幻想と現実の狭間にて
お嬢様厨
幻想と現実の狭間にて
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妖精、ゴブリン、リザードマンなど様々な種族が暮らす、中世レベルのファンタジー世界。そんな世界の平和は魔物と呼ばれる存在の出現によって壊れてしまったのです。
魔物。それは普段は人の姿形をしているのですが、人目のつかない場所で異形の本性を現し、人々を甚振る存在なのです。
ちなみに魔物がどこから現れたのか、正体などは一切不明なのです。
勿論、人類はそんな魔物に抵抗しないはずがなく魔物と戦う職業を作りました。それが「浄化者」なのです。
そしてこれはとある浄化者2人のお話なのです……。
「やっと着いたな」
「そうですね……とっても疲れたのです」
短髪で、黒いローブを羽織ったベテランの魔導剣士スズト君と、ツインテールの妖精ルナは、森の奥にある小さな洞窟に着きました。ここが魔物の巣なのです。
「任務開始だな」
「はいっ!」
今回は魔物の巣を破壊する任務なのです。それで破壊する方法なんですが、
聖水と呼ばれる、広範囲に発動する魔法を使う時に必要となる液体を巣全体に撒き、
イグニスと呼ばれる魔物の巣を粉々に破壊する魔法を、巣全体に発動するのです。まあこういう感じですね。
私達は洞窟に突入しました。すると、
「誰ダ?」
ゴブリンの様な姿をした魔物が現れました。スズト君は容赦なく、
「死ね!!」
声を上げ、剣を喉元に降りました。
ズバッッ!!
魔物の首から上は吹き飛び、身体はドサッと倒れました。
「楽勝だな」
「ですね!」
魔導剣士歴の長いスズト君からしたら魔物の退治は造作もない事なのです!
それからというものの聖水を撒き、魔物が出たら切り、と任務は淡々と進みました。そして巣全体に聖水を撒き終わりました。私達は早足で巣の入り口付近に戻り、スズト君は
「イグニス!!」
魔法を発動しました。するとスズト君は拍子抜けしたような表情で、
「もう妄想しないでいいのだな。妄想は好きだが流石に疲れていたよ」
「どういう意味なのです?」
「いいや。何でもない」
どういう意味だったのでしょうか?まあよく分かりません私達は巣から出ました。すると後ろで何かが燃える音がしました。後ろを見ると愕然としました。意味が分かりませんでした。
私の後ろにあったのは魔法の巣ではなく、燃え盛る、スズト君のクラスメイトのお家なのでした。
現代風のお家は取り返しの付かない程に燃え盛っています。
「やった!やったぞ!魔法の巣を浄化したぞ!ははは!!」
私は哄笑するスズト君に狂気を覚えていました……スズト君を正気に戻そうと試みるのです。
「違うのです……あれは魔物の巣ではないのです……貴方はクラスメイトさんの自宅を放火しただけなのですよ……」
私はそう言いスズト君の居る方に目をやると、そこにはいかにも不審者の様な黒にフードを被り、
右手には血の付いた包丁、左手には灯油の入った赤い容器を持ったナチュラルボブヘアの女の子が居ました。
あれ……?貴方は魔物を退治する魔導剣士のはずでは?意味が分からないのです?
周囲に人が集まって来ました。群衆は口に手を当てたり、スマホで燃え盛る家の様子を撮影したりしています。
というかすまほ?とうゆ?何なのですか?これらの異様な言葉は?
