或る世界にて

風宮 詩音(かぜみや しおん)

或る日

眩しい光はどこからか。小さな窓から日を探す。


真上で見下ろす奴を見て、起こすなといかり耳をく。寝すぎた己にまたいかる。


雨とよるうに消え、溜まった水で日が跳ねる。


小さな扉は錆び始め、ギギギと不穏なを鳴らす。


心地よい風が吹き抜けば、降り注ぐ日の熱も消え、ぼやけた頭もめてゆく。


昨夜の米を少し食い、かばんを持っていざかん。



へい越えさく越え進みき、だいだいの壁の穴を抜け、木々をければ硬い床、こけが彩るアスファルト。


草が伸びた土手の上、雨で増えた川と行く、何かをむさぼる音がする、獣とはえは今日も五月蝿うるさい。


橋の名前は何という、文字は欠け土が埋め、こけおかされわからぬ色よ。


停まる車から擦り寄る猫よ、餌を強請ねだるな今はない、たまにはねずみを捕まえろ。


角を右行き左行き、ビル抜け家抜け段差を越えて、少し背伸びで来てみたは、来たことのない遠い店、少しお洒落しゃれな雑貨屋さん。


窓もグラスも埴輪はにわの小物も、センスの悪い赤い色。


気分も冷めて店を去る、腹の鳴るままコンビニへ、赤いマークは好きではないが、腹のためなら仕方ない。


レトルトカレーとレトルトご飯、いくつか鞄に詰めこんで、来た道帰るは主婦気分、お出かけですかと話す相手はいなくとも、ちょっと買い物と笑いたい。


猫はどこやら見当たらぬ、伸び行く影にかれたか、いたとてやる餌無いのだが。


影も背伸びの夕方よ、少し待っても良いのでは、ゆっくりしててもいいのでは、私はまだまだ元気だぞ、まだまだ遊べるときをくれ。


阿呆あほかすなと信天翁あほうどり、さっさと帰れと群鴉むらがらす、獣と蝿には見向きもされず、猫はツンと知らんぷり。


仕方がなく泣く目指す帰路きろ、先行く影を追いかけて、鞄を撫でれど鳴かぬ腹、腹の虫すらどこへやら。


ならばいいさと開き直ろう、橙バックに黒い人、歩く姿はあいか、げた鞄をゆらゆらと、遠くに見える家目指し、小石を蹴り蹴り進んでく。


夕日と溶け合う色の壁、小さな穴をするっと通り、やはり落ち着くが庭よ、の枝の葉に1つのマッチ、ゆる火もまた日に溶けて、赤い世界にあらわる星よ、くれない以外に何がある?この世にはあと何がある?


熱々ご飯に甘ーいカレー、冷たい麦茶を飲み込めば、身体の疲れもどこへやら、余計に元気がやってくる。


日で作られた電気を流し、日の無い世界をまぶしく彩る。


街から運んだ本の山、上から一冊抜き取って、まばゆあかりで読み進め、ふと見るあれからどれほどか、星の読めない頭では、月も出てない今夜では、今が何時いつかはわからない、どれほど経ったかわからない、今が何日なんにち何時なんじだか、わからぬ今は何なのか。





つるう城によごれた像、雨水を入れたティーカップ。

げた白馬はくばに錆びたレール、壊れた迷路に倒れたボロ屋敷、動かぬトロッコ 流れぬ川 割れた風船 切れたブランコ 沈んだボート ちた機関車 走らぬゴーカート 床のないステージ 上がらぬ花火 やぶけたスクリーン。



人の暮らす観覧車。



ここは夢の国。橙と黒の縞模様しまもようの壁に囲まれた、人の入れぬ夢の国。


本読み物り散歩して、壊れた夢に住んでいる、十五か六の女が一人、今が何時いつだか自分が誰か、忘れてしまった女が一人。



全てを忘れた訳ではないが、好まぬ記憶はしくも残り、なぜ消えないと枕を濡らす。


夜空を埋める星々よ、この世には、あと何がある。


どうして私は一人きり、なにもわからず生きている。









母よ父よ妹よ、周りの人もきぐるみも、赤く散ってどうしたの、世界を染めてどうしたの、何故私だけ置いてくの、赤い世界に一人だけ、私が何かしでかした?私が誰かを怒らせた?


謝る謝る土下座でもする。死んでもいい殺してもいい、むしろ死に方すら忘れた私をってくれ。


だから、、、置き去りにしないで、皆戻ってくるか、、私も連れていって。


お願い、、、お願い、、、怖いよ、、、寂しいよ、、、、、神さ、、ま、、、、





































夜空埋める星の内、一際明るいでかい星、それがピカッと更に光る。


眩しさすらあるその光、何故か元気が溢れ出る。






今が何時いつで自分が誰で、どうして一人で世界が赤いか。あれもこれも覚えてないが、生きる方法は分かってる。


だから眠いしもう寝よう、明日は起きたら街に行こう、少し背伸びもしてみたい、お洒落な店に行ってみたい。


明日は早起きしなくちゃと、手元の本を山の上に乗せ立ち上がる。


灯りと火を消し、ランタンを持ち、寝床へ歩くアスファルト。


ゴンドラの戸がガガガガガ、おもしろい声でで鳴いている、大人数用ゴンドラは、一人で使えば立派なお部屋。


目覚まし時計はないけれど、なんとか起きれる気がしてる、今更降り出す雨に驚き、ランタンの光弱めてく。






世界は闇に包まれる。

















ゴンドラの戸が開かれる。




もう雨あがり、夜も明けて、朝すら過ぎて昼だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

或る世界にて 風宮 詩音(かぜみや しおん) @kazegitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