活動報告:読了作品を語っていく③
こんにちは。もうすぐ週末ですね(すでに働きたくない人)
さっそく読了作品を語っていきたいと思います。
第三作目はこちら。
■蜜柑桜 様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895729484
蜜柑桜さんは、初投稿作品を拝読したのをきっかけに交流させて頂いている作家様です。その時お目にかかった作品が「時」をテーマとした女性が活躍する本格ファンタジーで、その圧倒的な描写に感嘆したのを覚えています。
以来、短編が好きという共通点から、自主企画でご一緒することも多く(同題異話など)、本企画にも通算三度目、皆勤賞でご参加くださっています。
テレワークが推進する中でかえって忙しくなった側(私も!)ということで、「書き上げるまでは他の作品を読まない!」という鉄のマイルールの状況下、満を持してのご登場です。ありがとうございます。
さて、私の蜜柑桜さんの印象はやはり「情景描写」です。本作でもそれが如何なく発揮されているように思います。この辺は完全に作者様の持ち味だと感じておりまして、他の作品でもそれを楽しむことが出来ます。
(本作を読まれて気になった方は、こちらもオススメです。
→「春風ひとつ、想いを揺らして」https://kakuyomu.jp/works/1177354054895197985
さて、本作では「ある仕掛け」が施されており、具体的には語り部が変わります。テクニックとして効いているのは、この語り部の心情により、情景描写する順番や内容が変わるということです。
情景描写の見せ方として、情報量で圧倒させるという方法があります。読者を世界観に引き込むために、風景をとにかく詳細に描き、読者に息を呑ませる。
他にも、筆致を美しくし、文節に惚れさせるという手もあります。
しかしこれらの方法は、時として過剰な演出になりがちで、押し付けがましかったりするんですよね。「どうだ、ほら、すごいでしょう!。作者はここを読んでほしいんだよ!」という気持ちまで伝わってきてしまう感じです。
例えば直前の会話文のキャッチーさと合わないとか、異世界転生ものでなぜか料理のシーンだけはやたらと描写が細かったり、ラブコメなのに風景描写の一節だけがまるで純文学の形相だったり。
そのようなチグハグさは、没入感をそぐ雑音だと私は感じます。
本作では、情景描写が「語り部の視点」順番で描かれていきます。例えば会話の中で視点を落とした時に手元が写ったり、見上げたときに天候が描かれたり。
これにより、読者が眼にする風景が一人称的に入ってくる(登場人物とシンクロする)ので、映像の立体感とリアルさがぐっとあがっています。それでいて、描かれるシーン自体がまるで水彩画のように柔らかで、なのに写実的で、とにかく美しいのですよね。
それらの要素が合わさって、抜群の没入感が得られます。筆致を追求するという意味では、とても参考になる作品だと思います。
内容ですが、学生の頃、進路だったり、自身の価値観に迷ったことのある人なら、この桜子が抱える闇は、共感できるものなのではないでしょうか。しかし、普遍的ながらも繊細なテーマを取り扱っており、それが自然な描写により立体感を得て、読者に突き刺さるものになっています。
また途中、葉太の過去が明かされるのですが、そこで葉太が感じていたことも、同じような経験をされた方は(比較的多くいると思っている)思わず苦い顔をしてしまうかも知れませんね。あー、わかる、そうだったわー、と。
少なくとも私は音楽学校出身なので、「才能」とか「価値」とか「自己肯定」とか「世間からの評価」という要素は嫌というほど触れてきていたので、共感性が高かったです。
そんなリアルを追求した精神性の高い本作。どんなエンディングを迎えるのかは、ぜひ読んで皆様のフィルムに収めて頂きたいと思いました。
■ポイント
・情景描写のテクニック、特に語り部の視点順に描かれる点に注目
それでは、また。
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