Exit

円石アルガ

第1話 Exit

 Exit


 暗く狭い部屋の小さな窓から見える空は、高く、どこまでも青かった。

 覚醒。重たい瞼をゆっくりと開け、薄汚れた灰色の天井を認識する。ああ、朝が来てしまった。永遠に眠っていたいのに。古ぼけたベッドから起き上がる気力もない私は、そのまま仰向けで、部屋たった一つの窓のその先を、どんよりと沈んだ目で眺める。

(晴れか……)

 澄んだ空なんてこんな時期に珍しい。ベッドに寝そべったまま、私は情報端末の電子スクリーンを起動させる。目の前に展開される質量のない光の板。眼前に表示されたのは、なんのことはない、天気情報だった。

 色のない数字、文字列の羅列。それらが今日も無感情に淡々と世界の状態を説明する。

 西暦二一一六年、十二月五日、土曜日。午前九時十三分。ケンブリッジ、摂氏三度。快晴。十日ぶりの晴れ。午後から徐々に雲が増える。午後三時頃からところによりにわか雨。降水確率六〇パーセント。夜は雨。洗濯物は干さないのが吉。明日は曇り、明後日も曇り、ここ一週間は曇りの予報。

(リベカが死んだ日もこんな天気だった)

 ふと思い出す。

 あの日は。

 曇りが何日も何日も続いていたある日。あの日の朝だけは雲ひとつない真っ青な空が広がって。梅雨なのにありがたいことだなんて喜んでいるうちに午後には雲が増えて。黒い雲が立ち込めて、にわかに雨が降りだして。……そして日が差さないまま。

 リベカは死んで。

 私の心はずっと曇りで。

 じわり。目頭が熱くなる。じわりじわり。不可抗力かつ自然な反応。まただ。目の前が確かに歪んで崩れる。漏れそうな嗚咽を抑えながら目元を隠す。だめか。目尻から塩味の雫がこぼれ落ちて枕にしみをつくる。朝はいつもこうだ。朝は苦しい。朝は白すぎるから。

 泣き疲れて泣き疲れても枯れることを知らない涙。あれから一年。十九になった私は、何も変わってはいなかった。


(休日、か)

 今日は無理やりに「元気」を取り繕わないで済む。

 深呼吸をしてから、鉛のような体を転がしてベッドから抜け出す。立ち上がるのも億劫な私は、腕や脚を赤子のようにばたばたと動かし、蛇のように這って小さなシャワールームに向かう。

 洗面所のドアは開いていたから、立ち上がってノブを回す必要はなかった。が、いつまでも這いつくばっているわけにはいかない。

 劣化し黄ばんだ洗面台に手をついて、よろめきながらやっとこさ立ち上がる。体力がない。俯いてため息をこぼしてから、特に訳もなく水垢だらけの汚れた鏡を覗き込んだ。

 私の顔。

「はは……」

 思わず乾いた笑いが出る。

 これはまずい。病人の顔だ、否、死相だ。腫れに腫れた瞼、取れない目の隈、落ち窪んだ目。痩けた頬に、やつれた顔。いや、当然死相だ。何故なら私の心などとうの昔に死んでいるのだから。

 ふっ、と鼻で笑いながら、鏡に背を向け、寝間着のボタンに手をかける。全身が怠いせいで脚こそ言うことを聞かないのだが、そう力を必要としない手先での作業は特に苦労せずにこなせる。

 一つ、また一つとボタンを外し、寝間着の前を開けた状態で少し後ろに背を反らすと、私の体を包んでいたねずみ色の布はするりと落ちた。私はそれを無造作に洗濯物カゴの中へと投げ入れて、だぼついたズボンを下げる。顕になる血色の悪い、不健康に白い太腿。最後に体を動かしたのは何時だったろう?

 白く飾り気のない安物の下着をなんの感情もなく脱ぎ捨てて、私はシャワールームのガラス戸を開ける。

 人が一人立つので精一杯なくらいの狭い空間。二日ぶりのそこは寒く乾燥していて、まるで独房のようだった。

 足の裏が凍るように冷たい。囚人気分の私は、顔を顰めつつ、千切れてボロボロのスポンジを手に取り、熱湯、冷水、双方の蛇口を捻る。

 水の音に耳を塞ぎたい気持ちを抑えつつ、ちょうどいい温度になったのを確認して、スポンジに水を含ませる。

 空になりかけのボディソープ。これもまたそっとスポンジに垂らし、泡立て、そして全身を擦る。白く覆われていくさもしいからだ。この世に拠り所もなく、芯もなく、吹いたら飛んでいってしまいそうなほどに弱々しいからだ。

