第51話 命運
クリスは聖剣を携え、魔王と対峙する。
それを見た魔王は、思わず失笑した。
「ふっ、まさかそのようなもので我と戦おうというのかね?」
魔王は嘲笑うようにクリスのことを見る。
「だが、まぁ余興程度にはなるだろうな」
そういって魔王は魔剣を構えなおす。
クリスも剣を構えなおし、一つ呼吸を置く。
ほんの数秒、二人の間には静かな時間が流れた。
先に動き出したのはクリスだ。
聖剣の影響なのか、クリスの身体能力は人を超えたような力を発揮する。
一瞬で間合いを詰めたクリスは、聖剣を振りぬく。
魔王はそれを見切っていたのか、魔剣を軽く動かしてガードする。
続けてクリスは魔剣に添わせて、聖剣を突く。
魔王はそれを、魔剣をひねるように剣先の方向を変える。
突きをかわされたクリスは、聖剣を振り切る力を利用して飛び上がり、そのまま後ろに下がった。
「貴様の能力はこんなものか?さっきの人間のほうがまだ骨のある戦いをしていたぞ」
魔王はクリスのことをステファンと比較する。
クリスは内心、冒険者学校主席のステファンと比較されることに若干の憤りを覚えた。
後方に下がったクリスは、聖剣を構えて力を込める。
魔力が聖剣に流れ、光を伴って輝きだす。
クリスは聖剣を振りかざし、質量を持った斬撃として繰り出される。
複数の斬撃はまっすぐ魔王に向かって飛んでいく。
魔王はこれを簡単に魔剣ではじく。
クリスはそれを見たものの、負けじと斬撃を繰り出す。
これに合わせて、冒険者たちの攻撃魔法があらゆる方向から飛んでくる。
魔王は斬撃を一つずつはじくのが面倒になったのか、魔剣を強く引く。
「
魔王は魔剣をゆっくりと横に振る。
すると、まるで空間が歪んだような波が発生し、魔王の目前で静止した状態で聖剣の斬撃と攻撃魔法を飲み込んでいく。
そして攻撃をすべて飲み込んだところで、魔王は再び魔剣を振る。
するとその波は前進を始め、クリスの元まで近づいていった。
クリスはその波を防ごうとさらなる斬撃を繰り出すが、残念ながら効果は今ひとつのようである。
そしてクリスの目前まで波が迫ってきた。
クリスは直接聖剣で波を受け止める。
振るった聖剣と波がぶつかると、触れ合った部分から黒い光のようなものがあふれだす。
そしてそれは巨大化し、クリスの体と同程度まで大きくなる。
次の瞬間、黒い光のようなものの中心から大爆発が起きた。
まともに食らったクリスは後ろに吹き飛ばされる。
クリスは転がるようにして倒れてしまった。
それを見た魔王は高らかに笑う。
「はっはっは。その程度の攻撃で倒れるとは実力はまだまだだな」
「う……っせぇ」
クリスは悪態を突きながら起き上がる。
スキルを発動し、回復ポーションを取り出す。
ポーションを頭からかぶり、さっき受けた攻撃の傷を癒す。
その間にも冒険者たちが攻撃を加えるが、魔王に一切効いている様子はない。
クリスは再び聖剣を構えると、魔力を込めた。
聖剣の手元が光り輝き、柄の一部が緑色に変化する。
そしてクリスはその場から姿を消した。
クリスの姿を見失った冒険者があたりを見渡しているが、一方で魔王は静かに佇んでいた。
次の瞬間、魔王の後ろにクリスが現れる。
クリスは勢いよく斬りつけにかかるが、それを予見していたのか魔王は一歩も動かずに魔剣のみで対応する。
一度斬りつけたクリスは、再度姿を消す。
クリスは姿を消しているのではなく、超高速移動を繰り返しているのである。
これは聖剣による身体強化の作用によるものだ。
とにかく手数で押し切ると考えたクリスが、聖剣を通じて願った結果である。
クリスは、今度は一瞬止まることなく高速移動しながら斬りつけにかかる。
まるで疾風のごとく斬りにかかるクリスに魔王も対処できないようで、少しづつではあるものの、攻撃を受けるようになる。
そんな攻撃をクリスは移動速度を上げながら何度も繰り返す。
だが、魔王も攻撃の方法が分かってきたのか、クリスの攻撃に合わせてくるようになった。
そしてクリスは魔王のうなじを狙う。
魔王はこれを察知したのか、魔剣でうなじを守るように動かす。
しかしそこに聖剣はなく、なぜか顔の前に聖剣があった。
