3
「暑いの、暑い」
錯乱状態にある夏子は叫んだ。振り回す腕が、ぺチぺチと何かに当たる。
「温度を下げなきゃ。どうにかして下げなきゃ。アサギが死んじゃう!」
その時だ。空気に割って入るように、夏子を呼ぶ声が彼女の耳に届いた。
「夏子さん」
夏子の肩を押さえる青年は、アサギだった。ただし、翅はない。青いつなぎのような服の上に、白衣をまとっている。
「部屋から出てはダメだと言ったでしょう。さ、帰りますよ」
夏子は
『また脱走か』
誰かが言った。
「外に……」
混乱する頭で、夏子はつぶやいた。
アサギだと思った青年が、困ったように笑う。
「出たら、死んじゃいますよ。外は今日も、50度を超えていますから」
どこからか、ラジオが聞こえてくる。
「2220年。8月21日。気温は51.4度を記録し、歴代最高気温を更新しました」
世界は今日もうだるように暑い 灰羽アリス @nyamoko0916
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