猫とゲームと紙飛行機

ケイト

猫とゲームと紙飛行機

午後5時32分。

四畳半の部屋に響き渡る銃声とコントローラーの音。

「よし、あとはこいつを倒せば…」

うだるような熱を振り撒き続ける夏が終わりを告げつつあるような季節の中、青年は液晶画面の兵士を操ることに熱中していた。

やがて画面に「STAGE CLEAR‼︎」の文字が並ぶと、彼の体から力が抜けていき、手にしていたコントローラーに汗が滲んでいることに気がついた。

そのままコントローラーを足元に置き、近くにあった炭酸のペットボトルを手に取る。画面上では次のステージへのカウントダウンが始まっていた。

青年は急いで水分を取ろうとする。開けた瞬間、全く音がしないことに一瞬顔を顰めた後、容器内の液体を全て喉の奥に流し込んだ。

そして再び画面に向かおうとしたその時、彼の胸に向かって飛びかかる小さな姿が一匹。彼はそのまま驚いて後ろに倒れる。

「おい、コル」

もちろんその言葉が伝わるはずもなく、小さな乱入者は青年の胸の上で丸まってしまった。彼は動くことも出来ず、そのままの姿勢で固まってしまった。やがてテレビから聞こえてくる銃声と兵士の絶叫で、青年はもう手遅れであることに気づき、思わずため息を吐く。

それを聞いた胸の上の小さな姿は、ぴょんと飛んで彼の体から降り、みゃあと鳴いた。

「邪魔しにきただけじゃんキミ…」

青年はジト目を向けるが、やがてその背中を撫で始めた。


背中を撫でるのにも飽きた頃、思わず彼の目に映ったのは先日大学から送られてきた成績表。またしてもため息が溢れる。やがて青年はそれを手に取ると、机の上で折り始めた。小さな二つの瞳がそれを不思議そうに眺めている。紙飛行機が完成すると、それを手に持って四畳半の部屋を出る。彼の小さな友人も後ろからついてくる。アパートの廊下に出ると、青年は手に持つ飛行機を投げた。やがて紙は失速して落ちていく。それを見て友人は走り出し、その紙を口に咥える。

その瞬間。小さなその瞳は正面のドアが開くのを確認すると、出てきた人物の足元に擦り寄っていく。

「あらあら」

彼女はその体を抱き上げると、こちらを向いてこう言った。

「可愛いわね、名前は何て言うの?」

端正な顔立ちに、抱き抱えられた猫、口にするのは一枚の紙。その後ろから沈みかけの夕陽が照らしていた。

まるで絵画のような光景に、青年は返事をするのも忘れて立ち尽くしていた。

ーー予感がする。何かが変わり始めている。

夏の終わりに、そんな思いが青年の脳裏をよぎった。


物語が始まるまで、もう少し。

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猫とゲームと紙飛行機 ケイト @kate_0407

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