56. エピローグ ― エンド来たりは暮れて宵、天の光は全て星
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56. エピローグ ― エンド来たりは暮れて宵、天の光は全て星
宮廷魔法師採用試験は、当然のことながら延期となった。
会場は滅茶苦茶、王宮も崩壊の危機にあったわけで、指揮系統や警備体制を見直すだけでも時間のかかることだった。
ただ、
とはいえ現ゴスロリ少女は、解放された会場の騒ぎに乗じてそのまま去ったのでその後は消息不明だった。
カクカイン内務卿は瓦礫による圧死体として回収された。
この国にも死霊術があるので、その遺体から自白させることは可能であり、今回の国家転覆級テロの全貌が暴かれるのはそう先のことではなかった。
塔の各所を守っていたWACKS構成員の遺体は、一人も見つかっていない。
CON-GO兄弟のGOも結局逃げたらしかった。人の覚悟などというものは安い。本当に安い。
黒天白死竜の召喚陣を成した12名の術師のうち、3名が崩落の中で生存したため、捕縛され事情を問われたが黙秘を保ったまま絶食して死んだ。
そういう契約を術式に組み込んだ上での、各個の自力を凌駕した召喚術式だった。
結局、WACKSという組織の解体には至っていない。
カクカインがWACKSの遂行能力だけを買って使っていたとすれば、他へ拠点を移している可能性は十分にあった。
一方、王宮は当然、別の方向で混乱していた。
内務卿という実務官のトップが、テロどころかクーデターを起こしたのだから、もはや例年の他国との小競り合い程度で済む話ではない。
この件が他国にバレれば内政不安を露呈し、侵略を許すかもしれない。
それでなくともカクカインが特定の他国と密約を交わしていた可能性は高い。
勿論、カクカイン自身が他国によって捨て駒にされたという線もあった。
このギドラ王国を狙う他国は2つ3つではない。
その頃、王宮兵士たちの間では、聖堂の修復作業をしながら噂話が横行していた。
「つまりよぉ…伝説のドラゴンを倒したのはどこの誰様なんだ…?」
「宮廷魔法師団でも全く歯が立たなかったらしいからな…そんな奴、いねえんじゃねえか?
天候改変魔法なんてありえねえよ、召喚術式が暴発したとか、純粋に自然現象とかさぁ…天変地異みたいなもんだろ?」
「いやいや、あんな天変地異無いだろ…。
つか国立公園でコカトリスを倒したのも同じ魔法師じゃないかとか言われてるぞ」
「天候改変なんて神話級の魔法、使える奴がいたら大問題だろうが!
黒天白死竜を倒せるような戦力が本当にあるとしたら、絶対に野放しにするわけにはいかん…」
「探せ!竜を倒した魔法師を!」
コカトリスの時とは別に、ケイジは国軍の手配書に載った。
「(うう…王宮ぶっ壊したし、もう絶対宮廷付けの楽士なんてなれるわけねえ…。
どころか弁償とか言われたらどうすんだ…?
