第50話 決戦
魔王はゆっくりとクリスたちのほうへ向かう。
しかしながら、クリスたちの体は一切言うことを聞かない。
そんな中、最初に動き出したのは実力なら随一のステファンだった。
ステファンは足を引きずるような重い足取りだったものの、次第にその動きは軽快になっていく。
そして魔王に向かって全速力で駆ける。
「うぉおおお!」
ステファンは剣を振りかざし、そのままの勢いで突っ込んでいく。
魔王はステファンの動きを見て、ゆっくりと自身の剣を合わせる。
アダマン・ソードとサモンドディザスターがぶつかり合った。
二つの剣がぶつかり合うことで、軽い衝撃が周辺に広がる。
ステファンはすぐさま次の攻撃に移った。
何度も行われる激しい鍔迫り合い。
ステファンは必死になって剣を振るうものの、魔王はそれをいともたやすく受け流していく。
このままでは埒が開かないと考えたステファンは、一度魔王から距離を取る。
そして剣を構えた。
「クリス!アダマン・ソードの強化形態はもうないのか!?」
「え、それは……」
クリスは突然のことで、一瞬何を言われたのか理解できなかった。
そしてそれが何を意味するのか理解した。
「あるにはある。だけどそれは危険すぎる!」
「いいから教えろ!」
ステファンはクリスに強く迫る。
クリスは気迫に押されて、コード
しかし本当にこれでいいのか、クリスは躊躇する。
ステファンが相手しているのは魔王。
コード
それにステファンのプライドが許さないことも考えた。
そしてクリスは決断する。
アダマン・ソードに秘められた最後の強化形態をステファンに教えることにした。
「モード逆流、ザ・セカンド」
クリスは最後の強化形態のコードをステファンに教える。
「だがこれは危険だ!」
「そんなのは知っている!だからやるんだ!」
こうしてステファンは剣を握りなおす。
「モード逆流!ザ・セカンド!」
ステファンが叫ぶと同時に、アダマン・ソードは深紅色に変色し、柄の中心にある巨大な宝石が青色に輝きだす。
それと同時に、ステファンの体に異常がおこる。
アダマン・ソードからステファンの手を経由して、体内に名状しがたい何かが流れ込んできたのだ。
それがステファンの体を蝕んでいく。
「ぐ、うぅ……!」
ステファンは精神が危うい状態に陥る。
名状しがたい何かは無常にも、ステファンの肉体を蝕む。
ステファンの体から赤いオーラのようなものが吹き出す。
ステファンの視界はブラックアウトし、膝から崩れ落ちる。
その様子を見ていた魔王が不気味に笑う。
「この人間はもうダメそうだな。なんとか弱い」
そういって魔王は剣を振り上げる。
ここでステファンのことを仕留めるつもりのようだ。
だが、魔王に攻撃魔法が飛んでくる。
魔王はその攻撃を剣で軽くいなす。
魔王は気怠そうに攻撃が飛んできた方向を見る。
そこにはセシリアがいた。
「わ、私だってできるんだから……!」
セシリアは魔剣の恐怖に打ち勝ち、魔法を放った。
それに気が付いた冒険者たちは、己の精神力で恐怖と戦う。
そして恐怖に打ち勝った冒険者が一人、また一人と出てきて、魔王に立ち向かう。
突撃した冒険者が近接格闘を仕掛けたり、魔法によって攻撃を行ってく。
クリスを含めたホーネット中隊の面々も恐怖から脱し、射撃を開始する。
魔王はそれをダルそうに回避する。
「まったく、虫けらのような連中だ」
「誰が虫けらだって……?」
魔王の小言に、誰かが答える。
その声の主は、ステファンだった。
「俺たちは人間だ……。お前に踏みにじられる存在じゃねぇ!」
そういってステファンは立ち上がる。
まだ息は荒いが、その目は名状しがたい何かに対抗しているように緑色に輝く。
そしてアダマン・ソードを構えると、目にも止まらぬ速さで魔王に突っ込む。
一瞬のうちに魔王の目前に迫ったステファンは、魔王の首を狙って一振りする。
だが魔王はこれに合わせるように、魔剣を持ってきた。
それでもステファンはあきらめずに、身をねじって胴体を斬りにかかる。
しかしこれも魔剣によって受け流されてしまう。
普通の戦い方では勝てないと感じたステファンは、とにかく手数で勝負に出ることにした。
「うぉぉぉ!」
ステファンは10以上もの残像を伴うほど素早く斬りつける。
だが魔王は余裕の表情を見せていた。
「第一の剣、守護」
魔剣は不気味に光り輝き、魔王の周辺を煙のようなものが包み込む。
そしてステファンの攻撃に合わせていくように煙が凝縮すると剣の虚像が出現し、完璧に防御する。
手数でダメだと感じたステファンは、次に行動を移す。
今度は力任せに叩き切る。
だが、これも剣の虚像によって阻まれる。
「くそったれぇ!」
ステファンが怒りに任せて剣を振るったところで、煙の向こう側から突きが飛んでくる。
その攻撃はアダマン・ソードの中心をまっすぐ貫き、完全に破壊した。
ステファンは攻撃された勢いそのままに部屋の中を飛び、背中から地面に落ちる。
ステファンの体を覆っていた赤色のオーラは消え去り、ステファンは気絶してしまう。
「第三の剣、反撃」
魔剣の技によってステファンは行動不能に陥った。
「ふむ。我をここまで楽しませる人間は始めてだ。だが、これまでのようだな」
魔王は冒険者たちの方を向く。
このままでは犠牲者が増える一方だ。
そう考えたクリスは解決策を求めるため、スキルを発動した。
スキルが提示した候補の中に、魔剣に勝てそうなものを発見する。
クリスは縋る思いで道具を召喚した。
すると、クリスを中心に明るい光が空間を照らす。
「なんの光だ?」
魔王がそちらの方を見る。
クリスの目の前上方に召喚時の魔法陣が生成され、そこから一本の剣がゆっくりと現れ出た。
クリスはそれを手に持つと、体中から力があふれ出てくるような感覚を覚える。
そしてクリスの体を、光のオーラのようなものが優しく包み込んでいく。
クリスは一呼吸置くと、魔王に対峙する。
「魔王の相手は俺だ」
クリスは剣を魔王に向ける。
その剣……「
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