第3話 起承転結: 承の巻

 賢治は放心状態の由梨を見ながら異常に気がついた。


 暑い!

そう思い、周りを見回す。


 湿地帯一面が青々とした水草に覆われている。

そればかりか、周りの山々は緑に覆われセミの声が聞こえているではないか!


 まるで夏ではないか!

今は4月だ!

そんなバカな事があるか!

・・・。

・・だが・・どう見ても夏だ。

落ち着け・・。

落ちつけ・・。


 改めて周りを見る。

俺と由梨以外は誰も居ない。

あの、家族連れは見当たらない。


 ふと気がつくと、目の前に由梨が来ていた。


 「賢治さん、ここはどこ?」

 「・・・。」

 「4月で入道雲があって、この暑さって何?」

 「・・・。」

 「他にいた人たちはどこ?」

 「・・・。」

 「ねぇ!!」

 

 そういうと由梨は俺の袖を握り俯いた。

その姿を見て、賢治は我に返る。 

由梨を不安にしてどうする!

いったい俺は何をしているんだ!!


 賢治は笑顔を作り、由梨を優しく抱きしめた。

由梨が震えているのが伝わってくる。


 「大丈夫だよ、俺がいるよ。」

 

右手で由梨の頭を優しくなでる。


 「落ち着こう、由梨。」

 「・・・・うん・・。」


賢治は不安から由梨を反らすため話題を変える。

 

 「ところで暑くない?」

 

 真夏の太陽の下、厚着をし抱き合っている。

顔から汗がポタリと落ちた。

志賀高原といえども、真夏にこの恰好はやはり暑い。


 「上着を脱ごうかしら?」

 「そうしよう。」

 

 二人して上着を脱ぎ、腕に抱えた。

 

 「とりあえず駐車場に戻ろう。」

 「え? あ、うん。」

 

 そう言って駐車場に戻った。

駐車場に自分達の車はあった。

来た時と同じ場所にあり、来た時と同じ汚れ具合だった。

 

 「よかった! 有った!」

 「うん!」

 

 二人とも少し元気を取り戻した。

エンジンもかかる。

ガソリンは? うん、来た時と同じ量みたいだ。


 「なあ由梨・・。」

 「何?」

 「車は来た時と同じ状態だ。」

 「え?」

 「ガソリンの量、トリップメータ、車の汚れ具合も同じだ。」

 「・・・。」

 「違うのは季節だけのように思える。」

 「・・・うん。」

 

 「とりあえず、帰ろうか?」

 「うん。」


 賢治はカーナビを自宅にセットし、車を出した。

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