第16話 最初の仲間

「ここか、、。」


 俺が向かったのは北海道小樽市の1番端っこ。当たり前だが、寒い。4月も中旬なのにまだまだ寒さが残っている。そんな俺は今、小さなライブハウスの前にいる。


 『RUN UP』

 この店はハルのバンドメンバーだったケンが運営している小樽で有名なライブハウスだそうだ。アポなんてとっていないが、運がいい。今日はライブがあるみたいだ。呼吸を整え、中に入る。 


「ケンさん、久しぶりです!」

「ん?白飛か?久しぶりだなー。来る頃だと思ってたよ。」


 久しぶりに会うケンさんは昔とあまり変わらない。Top Runnerのリーダーだったケンさんに会うのはハルの葬式以来なのだが、俺に気が付いてくれてよかったと内心ホッとした。


「俺が来る事は言ってなかったのになんで来る頃って言ったんだ?」

「だって急にハルカが帰って来たからな。理由は聴いてないが、ハルと似てる白飛なら絶対に押しかけてくるって思ってたから。」


 ケンさんは暖かく笑って俺を迎え入れてくれた。


「あはは。それで宇佐木は?何処にいる?」

「あーー、この2階があいつの部屋なんだが、出て来なくってなー。俺も手を焼いてるんだよ。」

「俺が行っても良いですか?」

「あー、その裏から2階に上がれるから行ってこい。」


 ありがとうとお礼をして早々に2階に駆け上がった。2階には2つ部屋があり、1つにハルカと言う表札がかかっていた。俺は何の躊躇いもなくドアノブを回して部屋に入った。


「宇佐木、久しぶりだな。」 


 急に入ってきた俺に宇佐木は驚いて固まっていた。まあ、無理もないだろう。でも好都合だ。


「宇佐木、俺のバンドに入れ。俺と一緒に音楽をしよう。お前の書いた歌詞に曲を付けたんだ。これはお前が歌え。バンドはツインボーカルでいく。お前の担当はキーボードな。」


 どんどん話を進める俺に宇佐木は慌ててノートとペンを探している。俺はそんな宇佐木の手を掴んで行動を阻止した。


「今更だろ。分かってんだ。お前は俺となら、喋れるだろ。最初からそうだっただろ。今からノートもペンも要らない。」 


 俺の言葉に宇佐木は目を見開いて口をパクパクさせて暴れている。


「だから、気付いてたんだって、俺は。お前の中にハルなんて最初からいなかった事に!」


 俺の言葉に暴れていた宇佐木は固まって目がこれでもかってぐらい見開いた。


「確かにお前の声はハルによく似てた。でもやっぱり違うんだよ。お前はお前だ。ハルになんかなれない。」

「な、、んで。」


 恐る恐る、小さな声を出し始めた宇佐木。目には大粒の涙が溢れていく。


「最初は分からんかったけど、学校の屋上でお前が歌ったのを聴いて確信した。凄い困惑したし、戸惑った。けど、お前が残した歌詞を見てそれ以上に苦しんでる宇佐木がいるって知った。お前が俺にギターの音を取り戻させてくれたみたいに俺も宇佐木の支えになりたい。」

「僕は、、。白飛君を騙してたんだ。それに僕はハルさんを殺したんだ。許させる訳がない。」


 涙を必死に堪えてポツリポツリと言葉を紡ぐ宇佐木。


「弦が切れたならまた新しい弦を張ればいい。そう言ったのはお前だ!過去に囚われなくて良いって言ったのはお前だろ!だったらお前も前を向けよ!お前が歩けないなら俺が支えてやる。ちゃんと前を向けるまでずっと一緒にいてやるから、俺と一緒にバンドをしよう。」


「い、いの?僕は、、。」

「宇佐木が良い!俺はお前が良い!」


「あ、りが、とう。」

大粒の涙をボロボロ溢しながら宇佐木はいつものように笑った。

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