 鉄の玉一個であっけなく散るいのち。

 頭頂からシャワーを流す。もう何もかもが厭だ。曇っていくガラス戸。流れていく白い泡。重くなっていく頭。

 晴れない。

 やめたい。

 手にシャンプーを取りながら私は、水の感触を感じまい、感じまいとする。

 温い水が私の脚を、腕を、胸を滑り落ちる度、私は思い出してしまうのだ。リベカの紅い紅い鮮血の温度を。腹にズブリと刺さった銀色の包丁を。光の宿さない青鈍色の瞳を。

 あの海の底の色をそのまま持ってきたような澱んだ暗い瞳……。

「っ……」

 目を閉じて頭を振る。違う、別のことを考えろ、でないとまた体がだめになる。ほら、ほら、温かいだろう、心地いいだろう。ただそれだけだ。嫌なことなど何も無い。言い聞かせるようにして花の香りのするシャンプーを泡立てる。

 速く浅くなっていく呼吸を整えるのに、私は必死だった。

(ほんと、バスタブのある浴室だったらどうなっていたことやら)

 このフラットにあるのがシャワールームだけだったからいいものの。もしバスタブ付きだったらと思うとゾッとする。湯の入った浴槽なんざ見てしまった日にゃ、きっと「あれ」が起きて指一本動かせなくなるだろう。

 バスタブで死んでいるリベカを思い出して。

 一度深呼吸をして、髪についた白い泡を一気に洗い流す。抜けた髪が――死んだ私の細胞たちの一部が、細やかな泡とともに排水口へ吸い込まれていく。

 ああ、これみたいに。これみたいに私の体の細胞が全て死に絶えて、そして全部深い穴に吸い込まれてしまえばいいのに。全身という全身が分解されて海に溶けて消えてしまえばいいのに。消えてしまえばいいのに。いや消えてしまえ。虚無になれ。私には生きる権利も義務もない。

 あの時死んでおけばよかった。

 なにも知らないまま、自分の罪に気付かないまま、死ねばよかった。

 いや今からでも遅くない。いっその事ここでシャワーのホースを首に巻き付けて死のうか。ガラス戸に首を挟んで死のうか。それとも壁に頭を叩きつけて死のうか。

(……それで死ぬのかは怪しいが)

 なぜ生きているんだろう。なぜ死なずにいるんだろう。この一年、私は一体なんのために生きていた? おまえもいないのに! この無意味な生をなんのために長らえさせた?

 おまえのいないこの世界がどれほどのものだろうと、私にとって価値はないというのに。

 それなのに何故?

 苦しみ損じゃあないか。

(あっ……)

 はっと気がつけば、私は温水を浴びながら頭を垂れてただ立ち尽くしていた。

 まずい、水道代がかさむ。

 何一つムダにはできないのに、何をしているんだ、私は。

 慌てて蛇口をきつく閉め、シャワールームを出る。冬の朝の空気がすぐさま私にまとわりついて、湯で温まった体をみるみるうちに冷やしていく。

 ひどく寒い。

 体に細い腕を回し、空気に触れる面積を減らすかのように抱きしめる。寒い。今にも凍えそうだ。すぐさま洗面所の物干し竿から、乾きたての白く大きなバスタオルを取り、頭からかぶって。完全に冷えきらないうちに水滴を拭い去った。

 それから埃で詰まりかけた古いドライヤーで長い髪を飛ばし、ちまちまと乾かす。指で軽く髪を梳き、風を吹き当てて、完全に乾いたらそれでおしまい。櫛は面倒だから使わない。

(もう折れそうだしな、櫛も)

 とりあえずそのへんから適当に取り出した下着を身につけ、再び灰色の寝間着を着た私は、すぐさまベッドに倒れ込む。

 うつ伏せ。柔らかい羽毛布団の感触を頬に感じながら、私は糸がぷつと切れたように脱力する。ともかく疲れた。シャワーはじりじりと消耗する。休日だからといって髪が洗いたいからなどと頑張らずに、今日も湿らせたタオルで体を拭くのにとどめておけば良かった。

(何もしなくても、勝手にいつか死にそうだな、私……)

 そんなことを思いながら動かないでいると、グゥ、と腹が鳴る。

 動物だな。私も十二分に動物。くたびれたようにくすくす笑って、私は仰向けになって何もない天井を見上げる。

 呆れるほどこの体は生きたがっている。これだけ心が死にたがっているというのに。まったく体ってやつは立派だ。死にたくったって死なせやしない。もはや呆れを通り越して尊敬すら覚える。えらい。えらいよ。お前はすごく頑張ってる。でも、もう、やめにしないか? なんて呼びかけても当然体は答えない。

 ともかく腹が減った。何も食べないでいるわけにもいかない。死ぬ。起き上がろうと腕に力を込める。いや待て、死ぬなら本望か?