クリスによるフェイントである。
クリスはそのまま魔王の右目を容赦なく斬った。
「うがぁぁぁ!」
初めて致命的なダメージを受ける。
クリスは一旦距離を取った。
魔王の顔からは血が流れ出し、地面に滴り落ちる。
「くくく。人間がここまでするとはな……」
魔王は感心したように、右目を押さえる。
「だが、これではっきりした。貴様はこの世から消さなければならない」
そういって魔王は剣を構えなおす。
魔剣は紫とも黒とも言い難いオーラによって包まれる。
それを見たクリスも聖剣を構えなおし、力を込めた。
聖剣は真っ白な光に包まれ、輝きだす。
光と闇が拮抗しているような光景が繰り広げられる。
そして二人は同時に叫ぶ。
「
「
二つの剣が同じタイミングで振りぬかれ、クリスの聖剣からは金色の光線が、魔王の魔剣からは常闇の奔流が放出された。
二つの光線は互いの中央で衝突し、強い衝撃波を発する。
冒険者たちはその場に立っているのでやっとであるほどだ。
クリスは全身全霊をかけて光線を放出し続ける。
だが、潜在的な魔力保有量は魔王に劣っていた。
次第に魔王の放つ奔流が押してくる。
「はははははは!どうした人間!その程度のものか!」
魔王は魔力量に物を言わせて、聖剣の光線を押し込む。
劣勢に陥っていくクリスの目前まで奔流が迫ってくる。
「ぐっ……!」
クリスは奔流に飲み込まれる覚悟を決めて、目をつむる。
だがその時、クリスの背中を誰かが押した。
クリスは思わず後を振り返る。
そこにはエレナの姿があった。
「エレナ!」
「私の魔力をクリスにあげる。だから負けないで……!」
そういうと、エレナは自身の持つ魔力をクリスに流し込む。
クリスは少しだけ体が軽くなったような感覚を覚える。
そしてそれを見たペトラやティナも同様に、クリスの背中に手をあてる。
「私たちの分の魔力もクリスに分けます」
「私たちが協力すれば魔王だって倒せるはずだよ!」
そういって二人も魔力をクリスに流し込んだ。
そのおかげか、魔剣の奔流を少しずつ押し込むことに成功した。
「俺たちもやるぞ!」
「おう!」
冒険者たちが駆け寄り、みんなでクリスに手を差し出す。
クリスに集まった大量の魔力を、すべて光線につぎ込む。
その影響か、聖剣は全体が虹色に光り輝くようになる。
それによって金色の光線は、常闇の奔流をどんどん魔王へと押す。
「な、なんてことだ。我の魔法が人間ごときにやられるなんて……」
驚愕する魔王のもとに、完全に押し込まれた金色の光線が照射される。
「ぎぃやあああ!」
全身で光線を浴びた魔王は、断末魔を上げる。
光線がおさまったところで、魔王の体は溶けた鉄のように赤くただれていた。
しかし、まだ息の根は止まっておらず、何か最後の抵抗をするように右手を前に出す。
それを見たエレナが叫んだ。
「魔王は自爆する気みたい……!」
それを聞いたクリスは、反射的に飛び出す。
魔王は抵抗することもなく、呪文を詠唱する。
クリスは虹色に光り輝く聖剣で、まっすぐ縦に振り下ろす。
魔王は頭の先端からまっすぐ真下に向かうように、真っ二つに斬られた。
そして魔王の体は砂のように崩壊していく。
その様子を確認したクリスは、絞り出すように言葉を発した。
「終わった……」
その瞬間、城全体が音を立てて揺れだす。
天井が崩れ落ちていることから、その場にいた全員が城が崩壊することを感じ取った。
「撤退!撤退!」
冒険者たちが真っ先に逃げ出す。
クリスはペトラとティナに肩を貸してもらいながら、その場を脱出する。
クリスたちが最後に脱出すると、まるでタイミングを見計らっていたかのように、魔王城は音を立てて崩壊した。
どうにか崩壊に巻き込まれずに済んだクリスたちは、安堵の溜息をつく。
「これで本当に終わったね」
「えぇ、魔王軍は滅び去りました」
「一件落着ってところかな?」
エレナたちが、さっきまで魔王城があった場所を見る。
魔王城はがれきの山と化し、そこから敵が出てくる様子はない。
クリスは確信した。
本当に終わったのだと。
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