第2話 春、転職、戸惑い、私が!?

 インターフォンを押すと若い男の子が出てきた。

好みではないが、若い男子というだけで眩しい…

ま、今年29歳。立派なアラサーですからね。


 中に入ると広さ20畳くらいのカーペット床のスペースがある。左手に小さな部屋が3つ。右に事務所と更衣室、お手洗い。独特な作りにキョロキョロと周りを見てしまう。子ども達の姿はまだない。

男子が口を開く

「初めまして。幸田です。あの〜…児発管の先生ですよね?」

…児発管って何ですか?

言葉を飲み込んでひとまず否定した。

「え、違うんですか?そう聞いてたんですけど…ちょっとお若く見えたので聞いちゃいました。あの、この後代表来るんで確認していただけますか?」


 更衣室でパンツスーツを脱ぎ、手渡されたユニフォームに着替える。胸には白くまのマスコットキャラクターラキちゃんがいるポロシャツだ。下はユニクロの黒のスキニーパンツ。更衣室を出ようとドアに手をかけた時ふと思い出した。

「あ、いや、そうだ。」

 

 レザーのハンドバッグから大急ぎで書類を取り出す。中を開けるとトライアル社員の契約書を掴んだ。それを最初に見た時に思っていたのだ。間違った職位の書類だなぁって。


児童発達支援管理責任者


きっとこれだ。

さっきの幸田さん、そして面接管だった代表の坪井さんが言っていた《児発管》って。

面接ではよくわからないから辞退した児発管。

新しい分野だから責任者は無理と断った児発管。

パソコンは一通り使えるけどやめときます児発管。


いやいやいや、断ったよね?

児発管…


 そうだあの時、児発管っていうのを勧められて、断ったつもりだったけど、代表の人の笑顔の押しに負けて「いや〜、無理だと思うのですが…あのどちらかと言えば指導員でお願いしたいですけど…」って余白のある答えをしたんだ。


 ロッカーとハンガーラックだけがある狭い更衣室の床で、5秒間片膝ついて頭を抱えた。



この春、転職した。

有給消化中に転職活動した。

保育園はやめて、年齢層が高い福祉を選んだ。

でも子どもは好きだから、ここにした。


児童発達支援事業所ハッピーベア


 6歳以下の発達障がいの子どもへの支援サービス事業で、療育の分野では珍しいマンツーマン指導。

全国展開する大きな会社で、残業ほぼゼロ。給与は高め。


保育士歴7年。

発達しょう害に関する知識…特になし。

児童発達支援管理責任者って、私には無理です!

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ハッピーベアと青い空 さんとうさん @santosan

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