私は、
「どういう事なのですか……?」
と尋ねると、
「分かった。お前に教えよう。全ての真相を……」
スズト君は辛そうにそう言いました。
鈴華は悩んだり、干渉に浸ったり嫌な記憶が刻み込まれた布団の上で目を覚まし、上半身を起こした。
眼前に貼られている嘗て好んでいたアニメのポスターの下半分は破られており、
床には漫画の切れ端や、美少女のフィギュアのへし折られて頭部などが残虐に転がっている。
散らかりきったアパートの一室は、鈴華の崩壊した精神を反映した様だ。
「嫌だ……学校に行きたくない……辛い……」
布団に目をやり嘆く彼女の頭上の無から音を立てず、エフェクトもなく妖精のルナが現れる。
彼女は鈴華の事を全肯定してくれる、鈴華の自尊心を保つ為に生まれた空想の友達だ。
「元気出して!ルナがついているのです」
「……そうだな」
妖精の思いやりによって鈴華の心は少し楽になった。髪を整える為、塵を踏みながら部屋の鏡の前まで歩いて行く。
鏡の前に着くと、虚ろな目をしたナチュラルボブヘアの少女が鏡に映っている。鈴華はそんな自分を見るたびに思う。
なんで俺の心は男なのに体は女なのだろうか……辛い……
性同一性障害。これこそ鈴華が病んだ原因だった。
だが厳密に言うと原因は他にもある。鈴華は精神的には男である為、女性用の化粧室に入る事を生理的に嫌っていた。
その為、外出時には、人が少ない時を見計らって男性用の化粧室に入る事がよくあった。
そしてある時、鈴華が男性用の化粧室に入った所を若者の集団に目撃されて、
何故男性用に入ったのか問い詰められた。鈴華は下手に嘘を吐こうとしたが失敗した。醜態を晒してしまった……。
そして尋問が終わると鈴華は愕然とした。
カメラの録画を終了する時の音が聞こえたのだ。
男性用の化粧室に入ろうとしている時からずっと集団は鈴華の事を盗撮していたのだった。
集団はその動画をふざけ半分でSNSに晒した。
鈴華は一生ネットの晒し者となった。
鈴華の音声や写真は今でも勝手に加工され、無様に遊ばれている。
そんな哀れな鈴華にも楽しみはあった。それは、
「あれ?鈴華ちゃん!今日はお小遣いの日じゃなかった?」
「あっ……そうだったな。忘れていたよ」
「これでまた美少女さん達をじそんしんを保つ為の生贄に出来ますね!」
「ああ、そうだな……少し光が射した気分だ」
アニメに登場する美少女などを下等な存在だと思い込みながいたぶる行為は鈴華の精神を安定させる。アニメのグッズを購入しては破壊するのが鈴華の楽しみである。
髪を整え、食事を済まし、制服に着替える。恐怖感や緊張感などに耐えながら高校へ向かった。
電車に揺られ、学校の最寄り駅から学校まで歩く。校門に着くと、
「「「…………」」」
例日通り校門前に立っていた挨拶当番全員に無視された。鈴華の心は痛む。
靴を履き替え、教室まで俯きながら足を動かす。教室の扉を開くと、
「あっ……鈴華じゃんww」
「wwww」
鈴華の醜態は学校中にも知れ渡っており、教室に入っただけでも嘲笑が聞こえ、心がズタズタになる。
尚、これを教員に報告し、なんとかしてもらおうとは思っていない。
過去に何度もそうしたが、教員達は皆やる気がなく、何も変わらなかった。だからもう諦めていたのだ。
また、転校しようとも思わない。鈴華の家庭は父親が離婚済みであり、金がない。転校したり、引越しをする余裕が無い為だ。
鈴華は人生が詰んでいた。
それからというものの、鬱な為授業にはついて行けず、休み時間はする事がなく寝たふりをし、
食欲が湧かず給食は喉を通らず、昼休みは憂さ晴らしでクラスメイトに殴られ、など地獄の様な時間を過ごした。
そして満身創痍で学校が終わる。
「鈴華ちゃん頑張りましたね!なでなでなのです」
ルナが鈴華の頭を撫で、
ふふっ。このくらい朝飯前だよ。と脳内で無理のある反応をし、教室を出る。
駅へ行き、秋葉原のアニメショップに向かい、普段とは違う電車に乗る。
空いた席に座るとぞっとした。
「うわ、あれ鈴華じゃね」
「は?これから出かけるところだってのに最悪だわ」
「死ねよ」
鈴華を憂さ晴らしで殴ったりしている集団が同じ電車に乗っていたのだ……。鈴華は最悪な気分でいると話の流れが変わる。
「じゃあこうしようぜ。俺らを不快な気分にさせた罰として鈴華から金をぶん取るんだよ。
そうすればいい気味だし、ゲーセンで使える金も増えて一石二鳥じゃん」
「はは。いいなそれ」
鈴華は愕然とした。連中は鈴華の元へ群がり口を開く。
「よう鈴華ぁ?なんでお前この電車に乗ってやがんだよ。お前のせいで不快な思いしてんだけど。
だから罰金してもいいかな?」
「…………」
鈴華はどう答えるべきか葛藤している。勿論折角貰った金を奪われるのなんて嫌だ。
でもだからといって反抗したら何をされるか分からない……。だが鈴華は思い切って、
「断る。貴方達が不快な思いをしようが知った事じゃないから」
「はぁ?」
そのセリフは連中の顰蹙を買ったようだった。
「お前の癖に生意気なんだよっ!」
そう声を荒げ、どすっと鈴華の腹を殴った……。周囲の乗客は見て見ぬ振りをしている。
鈴華は痛い……助けてよ……見て見ぬ振りをしないで……。なんて声にならない叫びをあげている。
そして連中の1人が学生鞄を乱暴に漁り財布を取り出した。大切な金をぶんどった。
終わった……。月1の楽しみを奪われた。その時思った。
こんな最低な事が出来るなんて人としてありえない……。こいつらは本当に人間なのか……?