 やめろ馬鹿馬鹿しい、餓死でも試すつもりか。せいぜいやるならやるでもう少しマシな方法を試した方がいいんじゃないのか。首吊る方がよっぽど楽だ。いや準備が楽じゃないな。なんならここから――。

 だから。やめろって。ひとり死にたがる私を宥めて、さて今日はどうやって胃に食事を流し込もうかと考える。

 何となく時刻だけ確認しようと、また電子スクリーンを起動させる。

 ――午前十時三十七分。

 ――アラン・モリス生誕百周年記念展。テート・モダンで本日から開催。代表作『友』『かなしみのかたち』『彼岸』『レテ』など多数の作品を展示予定。

(アラン・モリスの、『友』……?)

 いつもの陰鬱な朝に届いた報せが、珍しく、私の心を揺さぶった。



 午後三時前。

 気づけば、黒い折り畳み傘を片手に、私はセントポール駅の出口に立って、小雨に降られ霧のかかった倫敦塔を遠くに見ていた。

 いつ着替えたのかも、いつあの部屋を出てきたのかも、いつ列車に乗ったのかも、はっきりとは覚えていない。

 最近は何にも興味が湧かないのに、珍しくテート・モダンの企画展が気になってしまって、けれどもロンドンまでなんてとてもじゃないけれど体が動かない。とりあえず、動く気力があるならまず散歩からでも、なんて言って亡霊のようにのろのろとふらふらと外を彷徨っていたはずなのだが、ふと我に返った時には既に、キングスクロス駅行きの――つまりロンドン行きの――列車に乗っていたのだった。

 しかし寒い。コートのジッパーを首元まで上げる。みぞれとも小雨とも言える表現し難いそれは、通りに敷き詰められたタイルをじわじわと湿らせていく。

 私のコートにも降りかかり、黒いスニーカー靴にはすでに水が染み込みつつあった。

 ここでいつまでもぼんやりとしているわけにはいかない。ただでさえ目減りしている気力の無駄遣いだ。私はオフィス街のビルとビルの隙間を縫うように歩き、セントポール大聖堂をぐるりと半周してからテムズ川沿いの道に急ぐ。

(見えた。煙突だ)

 テムズ川にかかるミレニアムブリッジ。その先に見えるのが、イギリス国立現代美術館、テート・モダン。

 このテート・モダンにおいて格段に目を引くのは、建物の中央上部に堂々とそびえ立つ九十九メートルもの長さの煙突だ。

 百年ちょっと前だっただろうか。イギリス国立美術館「テート・ブリテン」は、作品の増加で手狭になったため、分館として近現代美術館を新しく建てることになったのだが、その土地確保と費用の捻出に頭を悩ませていた。

 一方で、金融街シティ・オブ・ロンドンの向かいに鎮座するバンクサイド発電所は、かつて戦災復興時にロンドンの電力を賄っていたものの、その役目をとうの昔に終え、その解体が迫っていた。

 そんな中、テート・ブリテンの理事会で、このバンクサイド発電所をうまい具合に改造して美術館にしてしまおうという案が持ち込まれる。

 提案は採択され、こうして出来上がったのが、地上百メートル近くにもなる発電所ゆずりの煙突を持つ、イギリス最大の近現代美術館だった。

 それでもコレクションは年々増える一方で、確か四年前くらいに三度目の大規模な増設を行ったとかいう話だったか。

 まったく来たこともないくせに知識だけは一丁前なもんだなと、自嘲的な笑みを浮かべながら、シティ・オブ・ロンドンを背に、私はミレニアムブリッジを渡り始める。

 曇りの空の色を反射するテムズ川は、ふてぶてしく灰色だった。

 イギリスを、正確に言えばイングランドを代表する河川の一つ、テムズ川。間違いなく世界で最もよく知られたイギリスの川だろう。産業革命時の汚染で悪名高いが、現在では根気強い清掃活動、美化活動の甲斐あって、世界の都市を流れる河川の中で最も水質の良い川の一つになっている。

 大昔に貿易の中心になっていただけあり、遊覧船が通ることができる程度には川幅が広く深い。どこぞの極東の島国、私の故郷(というほどの愛着もないが)の滝のような川とはえらい違いである。

 このミレニアムブリッジからはかの有名なロンドンの大橋、タワーブリッジが、そしてかつてヨーロッパで最も高いビルだったザ・シャードが見える。私はテート・モダンを訪れる気なのであって、ロンドン観光のつもりで来たのではなかったが、名前や形だけは知っている有名なものの実物を目にできるというのは嬉しく、知そして同時に、胸が痛む。

 私ではなく、この景色はリベカが見るべきものなのに。

 景色を見ているようでも、どうしても水面がチラチラと目に入り、頭の裡がざわつく。水辺というのは精神衛生上よくない。私は目をぎゅっと閉じてから顔を向こう岸の方へ向け、意識的に水面から視線を逸らして歩いた。

