EX15 可愛い妻と年明け②

「改めて、明けましておめでとうございます」


「おめでと……」



 年が明けて訪れた元旦はほとんど由季と愛し合っていた為に、本当の年の始まりは一日後のようなものだった。流石に長時間愛し合う行為は翌日にも影響を及ぼした。二日酔いにも似た症状だ。飲んだことないけど。


 お陰で今すぐに寝たい。しかし、反対に由季は元気が一杯だ。どこからその元気が溢れてくるのだろうか。



「えっちもいいけど、今年は正月らしいこともしたいね」


「そうは言っても外に出ないでしょ」


「出ない。渋○とか馬鹿ばっかりの街は絶対に行かない」



 朝のテレビで放送されていた新年のカウントダウンで渋○に人がうじゃうじゃいた光景を見ていた由季は嫌な顔をしていた。



「行ったことあるのか?」


「小学生だった時に一度だけ両親に連れて行かれたことがあってね……。その時の私の気持ちは虚無だった」



 小学生の由季と言ったら、不愛想の塊みたいなものだ。それなら人混みが凄い場所にいれば現実逃避していたのも分かる。



「でもね、そこで一つ興味を持ったものがあるの」


「どんなものなんだ」



 あの時の由季が興味を引くとはどんな凄いものなのだろうか。



「装飾が派手なものでゴスロリと呼ばれてる服」


「ゴスロリ……」



 聞いたことがある。確か、フリルとかアクセサリーがふんだんに使われている女性向けの服だ。街中で稀に見たことがある。そういう装いをする人を巷では痛い人と言うらしいが詳しいことは分からない。



「興味を持ったは良いけど、着てみたいとかは思ってなかったの」


「の?」


「うん、欲しがってると思ったのかお父さんが買ってたの……」


「おぅ……それで着たのか?」



 俺の問いに由季はスマホを弄って画像を送付してきた。その画像は写真をスマホで撮ったものだった。画像の読み込みが完了すると同時に俺は息を呑んだ。



「爆弾じゃない」


「そこじゃないよ」



 黒いワンピース型で黒と白のレースやら、リボン等がたくさんあしらわれている。髪留めとして黒いカチューシャが付いていた。由季は頭とか髪に付けるアクセサリーは風呂上がりにヘアゴムを付けるぐらいなので意外と新鮮だ。


 控えめに言って。



「可愛い。膝の上に座って欲しくなるな」


「分かった」


「今の由季じゃない」


「まさか……ゴスロリ着て欲しいって言うの?」


「……ちょっとありかもな」



 子供の頃で似合っているのなら、大人である今でも似合うのではと思った……こともない。



「そっか。こういうこともあろうかと……」



 由季はベッドの下をごそごそとして、一つの大きな袋を取り出した。



「じゃーん、ゴスロリ」


「なんで持ってんだ」


「他にもメイド服とかナース服とか色々あるよ」



 最近、配達業者がよく来るなと思っていたが、こういった特殊な服を買っていたのか。


 だけど、由季のメイド服……。



「……ゴスロリの後でいいからメイド服着て」


「ふふっ、お給金は弾ませてもらいますね」




 **** ****




 新年明けてから何かとイベントが起き過ぎである。もうちょっと、ゆったりと落ち着いた日常を過ごしたいものだ。それに年の始まりがゴスロリってどうなのだろうか。あるとしたら着物だと思うのだが……。



「着替え終わったよ」



 そんな考え事をしている間にもゴスロリを着たようなので早速、部屋の中に入る。普段の着替えだったら、別に部屋の外に出る必要もないが、こういう普通じゃない着替えの時はビフォーアフターを楽しみたいのだ。



「どう……?」



 衣装のデザインは小学生の時に着ていたゴスロリとそれほど変化はない。だが、成長した姿だと印象が違った。



「綺麗だ。可愛い系とはまた違ってくるな」


「ありがと。ポーズ入ります?」


「カメラマン役しろと……」



 俺がスマホのカメラを由季に向けると、何かのスイッチが入ったのか表情がガラリと変わった。俺に見せていた笑顔は消え去り、今にも消えてしまいそうな儚い雰囲気を醸し出した。


 ところで、ゴスロリって悲しいものなのだろうか……。


 俺が困惑していると由季の雰囲気も元に戻った。



「何か違った……?」


「いや、ゴスロリのキャライメージが分からないから何とも」


「じゃあ、違うのでやる」


「違うのがあるのか……」


「お兄ちゃん……」


「っ⁉︎」



 突然のお兄ちゃん呼びだ。一人っ子の身からしてみれば憧れる呼び名である。



「ツーショット撮ろ?」


「い、いいぞ」



 気を取り直して、俺と妹になった由季は頬をくっ付け合って一枚、爆弾を押しつけられて一枚、お互いの頬にキスし合って一枚ずつ撮った。



「ふふっ、お兄ちゃんとキスしちゃった♡」


「……なんだこれは」



 いつものキスと全く違う。簡単に言ってしまえば禁断の関係というものだろうか。いけないことをしている気分だ。だからこそ、滾ってくるものがある。



「由季、その……」


「私もお兄ちゃんと……」



 やばい。


 頭の中はその三文字でいっぱいになった。


 俺は考えることを放棄し、由季に覆い被さった。




 **** ****




 数時間後、疲れ果てて眠りに就いていた俺は頭に感じる柔らかい感触を受けて、目を覚ました。



「あ、起きた」


「おはよう……っ!」



 膝枕をしていたのはメイド服を着ていた由季だった。只でさえ可愛い由季がレベルアップを遂げていらっしゃる。



「お給金は前払いで貰ったから、今度はご主人様・・・・が堪能してね」

 

「もう堪能したけどな」


「ふふっ、ご主人様があんなにがっついてくるのちょっと驚いちゃった」


「由季には敵わないよ」


「おかげで分かった。ご主人様はコスプレえっちに燃えると」


「否定はできない……」



 今は体力を使い果たして性の欲求は湧いてこないが、平常時だったらメイド服を着ている由季に興奮していると思う。



「楽しみが増えたね」


「絞られる機会が増えた……」


「なんだかんだ言っても、ちゃんと相手してくれるもんね」


「反動が怖いからな……」



 適度にガス抜きをしないといつ暴走するか分かったもんじゃない。まぁ、俺もしたいと思ってるから成り立っているんだが。



「そういえば、今年に入ってから言い忘れてたことがあったから言うね」


「なんだ?」


「愛してるよ、ゆう・・


「……完璧だ」


「メイドである前に私はゆうの妻だから、好きとか言う時はご主人様って呼ぶのは違うんでしょ」


「俺以上に俺のこと分かってるよな」


「でも私のことはゆうの方が分かってる」


「「夫婦だから……」」



 そして、お互いに惹かれるように抱きしめ合って唇を重ねた。

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幼い頃から幼馴染に構いまくった結果 〜デレデレになった幼馴染をこれでもかと甘やかします〜 スラ星 @kakusura

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