第52話 終戦
連合国軍は魔王城のあった場所から撤退した。
途中、ホーネット中隊の兵站工兵と機関銃兵、そして冒険者たちと合流する。
魔王城に向かう時に比べて、ゆっくりと帰還した連合国軍を待っていたのは、魔物の死体に囲まれたシェイン要塞の姿だった。
シェイン要塞の前の土地は砲撃によってできた穴で埋め尽くされており、城壁の一部は欠け、念のために置いていったレーザーシステムは攻撃を受けたのか一部破損している。
「一体何があったんだ……」
クリスはうまく動かない体を動かしてシェイン要塞の様子を眺めた。
連合国軍の姿を確認したのか、シェイン要塞の兵士たちが次々と城壁の上に現れてくる。
入口にはわざわざシェイン要塞の司令官が出迎えてくれていた。
「おぉ、よく戻った。それで、本拠地の電撃作戦はどうだ?うまくいったか?」
「えぇ、うまく行きました。魔王軍の本拠地である魔王城は崩壊し、以降魔物の群れが出てくる様子はありません」
「そうか。だが、念のためその魔王城に調査部隊を派遣して様子を伺ってこよう」
「わかりました。ところで、この惨劇はなんです?」
クリスはシェイン要塞前方の平野を見渡す。
「あぁ、これは君たちが出発した翌日に突如として現れた魔物の群れだよ。我々が想定していた方向とは違うところからやってきて、そこそこ被害を出していった」
「そうだったんですか」
「そのおかげか要塞の城壁の一部は破損、ホーネット少佐が用意してくれた要塞砲は弾薬が底をつきそうになるし、帝国内からかき集めた防衛兵器も総動員してなんとか対処に当たっていたのだ」
司令官はやれやれと言った感じで頭に手をやる。
「要塞の門が破られそうになるところだったが、君たちが戻ってくる前に生きていた魔物すべてが急にその場に倒れたんだよ」
「……どういうことなんでしょう?」
「さぁな。だが、脅威が去ったのは間違いないだろう。さぁ、中に入りたまえ。英雄たちの帰還を祝おう」
そういって司令官はクリスたちを中に入るよう催促する。
魔王城陥落の報は、その日のうちに帝国、大公国、王国の三国を駆け巡った。
人々は魔王という脅威から解放され、祝福の声をあげる。
そんなクリスの元に国王陛下から連絡が来た。
『魔王城に派遣した調査部隊からの報告により陥落を確認した。これを以て戦争の終結とする。よってホーネット中隊および冒険者一同はエルメラント王国へと復員せよ』
この命令によってクリスたちはエルメラント王国へと帰還することが決定した。
クリスたちはシェイン要塞を出発し、モルドー大公国を通ってエルメラント王国へと入る。
クリスは、道中にあるフェンネルに寄り道をした。
フェンネルに入ると、最後まで街に残っていた残り少ない人々が沿道から歓声をあげる。
街の中央部にある広場では、パトリックがクリスたちのことを出迎えていた。
「よく戻ったな、クリス」
「はい、フェンネル卿」
そういって二人は握手をかわす。
「ペトラも無事そうでなによりだ」
「もちろんですわ、お父様」
「エレナにティナ、君たちも無事で良かった」
「はい」
「にっひひ」
「さて、本当なら君たちに戦勝記念として何か贈呈や式典をしたいところだが、復員の途中だったな」
「えぇ、非常に名残惜しいですが王都まで戻らなければなりません」
「うむ。王都での用件が終了したら、その時はフェンネルに顔を出してほしい」
そういってパトリックはクリスたちを見送った。
クリスたちは王都を目指し移動する。
数日後には王都に到着した。
ここでもクリスたちは、人々から魔王軍の脅威を退け勝利に導いた英雄的存在として大規模な祝福を受ける。
その様子はまるでパレードさながらであった。
宮殿に到着した一行は、そのまま敷地内にある広場にて国王陛下から今回の戦争における総括を述べる。
「魔王軍の宣戦布告から今日に至るまでの、諸君らの働きに感謝する。諸君らの働きがあったからこそ、我々は勝利をつかみ取ることができた。我々だけではない。近隣諸国がともに手を取り合い、戦ったからこそ成しえたことだろう。本当によくやってくれた」
その演説が終わったあと、戦闘に参加した冒険者たちは国王陛下から従軍鉄星勲章が送られた。
クリスたちは近衛師団の詰所に戻る。
そのあと国王陛下に呼び出されたクリスとエレナたちは、国王陛下に謁見するため執務室に向かった。
「まずはご苦労だったといったところか」
執務室で国王陛下が言う。
「えぇ、非常に大変でした」
「しかし、困難とも思われた魔王軍の撃退および殲滅を実現させたのは実に勇敢であった」
「ありがとうございます」
「それで本題なのだが……」
そういって国王陛下は身を乗り出す。
「クリスよ、一線を退いてくれないか?」
「……はい?」
クリスは聞き返した。
「なに、変な意味ではない。今回の戦争では優秀な成績を収め、魔王軍を撃退した。これは賞賛されるべき行為だ」
「ではなぜ?」
「元はと言えば、クリスたちは冒険者だ。本来なら依頼を受け、それをこなし、生活するのが普通のはず。だが、それを我は軍人としてしまった。そこに引け目を感じているのだ。もしお主がよいのであれば、退役してもらっても構わんぞ。それといつでも復帰しても構わないし、こちらから招集をかけることもあるが、どうかね?」
国王陛下の提案に、クリスは考え込む。
確かに、あの時はなし崩しで軍人になった。
しかし最大の脅威が去った今、軍人にこだわる必要もないだろう。
「確かに、自分は冒険者として生きてきました。そしてそれはこれからも変わらないでしょう」
「では?」
「退役の話は分かりました。しかし、現状自分がいなければホーネット中隊は動けないこともいくつかあります」
「うむ。ならばお主には退役しても第一線に関われるように手配しておこう。それでいいかね?」
「はい」
その意見にエレナたちも賛同する。
それを確認した国王陛下は侍従を呼ぶ。
「退役前にこれを渡しておこう。今回の働きに対する勲章と階級昇格を授けようぞ」
そういって国王陛下がクリスに渡したのが従軍金十字勲章だ。
そして同時にクリスは一階級特進し、階級が少佐から中佐になる。
エレナたちも従軍銀十字勲章と一階級特進を得た。
同時に、クリスたちはこの日を以って退役することになる。
クリスたちが部屋を出る時に、国王陛下が口を開く。
「クリスよ、ご苦労であった」
「えぇ。またどこかでお会いしましょう」
クリスたちは詰所に戻り、今後のホーネット中隊のことを伝えたのち、宮殿を出る。
「これでまた冒険者になったなぁ」
「少しもったいない気がしたけど」
「それでも私たちはこれでいいかもしれませんね」
「そーそー。冒険者をしてるほうが気楽でいいかもよ」
「それでクリス。これからどうするの?」
エレナがクリスに尋ねる。
「そうだなぁ……」
クリスは空を見上げ、少し考える。
「まずはフェンネル卿の所に行くとして、一緒に依頼でも受けに行くか」
「わかった」
「久々に故郷でゆっくりしたいですわ」
「じゃあ、そうと決まれば早速行こう!」
ティナが抑えきれないように走り出す。
エレナとペトラも後を追いかける。
クリスはそれを見て、一歩を踏み出した。
彼らの冒険者としての活躍は、まだまだこれからである。
道具しか召喚できないスキルの俺が、スキル進化で確定ガチャになったとたん世界最強になりました 紫 和春 @purple45
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