 幸い平日で、この天気、この半端な時間ということもあり、ミレニアムブリッジの割には観光客も少なく、私が足元を見ながら歩いていても、人にぶつかるというようなことはなかった。

 そうやって歩いているうちに向こう岸にたどり着いて、私はもう一度テート・モダンを見上げる。資料で見た通りの存在感だ。黄土色とも茶色ともつかない壁が、小雨の中、寂しげに立ち尽くしている。

 そんな建物にどこか親近感を覚えながら、私は迷うことなく入り口を見つけ、館内に入って企画展のチケットを買う。

 無論ほぼ思いつきのように来たので、予約は全くしていなかった。電子スクリーンに必要な情報を入力して電子決済で購入すると、画面上にチケットが現れる。明るい黄色のチケット。アラン・モリス生誕百周年記念展『アラン・モリス――たましいの形を描いたひと』。

 スクリーンに手を伸ばし、チケットを掴んで現実に引っ張りあげる。と、特殊ホログラム使用の仮想実体可逆環境紙のチケット一枚が私の手の中にあった。

(ふふ……最新の技術だね、見たことなかったな)

 その不思議な、経験したことのない、ツルツルとした感触に感心して、ふと気がついた。なんの感慨も覚えずに館内に入ってしまったが、私にとって、これははじめての「本物」のテート・モダンなのだ。

 この清々しい独特な匂いも、この閑静で神聖な感じのする雰囲気も、暖色と寒色とのバランスの整った照明も。本当は全部がはじめてなはずで。見たことがないはずで。本来なら少しの緊張感と高揚感を覚えるべきはずなのに、まるで何回も来たことがあるのかというくらいに、私の心は落ち着いていて、この空間に慣れきっていた。

 まあ、それも仕方がないだろう。美術館を、そしてテート・モダン内部を「見る」というのは、これがはじめてというわけではない。

 来たことはないが、見たことはあるのだ。


 かつて。研究所の敷地から出ることのできない私たちは、人目を忍んで、リベカ自作のシミュレーターを使い、数え切れないほどの「旅行」をしていた。

 リベカはこれが好きで好きでたまらないらしく、少しでも自由時間があれば仮想現実空間に遊びに行っていたものだった。

 そしてそんな時は私もリベカについていって、逢引とか言って、二人で手を繋いで世界中の美しいものを見て回った。

 外向的で、いくら遊んでも疲れ知らずで、観光地ならなんでも回りたがったリベカだったが、意外にもお気に入りは美術館だった。聞けば、美しいものがいくらでもあるからだという。人が美しいと思って創造したものは美しいと。そこに心があると。だから、本物が見たいといつもぼやいていた。

(……そこにあるものは全てが「偽物」だったのだけれど)

 それでもよかった。

 偽物だったけれど、いや偽物だったからこそ。

 私たちは新しいものを見るたびに、「大人になったら」を夢見て、「本物」を一緒に観に行こうねと笑った。外のきらきらとした美しい世界を渡り歩くことを誓い合った。それが私たちの間の約束だった。いつかここを出て行って世界を見に行こう、と。

 ――それは果たされなかった約束だったが。


(いけない)

 公共の場にも関わらず、涙が溢れそうになる。本当に、一日中この調子だ。呆れるほど涙が出る。恥ずかしい。私は誤魔化すように目をぐしぐしと擦り、エスカレーターに乗って、軽く鼻をすすってから入場ゲートを通る。

 リベカが一番好きだと言った画家もアラン・モリスだった。否、正しくは、リベカが一番好んだ絵を描いたのがアラン・モリスだった。

 リベカの好みには節操がない。

 絵も彫刻も、音楽も、芸術だけではなく何から何まで、リベカはリベカの好きなものを好きなように吸収した。その趣向の脈絡のなさと言ったら、まるで全く違う柄の布を縫い合わせたパッチワークのようだった。

 そんなパッチワーク状のリベカの好みにも、食べ物には食べ物の、服には服の、本には本の、一番があって。

 絵の一番は、アラン・モリスの『友』だった。

 その絵を見たのは、三年前、モリスのバーチャル企画展があった、ただ一回きり。

 リベカが見惚れたあの『友』の「本物」がここにあると、今朝のニュースで目にしたからこそ、私は今、ここにいるのだ。

 私はエスカレーターを二階で降りて、企画展示室へ向かう。

 壁際に置かれた白い台の上の機器に情報端末をかざして、私は企画展の図録データを受け取った。隣には有料の音声解説データが置かれていたが、私は手をつけなかった。ありがたくも忌々しくも、私の頭には西暦二一一〇年代前半までの美術史だの文化記号論だの表象文化論だのがしっかりと刻み込まれている。

