昨今流行りの異世界譚、テンプレ要素を貫く電光!
呪文をラップで詠唱するなんて、今までありそうでなかった設定。ああ、作者さまはセンスの塊か。リズムが良いのでどんどん読める!
キャラクターごとにリリック(歌詞)の出来・不出来を書き分けられているのも素晴らしく、作者さまの才能を感じる。
サーカスでも、失敗する演技はピエロにしか出来ないものなのだ。一番演技の上手いピエロにしか!
だから読んでいて本当に飽きない。
でも、ラップによって顕現する魔法の働きは各エレメントの相剋性や化学式に乗っ取っているので、何一つ違和感がない。
作者さまは一連のバトルを、誰がどのように勝つのかという結末を見据えながら、ありえないほど精密にリリックを組み立ていらっしゃるのだ。つまり、フレーズ一つに何重ものプロット・レイヤーがあるということ。ヤバ過ぎる。これはラップを本当に愛している方にしか出来ない離れ業だ!
私は以前からR-指定さんなどのラッパーさん達が好きだった。己の信条や切なる想いを荒々しくも詩的に謳い上げるMCバトル……あれは視聴しているだけで、心の奥底が燃え上がるように感じるのだ。
だから、この小説に出会えて本当に嬉しい。ページを捲る度にマジのMCバトルを見た時の鼓動を、熱く忠実に再現してくれるからだ。
ラップとはすなわち、魂の歌唱!魂の咆哮!文学も同じだ!魂の形容!
「ありがちな異世界設定」を、ここまで見事に昇華して見せるなんて、作者さまは紛れもなく天才だ。
もう私は、これ以上の異世界ものなんて見つけられないと思う。愛してます、愛してますよ!
ラッパーに憧れながら一度も舞台に上がれぬままこの世を去った37歳のおっさん後藤啓治(ケイジ)が、ラップを呪文に魔法が発動する異世界で無自覚なまま最強の魔法を使って次々と強敵を倒していく軽妙なラップバトルが小気味良い。
歌詞(リリック)に魔力が宿り、伏句(フック)で精霊に呼びかけ、節回し(フロウ)によって魔法が組み上がる。それがこの世界の魔法であり、先攻後攻で交互に相手に魔法をかけあうのが魔法師同士の決闘だが、ラップ馬鹿のケイジはMCバトルと勘違いしてしまう。現世では時代遅れと酷評されたケイジのラップだが、何故か伝説の電撃魔法となって現れる。
ヒロインの貴族の美少女ライムの推薦で宮廷魔法師試験へと挑むケイジの前には名の知れた天才や名手、刺客たちが立ちはだかるが、それらをあっさりと下して夢の舞台を駆け上がるストーリーの疾走感がクセになります。
そしてなによりケイジの熱い男気から叩きつけられる決め台詞(パンチライン)にハートを撃ち抜かれる。ラップへの情熱だけでなく、戦った相手を親友(マイメン)と呼び、どんな窮地も自分の舞台として奮い立つ。世界の理不尽をぶち壊す、そのヒップホップに魂を揺さぶられます。
(「おじさん無双」4選/文=愛咲優詩)