エピローグ 切なる願い。
創立祭の後のこと——。
自室で休もうとしていた私の元に、レナートがやってきた。
いつになく憔悴している彼が。
「ロッセ、私には君が必要だとつくづく思いました」
レナートが俯いて言った。
私を引き寄せる腕には、力が入っていない。
よほど、ヴァレリオに負けたのがショックだったのだろう。
「あれは、ヴァレリオの作戦勝ちね。レナートは油断したのでしょう?」
「そうですね。いや、油断なんて言い訳に過ぎません。あの瞬間、確かにヴァレリオは私を上回ったのです」
「そう……」
だからといって、これほど落ち込むのだろうか?
私を賭けの対象にしていたのは知っていたけど、こんなことで本当に決めてしまうほど、彼らは愚かでは無いと思う。
ゲームではヴァレリオがレナートに勝つのは、もっと後の筈だった。
彼をこれほどまでに急激に強くしたのは、一体何なのだろう?
「負けて初めて、改めて、君が必要だと思いました——思い知りました。ヴァレリオより、私の方が貴女を必要としている。私は弱い。弱いのです」
レナートの言うことは、分かるような……分からないような。
負けないと自信を持っていたのかもしれないけど、それにしても落ち込みすぎだと感じる。
「そんなことを言っても、レナートは私の知る限り人として最強だと——」
「本当に強いのは、ヴァレリオのことを言うのです。ヴァレリオは真の強さがあり、弱い私にそれを
これまでの自身が全て崩れ落ちたのだと。
その自信とは生まれ持っていた才能によるもので、失うのは一瞬だったと彼は言った。
私は、そんな彼をただ抱き締めることしか出来なかった——。
数日後。
その日は休日で、私は学園から屋敷に戻っていた。
久しぶりに会う父上や母上に挨拶をして部屋に戻ると、ベッドに転がりくつろぐ。
ああ、これよこれ。
こういうのでいいのよ。
「あぁ、やっぱり家は楽ね」
などとのんびりごろごろしていると……マヤが息を切らせてやってきて私に言った。
「レナート殿下がお見えです」
「えっ? そんな予定あったかしら?」
驚く私の表情が落ち着く前に、部屋のドアが開く。
そして、正装をしたレナートが入ってきた。
何この既視感……?
「ロッセ、こんにちは」
「こんにちは? 今日、こっちに来る予定だったかしら?」
「いいえ。予定はありませんでしたが、今日はどうしても伝えたいことがありまして、やってきました」
そう言って、彼は私の手を取り……私を立ち上がらせて、こともあろうに跪いた。
えっ。
既視感の連続なんですけど。
ヴァレリオが私に婚約を申し込んだときの風景とダブる。
レナートは咳払いをし、ゆっくり喋り始めた。
「ロッセ。ロッセーラ・フォン・クリスティーニ
嘘でしょ?
そんなこと……できるはずがない。
ヴァレリオとの婚約破棄もまだ時間が経ってない。
だいたい、王家は聖女……即ち、私との結婚を禁じているのに。
「ちょ、ちょっと、レナート? あなた、こんな冗談を言うような人だったかしら?」
「冗談ではありません。私は大真面目ですよ。さきほど、私は王位継承権を放棄して来ました」
「えっ」
「従って、私とロッセの婚約を阻むものはありません」
……。
えっと……嘘でしょ?(二回目)
「いや……それ本当? 王国はどうするのよ?」
王国を第一に考えていた彼の事を考えると、到底信じられない。
それに王位継承権を放棄すると聖女と結婚してもいいものなのだろうか?
「継承権一位の兄もいますし、ヴァレリオもいます。問題無いでしょう?」
「いや、そんな……簡単に言うけど……」
「まあ、色々と裏技を使いましたが。全て上手くいきました」
はぁ、いったいどんな手を使ったのか。
あんまり聞きたくないな。
「——それで、ロッセ、返事はいかがでしょう? すぐ決められないなら、また後日にでも」
「私は」
私の口が勝手に動き出す。
「私は……はい」
なんだか微妙に【
まあ、本心は嬉しいのだけど、いいのか?
「ありがとう」
レナートはそう言って、私の手の
パチパチパチ……。
いつの間にか周りにいたマヤや他のメイド達が拍手をしている。
ちゃっかり、クラスの姿も見えるし……。あれ? あそこにいるのはカリカじゃないの?
「では、ロッセ。これから早速、婚前旅行に行きましょう」
そう言って、パチンと指を鳴らし、部屋を出て行くレナートや執事達男性陣。
え?
「ちょっと、何を言って——」
「お嬢様、支度はできております」
「マヤ?」
「ロッセーラ様とこれからも御一緒できるなんて、とても嬉しく思います」
「カリカ?」
状況を掴めないうちに、てきぱきとメイド達が私を着替えさせていく。
えっ、ねえ……
「一体何がどうなってるのーー!?」
私は【
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