 入り口の壁の白いパネルを埋め尽くすのはアラン・モリスの幼少期についてまとめた文章。二〇二〇年代の芸術に関わる時代背景がつらつらと述べられ、モリスの家族についても言及されていた。

(経済的発展も天井が見えてきて、個人主義が行きすぎて孤立主義と行くようになった最初の時代。無気力で皮肉めいた退廃的な空気の中に、まだ微かに光がある、そういう時代、か……)

 世紀末ではないながら、かつての十九世紀末かのような、まるで終末が差し迫っているような、そういう名前のない不安が流行り病のように蔓延した時代。

 そんな中でアラン・モリスという一人の少年は、イギリスのオックフフォードで生まれ、病弱な体に苛立ち、苦しみながら、その類稀な人間観察力と色彩感覚を用いて、今なお多くの人が知っている画家になった。

 私はモリスの幼少期に思いを馳せながら、彼のスケッチやクロッキー、作品を一つ一つ見ていった。

 展示品目の情報もそれひとつずつ確認する。材質、紙、鉛筆。未公開作品。西暦二〇二八年。つまり彼が十二歳の頃の絵だというのに、どれもこれもともかく精緻で、均整のとれた、心ある美しい絵だった。

 それは、ヒマワリ。それは、シロツメクサ。それは、スズラン。それは、ティーカップ。

 生活のすぐそばにあって、それでも、手を、そして心を伸ばさなければ届かないものたち。

 そして。

 それは、親友の横顔。笑顔。寝顔。真顔。本を読んでいる顔。

(これが例の……アルバート・グレイか)

 アルバート・グレイ。二十一世紀を象徴する万能型の科学者。学際分野の開拓に力を注いだ、多才な科学者。アラン・モリスとは幼馴染で大変に仲が良かったという話が現在まで伝わっている。

 モリスがグレイに恋愛感情を抱いていたと言われる程度には。

(まあ、それを外からどう言ったところで、作品は作品のまま、変化することなく存在し続けるんだけど)

 でも。確かに。彼が親友に向けていた眼差しは、――それが友情か恋情かはともかく――愛に満ち溢れていたものだったのだろう。

 このたくさんのスケッチを見ればわかる。

 少年時代のグレイの、頬骨の高い白い顔、穏やかな微笑みの底にあるささやかな怯え、長い睫毛に縁取られた細い目の利発さと神経質さ。その丁寧な筆致、微妙な表情の違い、動作の機微。モリスの絵はたとえ愛すべき親友であろうと、その姿を美化しなかった。むしろ愛していたからこそ少しも美化せず、彼の人となりを鏡よりも正しく、写真よりも自然に表した。

 しかもこれは全て鉛筆画なのである。ほとんどが習作と言ったふうのもので、色のついたものはごく僅か。それも、淡い色をほんのりと乗せただけのものだ。そのくせ、その全てが、そら恐ろしささえ感じさせるほどの絵だった。

 モリスの人物画の美しさ、生々しさには、どんな芸術家も叶わない、まさしくたましいの画家、天賦の才能だ、そんな風に評されるだけある。

 ひどく感心しながら、足取り軽く次の展示室へ移動すると、最初の部屋とはまるで様子が違った。

 茶、灰、青鈍。質量のある重苦しい色たち。思わず頭を抱えたくなるような陰惨な部屋の絵。そこに光源はあれど冷たく凍っている。

 別にグロテスクな、臓器や血液のようないかにもというものを描いているというわけでもない。ただの棚の絵だ。ただの花瓶の絵だ。本当にごくごく普通の、日常を描き出した、どこにでもありそうな絵だ。形が歪だというのでもない。パースから何までどこも狂っていない。

 下手をすれば写真のように見える。写実主義の作品です、などと言われれば、間違いなく皆が信じるだろう。

 だというのに、この惨憺さはなんだ? この息苦しさ、絶望感はなんだ? まるで絵に心を操られでもしているかのように、やたらと不安を掻き立てられるのは何故なのか。

 逃げ出したい。ここから。

 はっ、と壁に目をやると、そこには解説用のパネルが置かれている。

(読んではいけない)

 その中身がなんだか分かっているはずだ。やめておけ。自分に言い聞かせようとするが、効き目はない。

 自身の忠告も虚しく、私は何かに取り憑かれたようにふらふらとそれに近づいて、吸い込まれるようにしてそれを見つめた。

(離れろ、無視して先に進め)

『……「悲しみの時代」――。モリスのこの頃の作品は、彼の全作品の中でも最も暗い作品群を形成する』

(やめろ)

『十六歳(西暦二〇三二年)頃のモリスは、慢性的な呼吸器疾患に苦しんでいた』

(見るな)

『元々の病弱さも相まって、家で療養を余儀なくされた。友人グレイにも会うことのない日が続き、精神的に追い詰められてい……』

(ああ、もう……)

