近未来SFでサイバーパンクでディストピアでポストアポカリプスでハードボイルドでオカルト……という、約三万文字の中にひしめき合うようにして多彩な要素が詰め込まれた、豪華なアンソロジーかと見まごう作品です。手に取りやすい文字数ゆえに、前述のジャンルの中にピンとくるものがあれば、即座に読んでみてほしいのが本音。
そのうえ、本作を際立たせているのが「漫画を主体としたオタクカルチャーの柱」です。
パロディネタは第四の壁を超えてしまうため、好みが分かれ、時には現実との差異を自覚してしまいかねない扱いづらい要素ですが、それをあり得るかもしれない未来を舞台にすることでシームレスに踏破しています。
本作を敢えて言い表すなら、「近未来SFオタクカルチャーフィクション」でしょうか。とはいえ一言で表せないのが魅力であり、現実の延長線上にあるためカテゴリーの現代ファンタジーもまた、あながち嘘ではないというのが最大のネックかもしれません。
正直、こんな内容でちょっと感動してしまった自分のオタク気質が悔しい。
舞台となるは、ウイルスのパンデミックにより文明が崩壊しかけた近未来サイバーパンク風ワールド。運び屋の「オーク」が事故を切っ掛けに出会った「ガイア教徒」のシスターは、怪しげなトランクを所持していた。その中身こそ、崩壊世界の命運を決する新発明であり、旧世界ではラブドールと呼ばれる愛玩人形であった…。
自衛隊とガイア教徒の両組織に狙われるシスターを助け、運び屋は「オーク」の名にかけて依頼を遂行し、乙女をヒィヒィ言わせることが出来るのか!?
実に様々な漫画やゲームのネタが満遍なく散りばめられた恐ろしくカオスな世界観でありながら、世紀末アクションとしての体を崩さず、現代風刺と毒舌で常識人をノックアウトする「恐ろしくアクが強い」ハードコア作品。
一見すると無茶苦茶に思えて通すべき筋は通しており、伏線も序盤からきちんと張っている憎いヤツ。キャラクターもワイルドな世界観にピッタリでタフな…しかしながらオタクである魅力的な連中ばかりだ。バトルシーンに欠かせぬ能力者をSF科学で説明付けながら取り込んでいる点も見逃せない。
なぜ文明崩壊後にサブカルチャーがもてはやされるのか、なぜラブドールごときに世界の命運がかかっているのか、作品の根幹部分は至って真面目に作り込まれておりパロディの一言で切り捨てるには勿体なさすぎる佳作なのだ。
オタク特有の早口で語ってしまったが、ようするにだ。
漫画好きでサイバーパンクに抵抗がなければ、絶対に楽しめる。
どうだい? 君もオタクに堕ちてみないか?