ラッパーに憧れながら一度も舞台に上がれぬままこの世を去った37歳のおっさん後藤啓治(ケイジ)が、ラップを呪文に魔法が発動する異世界で無自覚なまま最強の魔法を使って次々と強敵を倒していく軽妙なラップバトルが小気味良い。
歌詞(リリック)に魔力が宿り、伏句(フック)で精霊に呼びかけ、節回し(フロウ)によって魔法が組み上がる。それがこの世界の魔法であり、先攻後攻で交互に相手に魔法をかけあうのが魔法師同士の決闘だが、ラップ馬鹿のケイジはMCバトルと勘違いしてしまう。現世では時代遅れと酷評されたケイジのラップだが、何故か伝説の電撃魔法となって現れる。
ヒロインの貴族の美少女ライムの推薦で宮廷魔法師試験へと挑むケイジの前には名の知れた天才や名手、刺客たちが立ちはだかるが、それらをあっさりと下して夢の舞台を駆け上がるストーリーの疾走感がクセになります。
そしてなによりケイジの熱い男気から叩きつけられる決め台詞(パンチライン)にハートを撃ち抜かれる。ラップへの情熱だけでなく、戦った相手を親友(マイメン)と呼び、どんな窮地も自分の舞台として奮い立つ。世界の理不尽をぶち壊す、そのヒップホップに魂を揺さぶられます。
(「おじさん無双」4選/文=愛咲優詩)