 やっとの思いで目を逸らす。やめておけばよかった、いや、やめておかなければいけないことはよくわかっていた。

 彼の経歴が私の今の精神状態に悪影響を及ぼすことはよくわかっていた。それでも絵を見に行きたかった。だからこそ、あまり作品の解説は見ず、深いことは考えないようにしようと思っていたのに。

(重ねてしまう、わかってたのに)

 どうしてもリベカと。リベカの最期と。今の弱った私が重ねてしまうのは火を見るより明らかで。

 最期の二週間、ずっと鬱に苦しめられていたリベカ。生きるしかばねのように活力を無くしたリベカ。私のために戦い続け、夢も自分も犠牲にしたリベカ。

 なのに私は寄り添えなかった。何も知らずにリベカから離れた。

 彼女の優しさにも、その痛みにも、心からの叫びにも、気づかないまま、私は何も知らないまま、仲違いをしたまま、彼女を逝かせてしまった。


 ――私が彼女の夢を潰してしまった。


 息を飲み込む。

 やっぱり死んでしまったほうがいい。

 ざわざわと、嫌な感じが近づく。

 口中に苦味が広がる。体が鉛のように重くなっていく。ずぶずぶと床に沈んでいくようだ。もう動けない、もう動きたくない。ここで座り込んでしまいたい。視界が狭まっていく。くらくらする。呼吸をするのも怠い。胃がむかむかする。周囲の音がぼやけて輪郭を成していない。寒い。苦しい。ともかく現実が遠い。生の実感が遠く離れていく。死神が私の髪を弄ぶ。

 いつもの「朝」の足音だ。

 もはや病的なほどに暗い絵。それは一瞬で私のいつも見ている鬱々とした世界を完璧に再現してみせた。

 醜いわけではないけれど、美しくはない、無味乾燥とした、くすんだ色調の世界。

 これは間違いなく、私が見る世界の絵だった。


 崩れ落ちそうになるのを、なんとか踏みとどまり、私はとぼとぼと魂の抜けたように順路を進む。周囲の音は何も聞こえない。ともかく疲弊していた。頭が働かなかった。目当ての絵は何だったっけ? もうそんなもの、どうだっていいか。帰ろう。もう帰ろう。私は死んだほうがいい。もう死んだほうがいい。狂ったように頭の中で繰り返す。逝け、逝けよ。ほら、足を進めるテンポがずんずん速くなっていく。逝きなさい。

 できるかはともかく。テムズ川に頭から突っ込んで死んでやる。いや、できないか。こんな無様に生き残ってしまった私には自分で死ぬことすらできないよな。

 下を向いて、何も見ないまま次の部屋に移り、足早に出口を目指すと、そこは人ごみだった。

(……ここだけやけに混んでるな)

 声のトーンを落としつつも感嘆する人々の声。その声の先にはきっと美しい何かがあるのだろうとふやけた頭で思いながら、老若男女が集ってうっとりと感慨に耽っている脇を通り過ぎようとした。

 しかし、鑑賞し終わってその絵から離れ始めた人々とぶつかりそうになり、慌てて伏せていた顔を上げる。

 と、視界の端に見慣れた緑の絵を認めた。

(えっ)

 思わずその絵の方を振り向いた。もう早くここを出ていって死のうと決めていたのに。

 リベカの一番好きだった絵。

「あっ……た………………」

 カラカラの喉で絞り出すように言う。砂漠で湧き水でも見たかのように、ふらふらと絵に近づく。あった。間違いない。これだ。人ごみの後ろから覗くように見た。長いため息をついた。心臓が確かに脈打っていた。

 ああ、これだ。たった一回だけ見た。でもよく覚えている。うっとりと絵に見惚れていたリベカの隣で。あの日、何がいいのかも分からずにただ見ていたあの絵だ。

 高さ一五〇センチメートルはあるだろうか、大きめのキャンパスに塗りたくられた暗い緑。靄のように広がるその色合いは少しずつ異なり、その絶妙な色調の相違が、彼の――モリスの親友を削り出すように描いている。

 微かに死の匂いのする絵。薄く描かれる無数の白い腕が、冥界にでも誘うように、グレイの少し伸びた銀色の髪を掴んで引っ張っている。亡霊か死霊のような何かが、彼を死へと駆り立てる。色の薄い肌には荒れた痕やにきびがところどころに赤く描き込まれ、そのくせ頬には赤みがない。乾いて皮のむけた寒々しい薄赤紫色の唇はきっ、と固く結ばれていて、これまでの絵の中でもかなりきつい顔つきで描かれている。高潔でありながらほんのりと狂気や怯懦を帯びた顔は、生前のグレイの少々強迫症めいた性格をしっかりと表していた。