それから鈴華は絶望しながら家へ向かった。家に帰るとすぐに布団に潜り布団の中でずっとルナに慰めてもらっていた。
そうする事で最悪な気分は少しは落ち着いた。
翌朝、目覚めは何時も通り最悪だった。何時もと同じように登校の準備をし、学校へ向かう。
学校ではこれまた何時も通り、挨拶当番に無視され、授業は頭に入らず、給食は喉を通らずなど終わったような時間がじりじりと過ぎて行く。
そして昼休み。
自分の席に座る鈴華の前に何時も通り鈴華をサンドバッグにしている連中の1人が現れる。そして、
「体育館裏で待ってるからな」
にやにやと笑いながらそう言い、早足で教室を出た。鈴華は今日もまた殴られるのか……と思う。
床に目をやりながらのろのろと体育館裏へ向かった。
体育館裏に着くと連中がいた。そして連中の1人が鈴華を羽交い締めにし、拷問が始まる。
腹、腕、足、顔など体のいたるところを殴られる。
痛い痛い。辛い辛い。
そして休み時間が終わりに近づくと鈴華を殴っていた1人が何かを思い出したように口を開く。
「あっそういえば昨日の罰ゲームがまだじゃね?」
「あっ、そうだったな」
罰ゲームって何?聞いていないが?鈴華は嫌な予感を感じていると連中の1人はポケットから軍手を取り出し手に付けた。そして、
もう片方のポケットからゴキブリの死骸を取り出した。
「ひっ……!!」
鈴華は思わず声を出してしまった。気持ち悪い。それで何をするつもりなの……?鈴華は震えていると、
「今からこれを食ってもらいます」
鈴華は驚愕した。嘘だよね……?なんて怯えつつ思うが、
「うわきったな」
「でも鈴華にはぴったりだな」
「そうだな」
連中は本気の様だった。だがそんな気持ちの悪い事勿論嫌だ。嫌で嫌で仕方がない。鈴華は羽交い締めにされた体を必死に動かそうとする。
「はなせっ……!」
「嫌に決まってんだろ」
そして無慈悲に顔にゴキブリが近づけられる……。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
鈴華は気持ち悪さのあまり思わず、
「うわぁぁぁぁぁ!!」
叫び声を上げてしまった……。
すると連中は焦る。
「馬鹿っ!うるせぇよ……!人がきちまうだろ」
「逃げようぜ」
「ああ」
連中は全員遁走した。鈴華は助かった。そして拍子抜けしつつ思った。
あいつらは人間じゃない……。きっと人の形をした魔物か何かだ。汚らわしい。
……いや正確には違う。そう思わなければ精神安定を保てなかった。
あんな連中を自分と同じ人間と認めるのが嫌で嫌で仕方がなかったのだ。
この時から鈴華は本格的に狂い始めた。妄想の世界に逃げこんだり、鈴華をいじめている連中の自宅を放火する計画を練り始めたりし始めた。
そして、
「あの人達のお家を放火するに至ったのですね……。ようやくわかったのです……」
場面は燃え盛るクラスメイトの自宅前に戻る。鈴華は絶望しつつ、
「辛いな……なんというか、哀れだよな……俺って……」
そう言うとルナは必死に否定する。
「違うのです……!哀れじゃないのです……!鈴華ちゃん沢山酷い目にあって可哀相としか思わないのです」
鈴華は心打たれた。
「そうか……それは良かったよ」
そして鈴華は思った。
「妄想って素晴らしいな
誰でも自分の事を全肯定してくれる友達を作れるし、話の主人公になれる夢みたいな力だよ。まるで魔法だ」
「なんだか素敵ですね」
「その通りだ。分かってるじゃないか」
「えへへ」
「可愛いなルナは。死刑になるまでの間もずっと一緒だぞ?」
「はい!」
終わり
幻想と現実の狭間にて お嬢様厨 @Kyogokusonoka
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