-Last- 歯車を持つ少女

「きっと、僕の役目はここまでだ」

「どうだろう?向こうに行っても、またバタフライ・エフェクトのように徐々に徐々に世界を変えていかなくちゃならないのよ?その時は必ずここの近辺まで歯車を戻す。きっと、また戦争の真っただ中に戻ることもあるはずだ」

「……そうか、そうだったね。君はいつだってその歯車を戻せばこっちに戻るのか」

「ええ、そうよ。それに、今は1人で月に行くけど、ずうっと後…月を出て、この銀河のどこかへ出るとなれば…その時、ここにいるのは私だけじゃないはず」


私は時代遅れの携帯電話にそういった。


通話の相手は、幾多の時を友人として過ごした彼だ。

時として彼女、時として彼。

彼はやり直した…いや、歯車の気分次第で男にも女にもなって私の前に現れていた。


今の彼は、私の彼氏。

…最も、3か月だけ。その期間だけの、僅かな青春だった。


「また、右手を無くした君と満州を這いずり回ることもあるでしょう…?それか、何気ない札幌の大通にある喫茶店でコーヒーを飲んでるかもしれない。どれだけ歯車を回しても、貴方が私にとって唯一の友人なら、きっと最後まで友人でいるものだよ」

「……そういってくれると嬉しいね。常に傍にいた甲斐があったかな?」

「ええ、あったあった。宇宙の果てまで行こうっていうのに、一人は辛いもの」

「そうだよね……おっと、そろそろじゃないかな?時間だ」

「時間ね……それじゃぁ、一回目の月を楽しんでくるわ……」

「ああ、頑張って。また次の世界で…さよならだ」

「サヨナラ…その時までお元気で」


そう言って、私は折り畳み式の携帯電話を閉じた。

そうやって……生涯唯一の友人と別れを交わして1日後。私は月面昭和基地に降り立った。

エレベーターから降りて、すぐに懐中時計を取り出してみる。


"OUTSIDE VOYAGER"


その字面を見た私は、思わず笑ってしまった。

その様子を見た駅員が、訝しげな顔でこちらを見る。

私は気にせずに、表情をもとの仏頂面に戻して懐中時計を上着のポケットに仕舞い込んだ。


ボイジャーの外側…遠い記憶だが、私にとっての1周目の世界ですらボイジャーはこの銀河を脱出している。

その世界は、69年の月面着陸以来、一切ほかの惑星に人を送り込んでいないというのに、そんな遠くにまでロケットを飛ばしたのだ。

じゃぁ、この時代は?軌道エレベーターとかいう、空想の産物が公営で動いているこの世界のそれはどこまで行ったのだろう?


氷点下のエレベーターホールで、私は立ち止まって考えた。

無機質に、今日の出来事を伝える電光掲示板がその答えを持ってきてくれた。


"ボイジャー1号・天の川銀河を脱出…"


その外側か。そもそもどうやって先を急ぐボイジャーに追い付けというのか。

私はその電光掲示板を眺め…そしてゆっくりと歩き出した。案外、歯車を回す用事はすぐそこにありそうだ。

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歯車を持つ少女 @HaruhikoAsakura

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