 筋の通った鼻の頭辺りまで伸びた長い前髪の、隙間隙間から覗く目はあまりに物憂げで、不眠を示す濃い隈と擦った跡のある腫れぼったい瞼に嫌でも気づいてしまう。銀色の睫毛に囲まれた瞳の深い緑は格段に暗く、まさに涙も枯れ果てたと言った感じで、今にも深い絶望に呑まれそうに見える。

 ――が、それは逆だ。

 こうやって間近で見て、初めて気がついた。

 絵の中のグレイは深い絶望に呑まれそうになっているのではなく、絶望から生還したのである。確かに、彼の目はひどく暗かったが、そこには微かな光を宿している。近づいてみれば更によく分かる。ごく細い筆で、ごく薄い色で、確かに描き込まれているのだ。今やっと希望を見つけたかのような、今息を吹き返したような、そんな光が。

 それに気づけば、きつく結ばれた真一文字の唇に浮かぶ、ほんの少しの綻びが自然と目に入る。微笑みだ。今まさにこの青年は微笑もうとしている。

 人間が、光を取り戻した、長いトンネルの出口を抜けたその瞬間を、モリスは克明に描き出したのである。

(「本物」だ。これが……)

 「本物」。リベカがあれだけ見たがっていたもの。私がリベカに見せてあげられなかったもの。

 最初に見たとき、どうしてこのひどく暗い絵を一番好きだとリベカが言ったのか、私にはわからなかった。

 でも、今ならわかる。

 リベカは、彼が回復の兆しを見せる一瞬を切り取った絵だと見抜いた。そしてそれを美しいと言い、好んだのだ。

(おまえ自身は回復しなかったのにな)

 いつの間にか涙が一筋、頬を流れていた。しかしそれはいつもの苦しい涙ではなかった。それは私の曇った心を洗い流す涙だった。続けて涙が溢れた。ぼろぼろと流れていった。胸が痛かった。

 だがちっとも苦しくなかった。

 ふっ、と体が暖かくなり、頭の中をひと吹きの爽やかな風が通る。あれだけ錆び付いていた五感が一瞬にして冴え渡り、幸せな記憶の一つが目の前に浮かんだ。

 ――ねえオズ、私、この絵一番好きかもしれない。

 ――一番? これがおまえの、絵の一番?

 ――たぶん。ううん、絶対、これが一番。

 ――意外だな。むしろおまえはこういう絵好きじゃないと思っていたんだけど。何故?

 ――この絵を見てるとね、昔のオズのこと思い出すの。

 ――え、ひどいな、わたしはこんなに暗い顔してないよ。

 ――ううん、暗い顔だって言ってるんじゃないの。これはこれから明るくなる顔なんだよ。なんていうか……こころが軽くなる準備のできた顔なの。だから昔のオズのこと思い出して。

 ――そんなことあった?

 ――あったよ。オズがオズになった日。

 ――おまえに名前をもらった日か。

 ――そう。あの日突然、なんの気持ちも乗っていない顔から、ぽっ、とオズの灰色の目に光が浮かんだんだよ。ぽっ、と小さな小さな光が浮かんで、それが増えて集まって、灰色の目がきらきら光る銀色の瞳になったの。私はそれがすごく嬉しくて。

 ――嬉しくて?

 ――一番綺麗な顔だと思ったの。

 振り返って青灰色の目を細め、歌うように告げるリベカの愛おしさと言ったら。薔薇色の柔らかな頬に、同じく薔薇色のつややかな形のいい唇。滑らかで玉のような白い肌。小さく華奢な手。たおやかな体。リベカが呼吸するたび、肩がゆるやかに上下し、あかがね色のふわふわとした癖毛が空中で楽しげに踊る。真新しい薄桃色の服の襟から、昨晩わたしが鎖骨の近くにつけた赤い赤い痕が見え隠れする。

 もう二度と戻らない日の記憶。割れて、潰れて、壊れて、もうむしろ思い出したくもなくて、鍵をかけて閉じ込めてしまった。

 しかし零れた涙が、この絵が、苦しくて蓋をしたこころの棚の奥底から、この幸せな記憶を掴んで私の前に突き出してくれた。

 かき乱され、ぐちゃぐちゃになったこころから、リベカとの大切な記憶の一部を拾って、私の元に戻してくれた。

(しかしほんとうにひどい絵だなこの絵は)

 鼻をすすりながら少し笑う。

(私なら親友のこんなざまは描こうなんて思わない。ましてや贈るなんて)

 嗚咽混じりに笑った。周りのことも気にせずに、声を立てて笑った。

 モリスの友人グレイは神経質で打たれ弱い性格だったと有名だが、さすがにここまでの抑鬱状態に陥ったという話は聞かない。いや、仮に陥っていたとしても、むしろ陥ったからには、この絵を贈るべきではないだろう。

