第4話 起承転結: 転(結のない物語)

 車を市街地に向け走らせたが対向車も、後続車もない。

何か変だ。

嫌な予感がする。


 やがて、その予感が当たった。

市街地に入っても車が一台も走っていないのだ。

人も見えない。


 聞こえるのもセミの忙しい鳴き声だけだ。


 「・・・賢治さん、あれ・・。」


 そう言って由梨が指をさした。

それは電光掲示板だ。

テロップが流れている。

流れているのは・・


 『パンデミックによる全都道府県ロックダウン(都市封鎖)解除・・』


 「な!」

思わず賢治は変な叫びを上げた。


さらにテロップは流れる。

 『コロナウィルス終息・・・』

 『日本の生存者・推定1000人強・・』

 『生存者は自力で福島県双葉町・請戸うけど漁港へ十日後の8/30迄に集合。』

 『 大型船にて海外へ移住。これは最終便、乗り遅れのないように。』


 このテロップに二人は硬直する。

賢治は車を停め日時を確かめようと自分の腕時計を見た。


 時計が止っている?


 まさか!!

誠は再び車を走らせ文房具店を探し、車を停めて何も言わず店に飛び込んだ。

店員はおらず、方位磁石を探し車に戻った。


 「どうしたの? 賢治さん!」

 「ちょっと待って!」


 方位磁石を時計に近づけると、方位磁石が時計に向いた。

磁石化している。

それを確認すると車を走らせ、周りの様子を伺う。


 「やはり・・、こんな事があるんだ。」

 「え?」

 「由梨、あそこに車があるだろう?」

 「ええ・・。」

 「あの車種、見たことある?」

 「え?」


 そう、そこに見たこともないデザインの車があった。

改造車とは違う。

理由は色違いの車が、ところどころに放置されている。

改造車が色違いでこんなにあるわけがない。

エンブレムも見たことのない会社のものだ。


 「それと道路標識をよく見ていて・・。」


 「あ!」


 市街地には見たこともない標識が彼方此方に立っていた。


 「どういうこと?」

 「たぶんだけど、ここはパラレルワールドじゃないかな?」

 「え?」


 「俺の腕時計、異常な磁気を帯びているんだ。」

 「・・・。」


 「昔、科学雑誌を見たことがある。

 異常な磁気は空間を歪め、別次元への亀裂を発生させるそうだ。」

 「まさか・・、あの湿原で?」

 「うん。理由はわからないけど、恐らく一時的に発生したんだろう。」

 「じゃ、今から戻れば?」

 「いや、それなら索道で戻るときに既に戻っているはずだ。」

 「じゃぁ、私達は戻れないの!!」

 「いや!・・、聞いてほしい・・」

 「・・・うん。」


 「歪んだ時空は元に戻ろうとするらしい。

 だから、戻れる可能性がある。」

 「え?」


 「弱い根拠だけど、この車、俺達が停めた場所にあっただろう?」

 「うん・・。」

 「つまり、ここに居る俺達と、この世界に居た俺達は入れ替わったんだと思う。」

 「え?」

 「つまり、彼らはあの場所に来た。俺達も俺達の世界であの場所に来たんだ。

 それで、こちらに来た俺達と入れ替わることで世界はバランスした。」

 「・・。」


 「でも、それは一時的なバランスだ。

 異物の俺達と、向こうの俺達は戻らなければならい。

 だから、たぶんだけど二人共、いつかは戻れるはずだ。」

 「・・・。」

 「とりあえず福島の指定された漁港に行こう。」


 そういうと車を高速に向けた。


 賢治は思った。

俺達はまるで世界から忘却され存在のようだ、と。


 「忘却の夏か・・」

そう呟く。


 「え? 何?」

 「いや、何でも無い。」


 世界が忘れずに戻してくれることを願い、旅立つ二人であった。

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忘却の夏 キャットウォーク @nyannyakonyan

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