DJ女子高生マッキーのお悩み相談

日暮ミミ♪

プロローグ

――夜八時。ここは都内のとあるFMラジオ局のスタジオ。

『では,今日最後の曲。Offisialオフィシャル髭男ひげだんdismディズムの〈Pritennderプリテンダー〉でお別れしましょう。また明日も聴いて下さいね~。お相手は,みんなのマッキーでした!』

「――はい,オッケー!お疲れさん!」

曲が流れ始めると,本番を終えてブースから出てきた〈マッキー〉こと女子高生DJの江藤えとう真希まきにプロデューサーの片瀬かたせまなぶがねぎらいの言葉をかけた。

「お疲れ様でーす!」

「マッキー,今日の放送もよかったよ。また明日もよろしくね」

「はいっ!」

真希は都内の私立しりつ大翔だいしょう学園高校の三年生。

ロングの黒髪にパッチリした目,鼻はちょっと団子っぱなで,"美少女"というよりは"可愛かわいい"という感じの顔立ち。身長は一五五ひゃくごじゅうごろくセンチとやや小柄。

そして彼女の何よりの魅力みりょくは,彼女の声。ちょっとアニメ声っぽい可愛らしい声が,リスナーである主に中高生達からの支持しじを集め,今や"カリスマ"とまで言われている。

そんなカリスマ女子高生DJ〈マッキー〉の誕生は,今から一年ほど前にさかのぼる――。


****


それは,真希が高校二年生になってすぐのこと。

「――ねえねえ,真希!これ見てよ!っていうかいて!」

ある日の登校直後,親友の辻元つじもと絵里えりが何だかテンション高めでスマホを真希に突き出してきた。

「えっ?……う,うん」

いきおいにつられて真希がうなずくと,絵里はSNSのアプリを起動し,タイムラインから一つの書き込みをタップした。

「えーっと,なになに?『ウチの高校の放送部のアイドル・〈マッキー〉のナマ音声で~す』!?……あっ,音声データ付きだ」

真希が画面をタップして音声データを再生すると……。

『みんな~,こんにちは~!みんなのお昼のお相手・マッキーでーす☆ ……』

「……コレ,あんたの声だよね?」

「うん」

その音声データは,大翔学園高校この高校の放送部に所属する真希が担当しているお昼休みの放送の内容を録音したものらしい。

「ってことは,コレ書き込んだのってウチの生徒……ってことだよね?でも誰なんだろ?」

「あっ,待って待って!あたし,一人だけ心当たりがある」

絵里は犯人さがしを始めようとしたけれど,真希にはすでに思い当たる人物が一人いた。

これだけはっきりと音声を録音できるのは,同じ放送部員しかいない。

「えっ?心当たりってダレ?」

藤沢ふじさわクンだよ。藤沢しゅうクン!あたしと同じ放送部員だし,あの放送の時にも音響おんきょう室にいたもん。多分その時に録音したんだよ」

真希は即答した。もう"推理"ではなく,ほとんど"確信"に近い言い方で。

「ええ?でもこのアカウント,藤沢のじゃないよ。違うんじゃない?」

絵里は反論した。「彼がそんなことするワケない」と言いたかったらしい。

真希と絵里,そして秀の三人は小学校入学の頃からもうかれこれ一〇じゅう年の付き合いで,二人とも彼の性格はよく知り尽くしているのだ。

それに三人ともSNSをやっていて,三人が三人ともアカウントを相互そうごフォローし合っていたりするのだ。

「多分コレ,あちこちでさんざんリツイートされまくってるよ。それがたまたま絵里のアカに流れ着いてきたんじゃないの?だから,最初にアップしたのは藤沢クンで間違いないよ」

「……じゃあ,本人に直接確かめてみる?」

絵里がチラッと教室の引き戸の方を見た。ちょうど一人の男子生徒が大欠伸あくびをしながら,「おはよ」と登校してきたところだった。

身長は一七〇センチ台後半,ヒョロっとした体型で髪は少し茶色っぽい。顔はなかなかのイケメンで,女子受けするシャープな顔立ち。……彼がウワサの藤沢秀である。

「藤沢クン,おはよ。……あのね,ちょっと訊きたいことあるんだけど」

「んー?」

真希が秀の席まで行って話しかけると,机に突っ伏していた秀はまだ眠気の残るけだるそうな顔で真希を見上げた。

「コレさあ,SNSにアップしたのあんたなの?なんかめっちゃ拡散かくさんしまくってんだけど」

そこへ絵里もやって来て,秀に詰め寄った。そしてあの音声を再生した。

「……ああ,コレな。うん,確かにオレだよ」

音声を聞いた秀は,悪びれた様子もなくあっさり認めた。

「ねえ,いいの?学校内の放送内容,勝手にネットに流して」

真希はいかりというよりも心配な気持ちを込めて訊ねた。校則に引っかかるか引っかからないかよりも(それはそれで問題だけれど),人としてやっていいか悪いかの問題。

「大丈夫だろ。それより,これがどっかのラジオ局の人の耳に入ったら,お前有名になるかもしんないぞ」

「まさかあ!そんなことあるワケ……」

真希は本気にせず笑い飛ばした。……が,まさかこれが現実になるなんて,その時の真希は思ってもみなかったのだ。


****


――その日の放課後。真希が放送部の部室(ちなみに,放送室のとなりの教室である)に入っていくと……。

「よう,マッキー。スゲえビッグニュースがあるんだ。お前に一番聞いてほしくてな」

「ビッグニュース?」

得意げな表情で,秀が開口かいこう一番にそう言った。何のことやら分からない真希は目をパチクリさせた。

「SNSで拡散されてる真希ちゃんの放送の音声が,地元のFMラジオ局のプロデューサーさんの耳に留まったらしいの。それでね,『ぜひこの女の子にラジオ番組に出演してほしい』って,そのプロデューサーさんがSNSに書き込んできて,秀クンがそこに返信したそうなの。『彼女は大翔学園高校の放送部員,江藤真希です』って」

部長の小山こやま莉緒りおが,真希に丁寧ていねいに説明してくれた。

呆気あっけに取られていた真希は,次の瞬間には秀を質問攻めにしていた。

「あんた,学校名教えちゃったの?実名も?あたしの許可もなく勝手に?」

「うん……,ゴメン。でもさ,オレのコメントにその人から返信が来てさ。『その江藤真希さんにぜひとも会いたい!』って。んで,今日この後学校に来てくれることになってる」

「えええっ!?」

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