最終話 私を処刑しようとは——
あれから、私達は馬車に詰め込まれ、隣国の都に連れて行かれた。
私の知らない間に留学の話が進められていたのだ。
知らなかったのは私だけだったようだ。
レナートが首謀者なのだが、グラズもカリカも、そしてマヤまでもが秘密裏に準備を進めていたのだ。
私がごねるのを心配したからだとか。
そんなに私って、我儘だと思われていたのかしら?
私とヴァレリオの婚約破棄やレナートの王位継承権放棄の話など様々なことが発表され、王都は騒然となった。
その混乱から私達は、逃げたようなものだ。
おかげで、隣国に来てからは静かな学生生活を過ごさせてもらっている。
私の父上や母上は、屋敷に残りいつも通り暮らしている。
影響は小さくないようだけど、渦中の私が国外に留学に出たことで多少は緩和されているようだ。
ヴァレリオはあれから再び学園に通い始めたという。
以前より気さくさが増し、クラスの皆とも仲良くやっているという。
あまり話が出来ないうちに、ヴァレリオと会えなくなったのが心残りだ。
レナートとの関係など状況が変わったため、もう一度話をするべきなのかも知れない。
いずれヒマを見てこっちの国にも来るとのことなので、その時を楽しみにしている。
クラス(グラズ)は戦闘や魔法の講師として学園に招かれた。
先日の悪魔来襲の事件で、その功績からソイン教授が推薦したのだという。
ヴァレリオが学園に通う理由があるとすれば、彼が目当てなのかもしれない。
時々、二人は広場にて剣を交わしているのだという。
悪魔が教師とは——学園や王国にバレないことを祈るのみである。
アリシアは、今回のレナートが画策した作戦の外側にいて、私が国外に出たことを後から知ったのだという。
なんとか私たちのように留学をしたいと準備を進めているようだけど、費用面などいくつか問題があり、実現には到っていない。
しかし、彼女の性格のことだ。
きっと、私を追っ手やって来ることだろう。
妙な約束をしてしまったので、忘れてくれるのを祈るのみだ。
カリカは——。
「ロッセーラ様、おはようございます。では、魔術学院に向かいましょう」
カリカは、この隣国の魔術学院に一緒に通うクラスメートとして、相変わらず親しくしている。
彼女の魔法量はさらに増大している。
どこまで増えていくのか、とても楽しみに思っている。
多分、前世の私を超えていくだろう。
精神的にも強くなり、笑顔も本当に増えた。
そして可愛さも増していて、学園では男女ともに多くの視線を集めている。
私に構わずに、自由に交友関係を広げていいと伝えているのだけど、私から離れようとしないのが少し心配でもある。
「あ、レナート様もいらっしゃいました」
レナートも私達と同じ魔術学院に通っている。
王位継承権を放棄したこともあって、クラスメート達は気さくに彼と接しているし、レナートはそれを歓迎しているようだ。
「ロッセ、カリカさん、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよ! レナート」
放課後、教室でレナートが話しかけてきた。
カリカは用事があるらしく今はいない。
「ロッセ。週末は何をしているのですか?」
「そうね。せっかく都にいるんだから、美味しいスイーツでも食べに行こうかしら、カリカと」
「……たまには二人で出かけませんか?」
あら、珍しい。
だいたい休みの日は、彼は戦闘の修行をしているようなのだ。
「修行はいいの?」
「たまには、息抜きをしたいと思いまして」
前世でも今世でもほとんど戦闘の修行をしなかった彼。
これは、大きな変化なのだと思う。
いつかヴァレリオに再戦を申し込むつもりなのだろうか。
「うーん、どうしようかな」
「まだ怒っているのですか?」
私に黙って準備を進めてこの国に連れてきたこと。
もう怒ってはいないのだけど、このままあっさり許すのももったいないと思う。
「そうね。……また同じ事をしたらレナート、あなたを処刑しようと思うの」
「まだ怒っているのですね」
「レナート、違うわ」
「何がですか?」
「処刑すると言われたら、こう言い返すのよ。『処刑しようとは、いい度胸だ!』って」
「それは貴女でしょう?」
レナートのあきれ顔がおかしくて笑い出すと、彼もつられて笑い出した。
その笑顔を見ながら思う。
この先、何があるか分からないけど、この人と一緒に生きていこう。
前世からの縁が今世でも、ずっと続きますように。
私は、改めて、そう願ったのだった——。
【完結】魔王だった私が悪役令嬢に転生したのはいいけど、なぜか元勇者もいて正体を見破られたようです。 〜 私を処刑しようとはいい度胸だ 〜 手嶋ゆっきー💐【書籍化】 @hiroastime
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