てかそもそもアレ俺のせいなのか…? )」
ケイジはお尋ね者になったような気分だった。(実際、指名手配ではないがお尋ねはされている。)
この件でケイジに果たせる責任は無い。
むしろ最大限に転生者としての責任は果たした。
それどころか賞賛されておかしくなかったが、その功績は世間に理解されることはなかった。
勿論、事情を知っている連中もいたが、そこには根回しが為されていた。
「K.Gのことは黙ってろ、とカッサネール嬢からのお達しだ…。
下手なことを触れ回ると消されるぞ、ブルタバ」
「むしろ公にして爵位でも与えて人材活用した方がいいんじゃないかしら?」
「利用価値が高過ぎてまずい。国を滅ぼせるような戦力だ、使う人間に爆弾を背負わすようなものだろう」
「確かにね。ああー、事後処理が山積みでまたバカンスが遠のいていくわ…」
一方でフロウも、身内から各将校を通じて今回の件に緘口令を敷いていた。
この件は高度に政治が関わる事件であり、そのまま記録されるには問題が重なり過ぎている。
特に、この国に興味も愛着も無い人間が単体でドラゴンを討ち取れるということは、国外どころか国内にも知られるわけにはいかなかった。
事情を知りながらフロウ本人も、当面はカクカインの亡命予定だった国家の調査と残党の対応に駆り出されていた。
ケイジはそもそも無職だったが、“宮廷楽士”の道がほぼ断たれたという状況で途方に暮れていた。
(実際にはそもそも宮廷楽士の試験ではなかったので、最初からそんな道は無かったが。)
また違うオーディションでも探して受けるか、ストリートのサイファーでも探すか。
はたまたこの国を出るか、という選択肢は、他国に同様のラップ文化が無かった場合困るのであまり現実的ではなかった。
“MCバトルダンジョン”がこの国にもあるという点だけは、ちょっと心に引っかかっていた。
どこへいけば見れるのかもわかっていなかったが、最初にライムのくれた元手は十分にあるし、しばらく挑み続ければ出場できるんじゃないか?くらいには思っていた。
そんな、事件から5日も経ったある日、少し実家の政務の片付いたライムが全然違う話を持ってやってきた。
「―ケイジさんも、自分専用の
「マイク…? そういや皆バトルでなんかそれっぽいものをマイクみたいに使ってたな…。
俺もそろそろそういうの持つ頃か…?」
「
これまでケイジさんは使っていませんでしたが、あった方がグッと便利になると思いますよ。
今まで見た中で、使ってみたい魔威倶とか、ありませんか?」
「マイクか… まあラッパーとしては…
「ご…“GOD PARTS”…!? ちょっとアンタ、そんなのおいそれと手に入るわけないでしょ!? バカなの?」
「お前はなんで普通に俺の部屋にいるの?」
フロウはここ数日ケイジの宿の部屋に入り浸っている。
大抵部屋の外にポルトスが控えていているせいで、ケイジは妙に気が休まらない。
フロウの“火精崩傾”はどうにか治まり、体調も無事回復していた。
「いえ、なんとなくわかるんです。ケイジさんは多分GOD PARTSにたどり着く…。
私の“
聞いたことのあるような台詞を、ライムは恥ずかしげもなく堂々と言う。
それは少年漫画に出てくる予知能力者の様相を呈していた。
「きんも!あなたの能力ちょっと反則が過ぎるんじゃなくて!?」
「“きんも”? きんもって、なんですか?
あっ、“KING MODELS”? そう言えばフロウさんの魔威倶“ブリューナク”も神器のKING MODELSでしたよね? ね?」
「ちがっ…ふんっ、なんでもないわよ!
あと…“さん”っていうの、やめてもらえる…?
年上のくせになんか…ああーっ、きんも!」
「そうですか? じゃあ、フロウ」
「えっ?…えへへ… 馴れ馴れしいわ!」
元々そのけはあったが、火精崩傾を経て以来フロウは情緒不安定だ。
完治するにはある
「フロウも付き合ってくださいますか?魔威倶探しに」
「は、ハァ!? なんでアタシがそんなこと…アタシは忙しいのよ!」
「ダメですかぁ?」
「だから…3日間だけよ!
GOD PARTSの言い伝えがある北西の魔女の森林ダンジョン…せいぜいそこまで一緒に行ってあげるくらいね!!」
こういうとき、ライムは天然で甘えるのが上手い。
女子が年下女子に甘えるなどそうできることではない。
そして友達の少ないフロウは超絶チョロかった。
「北西の魔女ですか、さすがよくご存知ですね。
それには少し装備を整えないと…3日では戻って来れないかもしれませんよ」
「いっ、移動は別カウントよ…中3日、中3日って意味よ!!」
などとごちゃごちゃやっている所へさらにうるさい客が押しかける。
「よお
いきなりGOD PARTSに挑もうってのは無謀だが、面白そうじゃねぇの、よし行こう、すぐ行こうぜ、ええい?」
「…。 いや、GOD PARTSって何だよ…?」
◇◇◇
(続く…?)
ラップが魔法の呪文詠唱になる世界に転生したおじさん、うっかり伝説級の魔法を量産してしまう @paper-tiger
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