第67話 アンコール!
オープニングの楽曲が流れてから約2時間。
全速力で駆け抜けてきたバーチャルアイドル『うしろ』による生配信のライブも、予定していた楽曲をすべて歌いきり、終わりの時を迎えようとしていた。
『みなさん、今日は私のライブに来てくれて、本当にありがとうございました!』
言葉の
『またいつか、今度はもっとたくさんの人に私の歌を届けられるように頑張っていきたいと思うので、これからも、応援よろしくお願いします!』
締めの言葉を力強く放つうしろに、ファンも負けないほどの大きな、しかし温かくもあるコメントを返し、包み込む。
――楽しかったよ。
――次のライブも楽しみにしてます。
――あっという間だった。
『こうしてみると、本当にたくさんの人が来てくれたんだなって……なんだか実感が
――練習はどれくらいやってたの。
『練習はね、ここ数週間ずっとやってたかも』
――過去最高に人が集まってる。
『色々あったけど、私だけじゃなくて、本当にスタッフとか周りのみんなのおかげだと思います。ありがとう、がんばったよ~』
まるで手を振っている様が目に浮かぶようなまぶしい笑顔で、うしろはお礼の言葉を述べる。
高揚感と達成感。
身の浮くような心地よさを覚えながら、目についたコメントを読み上げていくうしろ。
そんな中、とあるコメントが、新たな流れを作り始めていた。
――最後にもう一曲、アンコール。
――時間はまだちょっとあるみたいだけど……?
『う~ん、でも準備した音源は全部使っちゃったしなぁ……』
ファンからのリクエストに、困惑した様子でうしろは答える。
しかし、そのリアクションは拒絶の意思を放つものではなかった。
それを察知してか、それとも単純に場の勢いに任せてか、視聴者はアンコールを求め始める。
――なんでもいいから、一曲。
――アンコール! アンコール!
――オリジナル曲をもう一回聞きたい。
――アカペラでも可。
『う~ん……そうだなぁ……』
予想外の出来事に、困り果てるうしろ。
そこへ、助け舟のように一つのコメントがうしろへと届けられる。
『マネージャーです。うしろさんの判断にお任せしますので、思うがまま、やっちゃってください』
――えっ、マネージャー?
――許可が下りた!
――もう歌うしかない。
思いもよらない後押しに、うしろは仕方ないといった様子で口を開く。
ただ、その声色はとても嬉しそうなものだった。
『それじゃあ、一曲だけ歌いますね。音源の関係でアカペラになりますけど、そこは許してください』
『えっと、何の曲にしようかな……』
そう口に出しながら、うしろは自分の脳内リストから歌えそうな楽曲を検索していく。
瞬間、記憶にない曲の歌い出しが、明確に、うしろの中にイメージされた。
まるで、これを歌えと、誰かが言っているかのような気がしてならない、不思議な義務感。
それに急かされるように、うしろは自然と目を閉じ、気が付ついた時には、すでに歌声を発していた。
それはメジャーと呼ぶには物足りない知名度でありながら、どこかで聞いたことがある、耳馴染みのある曲。
しかし、そのタイトルが頭に中々浮かんではこない。
そんなもどかしさを感じながらも、ファンは率直に感想を漏らしていく。
――あれ? これ、何の曲だっけ?
――この歌、聞いたことある。
――もしかして、この曲って……。
様々な感想が
それは、その場にいたすべての者の心を
記憶にない歌詞と音程。
そのはずなのに、
まるで、自分の知らないところで何十回、何百回、もしかしたら千に届くほど歌い続けたかもしれない――そう思えるような、妙に身に馴染んだ歌。
それは、消えたアイドル『
その後、ライブは無事終了した。
結果からいえば、大成功で終わりを迎えたと言えるだろう。
『みんな、今日は本当にありがとう。バーチャルアイドル「うしろ」を、これからも、どうぞよろしくお願いしますっ!』
一度表舞台から消えたアイドル『羽白蒼空』こと
A-LIVE! 一飛 由 @ippi
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