-3- それは叶わぬ夢
引き金にかけた指に力を入れる。
その刹那。暗闇にまばゆい光が一瞬煌めき、つんざくような銃声に遅れて、男の悲鳴が耳に入ってきた。
1945年の満州。私はついさっき目の前で木端微塵になった名も知らぬ日本兵の装備品を手にして港を目指していた。
ここは満州のど真ん中。すでに敗色濃厚な日本人に友好的にしてくれる外国人なんざいるわけがない。
誰を見ても、次には憎悪に染まった顔を見せて銃口を向けてくる。
だから、私は銃弾でお返しというわけだ。何度目……歯車をこの年代に合わせた最初の数十回…いや、数百回は道中で無様に死にさらしていたが、最近は全くと言っていいほど死ななくなってきた。
小柄な私が見上げるほどの、ソ連の大男ですら腕一本で殺せる。
あれだけ悩まされた大口径歩兵銃の扱いもすっかり慣れた。
「お嬢さん…どこで銃の使い方を?」
私についてきた…否。木端微塵になった日本兵の同僚…相方が言う。
口調こそ勇ましい彼は、今は亡き相方とともに吹き飛んだ右腕の付け根を抑えて痛みに顔をゆがめていた。
……それでも、彼は5回に4回は私に最後までついてきて、腕一本を失った程度で日本に戻れるのだ。
「遠い過去に貴方にさ」
私は戦火の中で淡々という。
間違えたことは言ってない。何度もやり直した最初のほうは、腕がない彼の代わりに銃を握る私にあれこれ言ってきていたはずだ。
「またまた冗談を」
「……秘密っていうことだよ。私にも思い出したくない過去があるんだ」
そういって、私は銃を持ったまま、廃墟と化した民家の中に飛び込んだ。
男も私についてきて、左手に持った拳銃を向けながら部屋の中に何もいないかを確認している。
周囲も静まり、静寂に包まれたのを確認すると、私たちは壁に背をつけ、床に座り込んだ。
「その白い髪は何かの病で?」
「さぁ?私の一族で偶に出るんだってさ。白い髪に赤い瞳の女が」
私は腰につけたポケットに入っている銃弾を歩兵銃に詰め込みながら言った。
「ここから日本が勝つって言ったら。貴方は信じる?」
「なにを今更……もうこの国は手遅れですよ。生き延びれてることすら奇跡さ」
「…そうね。こんな一言、つい半年前に言ったらすぐに捕まってたのに、今やこうなってるんだもの」
遠くで爆発音がする。
私はそれでも落ち着きを崩さずに、体の力を抜いている。
「でも、半年で世界は変わるもの。今から先のことなんて。半年後のことなんて、誰もわからないの」
「?」
「もしここから25年生きてたら…人が月に降り立つ瞬間を見れるのよ。たった数時間……なんて」
「……」
「クッ…クク。信じられないでしょうけどね?私はちゃんとこの目で見てるから…貴方の将来もちゃんと」
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