第4話 起承転結: 転(結のない物語)
車を市街地に向け走らせたが対向車も、後続車もない。
何か変だ。
嫌な予感がする。
やがて、その予感が当たった。
市街地に入っても車が一台も走っていないのだ。
人も見えない。
聞こえるのもセミの忙しい鳴き声だけだ。
「・・・賢治さん、あれ・・。」
そう言って由梨が指をさした。
それは電光掲示板だ。
テロップが流れている。
流れているのは・・
『パンデミックによる全都道府県ロックダウン(都市封鎖)解除・・』
「な!」
思わず賢治は変な叫びを上げた。
さらにテロップは流れる。
『コロナウィルス終息・・・』
『日本の生存者・推定1000人強・・』
『生存者は自力で福島県双葉町・
『 大型船にて海外へ移住。これは最終便、乗り遅れのないように。』
このテロップに二人は硬直する。
賢治は車を停め日時を確かめようと自分の腕時計を見た。
時計が止っている?
まさか!!
誠は再び車を走らせ文房具店を探し、車を停めて何も言わず店に飛び込んだ。
店員はおらず、方位磁石を探し車に戻った。
「どうしたの? 賢治さん!」
「ちょっと待って!」
方位磁石を時計に近づけると、方位磁石が時計に向いた。
磁石化している。
それを確認すると車を走らせ、周りの様子を伺う。
「やはり・・、こんな事があるんだ。」
「え?」
「由梨、あそこに車があるだろう?」
「ええ・・。」
「あの車種、見たことある?」
「え?」
そう、そこに見たこともないデザインの車があった。
改造車とは違う。
理由は色違いの車が、ところどころに放置されている。
改造車が色違いでこんなにあるわけがない。
エンブレムも見たことのない会社のものだ。
「それと道路標識をよく見ていて・・。」
「あ!」
市街地には見たこともない標識が彼方此方に立っていた。
「どういうこと?」
「たぶんだけど、ここはパラレルワールドじゃないかな?」
「え?」
「俺の腕時計、異常な磁気を帯びているんだ。」
「・・・。」
「昔、科学雑誌を見たことがある。
異常な磁気は空間を歪め、別次元への亀裂を発生させるそうだ。」
「まさか・・、あの湿原で?」
「うん。理由はわからないけど、恐らく一時的に発生したんだろう。」
「じゃ、今から戻れば?」
「いや、それなら索道で戻るときに既に戻っているはずだ。」
「じゃぁ、私達は戻れないの!!」
「いや!・・、聞いてほしい・・」
「・・・うん。」
「歪んだ時空は元に戻ろうとするらしい。
だから、戻れる可能性がある。」
「え?」
「弱い根拠だけど、この車、俺達が停めた場所にあっただろう?」
「うん・・。」
「つまり、ここに居る俺達と、この世界に居た俺達は入れ替わったんだと思う。」
「え?」
「つまり、彼らはあの場所に来た。俺達も俺達の世界であの場所に来たんだ。
それで、こちらに来た俺達と入れ替わることで世界はバランスした。」
「・・。」
「でも、それは一時的なバランスだ。
異物の俺達と、向こうの俺達は戻らなければならい。
だから、たぶんだけど二人共、いつかは戻れるはずだ。」
「・・・。」
「とりあえず福島の指定された漁港に行こう。」
そういうと車を高速に向けた。
賢治は思った。
俺達はまるで世界から忘却され存在のようだ、と。
「忘却の夏か・・」
そう呟く。
「え? 何?」
「いや、何でも無い。」
世界が忘れずに戻してくれることを願い、旅立つ二人であった。
忘却の夏 キャットウォーク @nyannyakonyan
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