七人目 宝飾品店の店長の話
「すみません。このネックレスをください」
顔を真っ赤にした少年が少し震える手で一つの商品を指さしている。真っ赤な宝石が中心に嵌ったそれは、天然石を扱っているうちの店でも一等高価な宝飾品の一つだった。貴石や宝石と呼ばれる石の中でも更に一級品。言っちゃ悪いが未成年にしか見えない彼にはもっと年相応のものがあるんじゃないかと忠告をする。
「そのネックレスはかなり高いぞ?もっとこっちの手頃な値段のやつにしといた方がいいんじゃないか?」
天然石の中でも比較的安価な半貴石と言われる部類の石が使われた装飾品の棚を示す。そっちにだって赤色の石が付いたネックレスは沢山ある。この年頃の少年ならそれであっても十分だろうと。けれど少年は首を振ってそれを否定した。
「このネックレスがいいんです。いいえ、このネックレスじゃないとだめなんです」
決意を秘めた真っ直ぐな瞳が俺を射抜く。ああ、きっとこいつは何を言っても引き下がりはしない。それがわかるいい目だった。
「そうか。だが金は払えるのか?どんな理由があろうと安くはしねえぞ?」
少年はじっと値札を見てから一度頷き、大丈夫ですと俺に告げた。鞄の中から大きな袋を出してカウンターの上に置く。不格好で歪な縫い目をした巾着だ。布も随分とよれて古びている。きっと長く使われたんだろうと一目でわかるような袋だ。
「昔、ここで値段を見た時と変わっていなくてよかった。ここに代金が入っています。確認してください」
袋を開けると小銭が沢山入っていた。時々銀貨や金貨も混じっているが、殆どは子どもがお手伝いをして貰うような銅貨や
「お金、ちゃんとありましたか?」
少し不安そうにこちらを窺う少年に、きちんと代金があったことを告げた。安心したように息を吐いて、少年はこちらを再度向いた。
「じゃあ、このネックレス。僕に買わせてください」
「ああ、ご購入ありがとうございました」
ああ、なるほど。どこかその瞳の色に見覚えがあると思った。このネックレスの石が彼の瞳の色だったんだ。鳩の血の名を冠するこの石にように濃く鮮やかな赤。健やかで優しい輝きに満ちた美しい生命の光をした色。そんな彼の瞳と同じ色なのはきっとこの石しか無いだろう。
「これ、彼女にでもやるのかい?」
棚からネックレスを下ろしている間に少し話をしてみたいと思った。ずっと前から貯めていただろうその金で、誰に贈り物をするのか気になった。その瞳と同じ色の宝石を贈る相手が誰なのか。彼女だろうか、母親だろうか。男に贈るにはあまりにかわいらしいデザインだからきっと女性じゃないかとは思うんだが。
「えっ……いやあの……えっと……親友の……妹に……」
熟れた果実のように顔を赤くして、そう少年は返してきた。告白もしてないのにこんないいもん買うなんてなかなか勇気がいっただろうに。クリーム色した紙を出して小さなケースを包み込んでいく。この恋の行く末が気になるおっちゃんからのプレゼントだ。
「そうか。まあ、ラッピングはサービスしとくよ」
「え」
俺の言葉で彼はぽかんとした顔になる。おまけだよ、と言いながらリボンを選ぶように告げた。少し戸惑いながら少年は自分の頬と同じような赤色のリボンを指さし、俺はそれを包み紙の上から巻き付けた。きっとその子は赤色が好きなんだろう。迷うことのない少年の様子でよくわかる。
「大事な人なんだろ。顔見りゃわかる」
「はい。とっても大事で大好きな人なんです」
少年が真っ赤な顔で笑う。こんないいやつに好かれたその子もきっと幸せだろう。どうか彼と彼女に幸あれと。俺はただそれを願うだけだ。
ハッピーエンドになった世界の話 閑古鳥 @Culus15
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