第14話 受け継いだもの
体育館はざわついていた。
——パンパン!
指導主任の手を打つ音と、「こらぁ、静かにせんかあ」という大声が響き渡り、やっと静けさを取り戻す。
新学期の始業式は何回経験しても、その度に新鮮な気持ちが蘇る。
この学校に来てもう何年目だろう。始業式から始まるこんな物語、なんかで読んだっけ。厳かに進行する式の最中、私はそんなことを考えていた。
——それでは、今年からこの学校で国語を教えることになりました新しい先生を紹介します。
アナウンスに促されて、ガチガチに緊張した新任教師が登壇しようとして階段でつまづいた。私もあの頃はたぶんあんなに緊張してたのだろう。
小柄な彼女がマイクを渡される。
「えーっ、あの」
しどろもどろが可愛い。
「えーっ、今年からこの学校に採用になりました、国語を担当するの春川桜子です。私がそうしてもらったように、皆さんに文学の面白さを伝えたいと思って先生になりました。たくさん本の話がしたいと思います」
桜子はそう言って頭を下げた。私は手が痛くなるほど先陣を切って拍手を送っていた。
桜子はもともと成績はよかったが、進学校の受験に失敗してこの学校にいた。その桜子が「先生になりたい」と私に言ってきたのは、あのことがあった春が過ぎて、新緑の頃だった。
この学校にもいく人かの進学希望がいるらしく、私も彼女らを全力でサポートし、そして桜子が今壇上にいるのだ。
——桜子、あなたは葉桜だ。
花弁のように簡単には散りはしない。しっかりと枝にたくさんの葉っぱをつけて多少の風にも落ちはしない。
——ああ、また葉桜の季節がきた。
えっ? 私と桜子のリベンジキスはどうなったかって? それは二人だけの秘密……。
(了)
葉桜の君に 西川笑里 @en-twin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます