待つ。いつ吹くかも分からず
飛び上がることはないと思ってた
闇も夜も全てブチ壊した、君の声は何処にもない
2人踠いて踠いて踠いた、声と耳を無くしたまま
剣も魔法も使えない俺達は、
傷ついた脚で立ち向かう
命散らして、叫び続けろ
思ったより人生は短いから
諦めるな、挑み続ける
バカな俺達が唯一出来ること
走っていればいつかいつか楽しくなるはずだ
窓の外パラパラと散っていく桜は緑に染まる
手を伸ばすあの頃の小さい怪物のままで
今度こそ飛ぶんだ、さぁ夏を迎えに行こう
辛くても、傷が癒なくたって
足が動くならどこにでも行ける
立ち上がって、立ち止まるなよ
君とした約束だってまだ残ってるから
上を向いて、睨み続けろ
まだ終わった訳じゃないんだから
希望の中にきっときっと俺達の道があるはずだ
翼がなくたって超えていけると信じて
天国で聴いてるんだろハル。超えてくぞ、俺とハルカはもう大丈夫だ。
春、高く飛べ! 穂村ミシイ @homuramishii
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