ハッピーベアと青い空

さんとうさん

第1話 29歳、未婚、転職、どうなる?!

 いつのまにか職場で最年長になっていた。

 パートの2人を除いてだけど。昨日、産休に入った梨紗先生がロッカーを片付けていて、もうしばらく使わないからと、開けていない汗拭き取りシートをくれた。


 勤続2年。転職1回。保育士歴7年。因みに手取りは18万…悪すぎるわけではないけど、贅沢はできない、そんな生活。


 彼氏と別れたのは2ヶ月前で、結婚はお互いに考えていなかった。私の誕生日は今月末。愛情がないからプレゼントも渡したくない?そう思わざるをえない別れのタイミング。本当に腹立つ…私は年末の誕生日にはプレゼント渡したのに!

ま、そんなに高いものではなかったけど。


 来年のクラス編成に向けた会議が始まった。

 主任だった梨紗先生が不在のため、園長がクラスリーダーの職員を呼んで、口火を切る。

「来年度の担任については、すでに私と前主任で大体の編成を決めています。前主任が体調の関係で、3ヶ月早く産休に入りましたので、今後新たに主任として頑張ってもらう先生を決める必要があります…今日集まってもらったのは、新しい主任の選出について皆さんの意見を聞くためです。」

会議に参加している5人の職員の目が私に注がれる。

 年功序列?主任と言ってもそんなに大きな手当がつくわけではないので、若い人はあまりしたがらない。休日に呼ばれることもあるからだ。

 ふと思う。主任になって今より忙しくなったら?婚活も始めなきゃいけないし、そもそも結婚できないかもだし。このまま年取って、若い人の中で働き続けるのってどんな感じなの?園長になる?なるっていうか、なれるものなの…わかんない。

 

そんなことを考えていると、いつのまにか話が進んでいたようだ。数人の職員が私を褒めるような形で推薦したようだった。園長が少し微笑んで私を見る。

「良い意見が聞けたようですね。では今の意見をこの園の経営する本部に提出したいと思います。」

園長の言葉がこの会議を閉じるように響いた。何か他の伝達事項がないかの確認があり、会議が終わる。円座で座っていた職員が立ち上がろうとしたその時だった。

誰かが口を開いた。私だった。

「実家の親が昨日倒れて…すみません、私主任どころか田舎に戻らないといけないかもしれなくて…」

口から出たこの嘘に何より驚いたのは私だった。

ただ、しまった!という感覚はない。恐る恐る顔を上げると園長も驚いた顔をしていた。


 

 それから1ヶ月後の4月。


 私は新しい職場の玄関の前に立っていた。

マンションの1階のピンクのパッケージには白いくまが描かれている。

久しぶりの緊張だ。29歳でも緊張するのだ!


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