 だがグレイは笑って、いや喜んで受け取ったらしい。

 自分のひどい有様の絵を見て、大笑いして、それから何か思うことがあったのだろう、真面目な顔をして。それからモリスに飛びついて、大事にするよと礼を言った。そう、モリスの日記に書いてある。

 贈る方も贈る方だが、受け取る方も受け取る方だ。

 それだけグレイはモリスの描く絵に理解があったのだとも言える。

(だとしたってひどい顔だ)

 親友のこんな暗い顔は、私だったら描くのなんてもってのほか、見てもいられない。

 見ていられなかったからこそ最後の最後、私はリベカのそばにいられなかった。

 悲しみに押し潰され、打ちひしがれたリベカも、明るく優しくわたしを包み込んでくれたリベカも、全て同じリベカで、私は彼女を愛していた。幸せを願っていた。

 だからこそリベカが苦しんでいるところは見たくなかった。リベカが戦って傷ついて壊れていく様を見たくなかった。

 最初は何か助けになれるんじゃないかと、本当にいろいろなことを試した。わたしの記憶ファイルの中にあった知識を引っ張り出して、できる範囲でリベカを楽にしようとした。抑鬱状態を呈するリベカの症状を細かく分析する。そしてどの疾患にあたるのか、有効な治療法は何かを絞り出す。

 それはすぐにわかった。

 けれど、私のちっぽけな力では。

 リベカはどうにもならなかった。

 何回も何回も「薬出してください」って所長に頼んで、でも何回も何回も「ダメです」って却下されて、何回も何回もリベカに「気にしないで、わたしなら大丈夫」って言われて。

 もう、わたしの方が先に参ってしまって。

 日に日に悪化していくリベカの荒んだ暗い目を見るたびに、私がリベカをほんの少し休ませることもできない無力で役立たずの人間の出来損ないだということを思い知った。泣き腫らした目で体を震わせるリベカを見るたびに、その肩に乗っている苦しみの重さを想像して、本当にやるせなく、胸が焼かれるような思いがした。

 自分でできることは全部試した。でもリベカは治らない。それどころかありえないほど急速に悪化していく。何をやってもどうにもならない。無力感に苛まれたわたしは、ともかく愛する人の苦しむ姿から目を背けたかった。

 目を塞ぎたかった。

 だから逃げた。だからリベカの元を離れてしまった。自分がリベカの傷つく様を見なければリベカが傷つかないんじゃないかなんて、馬鹿なことを考えていた。

 でもそんなことはない。わたしがいない間にもリベカは深く深く傷ついていった。傷ついて傷ついて、それでもたったひとりで戦って、壊れて、そして命を絶った。

 おさまっていた嗚咽が再び始まりだした。私はゆっくりと絵から離れ、順路を歩きだした。止まらない涙を両手で受けながら、私は展覧会の出口に向かって歩いていた。

 身勝手だけれど。

 それでもおまえを愛していたよ。

 誰よりも愛していたんだ。

 おまえが何より大事だった。

 悔しいよ。

 あれだけ愛していたのに。

 悔しいよ。

 私は私の意気地のなさが。

 いとも簡単に奪われてしまう命の軽さが。

 永遠に喪ってしまった。永遠に引き裂かれてしまった。

 本当は分かっている。

 たとえ死んだっておまえには会えない。

 おまえと一緒にいることは、私が三途の川を渡ろうが、彼岸に呼びかけようが、もう叶わない。

 私がおまえにできることはもう何もない。

 ――それは、本当か?

 考えてから思った。それは本当なのか。本当に私がおまえにできることはもうないのか。

 いや、ある。

 私には妙な確信があった。まだリベカのためにやることがある。それは別に「リベカの分も頑張って生きるね」なんて生半可なものではない。私の頭にあったのは、あの約束。

 ――ここを出て、一緒に世界中の美しいものを見に行こう。

 それは果たせなかったのではない。果たされていないのだ。

 もう一緒にとはいかない。確かに一緒には無理だ。でも部分的になら、おまえの望みを、わたしとおまえの望みを、ちゃんと叶えてやれる。完璧でなくてもよいのなら、二人の誓いを果たすことができる。

 それで決まりだと思った。私が死ななかった理由。私がこれまで命を存えさせた理由。それでもう十分すぎるくらいだと思った。

 私は世界中の美しいものを見るために生きている。

 私はリベカとの誓いを果たすために生き続ける。

 最後のガラス戸を抜けた。

 外は相変わらずの雨で、湿っぽく、厚く黒い雲が暮れゆく空の橙色を覆い隠していた。

 だが、そこから薄く差し込む金色の光芒が静かに私を祝福していた。


 私の心は、今やっと息を吹き返した。



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Exit 円石アルガ @EnsekiAlga

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