-4- 特異点の世界

「じゃぁ、由美はこの星の人じゃないってこと?」

「そうなるね。この結果を見てみるとだけど」


私は身体測定の結果を見ていった。

今は1990年。世が平成と変わり、暗い8月15日を迎えなかったこの国は、徐々に徐々に歪な進化を遂げていった。気づけば周囲には遠い星から来た…人間とほぼ9割9分変わらない存在が普通にいる時代になった。

今私が見ている身体測定の結果もその一つ。一体どんな仕組みなのかわからないが、たった1回、金属探知機のようなゲートを通るだけで、この国の人間か…いや、この星の人間かどうかがわかるのだという。


結果、私は違う星の人間だった。記憶にある限り、私は地球の地面しか踏んでいないはずだが……

いや、度を越してしまったのだろうか?今もポケットに忍ばせている歯車を何度も戻し、毎度のように徐々に徐々に世界を変えていく…その慣れの果てはもはや異星人なのだろうか?


「でも、私は君のこと、幼稚園に上がる前から知ってる。親もちゃんといる…そんなわけないよね?」


私は胡散臭い占いのような結果を突き付けてきた用紙を折りたたんでファイルに閉じた。


"判定:Z- 現在時空の人間ではない可能性大。今後、要監視"


…友達には見せていない、もう一枚の用紙に書かれた内容を見た私は、クスッと苦笑いする。


「どうしたの?」

「いや、それ以外はいたって健康だなって」


私のことを訝しげに見た友人の言葉を、適当に誤魔化すと、私はすっと席を立った。


「ちょっと由美?」

「保健室で寝てくるよ。次の授業の先生はどうも苦手でね」

「……また?由美の気持ちも分かるけどね…」

「ん?サボるのはこれが初めてだけど」

「この世界では…でしょう?私知ってるんだから」


何気ない会話で、とんでもない方向に話が行った瞬間。

私は目を少し見開いて、友人の腕をつかんだ。


「え?」


驚く友人をよそに、人気のない廊下の果てまで小走りで連れていく。


「まただ。また君は私のことを感知した…いや、してしまった」


私は少し落ち着きなく、彼女に詰め寄る。


「答えてくれ。君は一体何者なんだ?どうして私が…私がいろいろな世界を越えてきたんだと知ってる?」

「……それは、由美。由美は変わらないけど、私は常に変わってるもの。気づくわけないよね」

「え……それはどういう…?」

「何時かの隻腕の兵士も、何時かの女の子も…幾多の世界で貴方が友人と呼べたたった一人の人間は全員私よ」

「じゃぁ…私の行き先も……?君は私のすべてを知ってるってことだろう?」

「ええ。それは1975年の由美が言ってた。月でしょ。由美は…最後はこの銀河を出て、宇宙の端…"可能性の特異点"を目指してる。月へ行くのは、その一歩目ってことだよね」

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