第2話 起承転結: 起の巻
志賀高原は、長野県山ノ内町にある。
目指すのは由梨の希望である志賀高原・田ノ原湿原だ。
車は高速を降り順調に志賀高原に近づく。
道は山道に変わり右に左に蛇行をしはじめる。
賢治は由梨が車に酔わないようにユックリと走った。
やがて田ノ原湿原に着き、駐車場に車を停めた。
駐車場には車が1台だけ停まっていた。
窓を開けると、かなり寒い。
厚着をして出ることにした。
湿地帯の索道は、人ひとりが歩ける幅の板が2本並んで奥に続いていた。
その索道の30メートルほど先に、家族連れ3人が見える。
他には誰もいない。
賢治は由梨と手を繋ぎ索道を歩き始めた。
「うん、澄んだ冷たい空気だ。」
「そうね、横浜とは違うわね。」
どちらかともなく顔を見合わせ、互いに微笑む。
由梨はやがて立ち止まりしゃがみ込んだ。
綺麗な水がチョロチョロと流れてる。
「時期がくると、いろいろな花が咲くんでしょうね。」
「そうだね、また、そのころに来てみようか?」
「うん! 約束ね!」
そういうと由梨は立ち上がり、小指を立てて賢治の前に突き出した。
賢治は微笑むと、指切りを交わす。
指切ったあと由梨は顔を赤らめ、賢治を置いて歩き始めた。
賢治も、すこし間を置いて歩きはじめる。
少し歩いた時だった、湿地帯の水面が光を反射し賢治の顔に直接当たる。
眩しさに思わず目を瞑るのと同時に、手で目を覆って数歩歩いて止る。
目がチカチカしたため、収まるのを待って目をあけた。
すると前方に家族連れが見えた。
「え!!」
由梨の姿が無い。
「由梨!!」
大声を上げ、周りを見渡す。
しかし、どこにもいない。
背筋にいやな汗がながれる。
前を歩いていた家族は、怪訝そうな顔をして賢治の方を振り向いていた。
あの家族に由梨の事を聞こうと賢治は走り始めた。
しかし数メートル走ると、突然何か見えない透明な物に当たった。
デパートなどにあるエアーカーテンのようなものだ。
風のような物が目にも当たり反射的に閉じ、思わず立ち止まる。
すると、その何かは忽然と消えた。
慌てて瞼を開く。
すると目の前に、由梨の後ろ姿があった。
いったいこれは・・。
余りのことに思考が追いつかない。
しかし、由梨が居ることにホットした。
「由梨・・」
声をかけたが由梨はすぐには振り向かなかった。
しかし、やがてユックリと此方を向いた由梨は放心状態だった。
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