第3話 イヌイと戌亥
「なぁ。お前って、俺だろ」
そう言った瞬間、奴が息をのむのを感覚で感じ取る。自分の身体があれば限界まで目を見開いていたであろうその反応が、俺にはたまらなく気持ちいい。
『...』
話を続けろ、と言わんばかりの無言に頷くと、フゥ...と1つ深呼吸してから「違和感や疑問があったら遠慮なく、その場で言ってほしい」と前置きして、確かめながら語り始める。
「まず名乗っておくよ。俺はイヌイ、カタカナで書くんだよ。そんでもって、多分、俺とお前は別世界線上の同じ存在だ。...いや、別世界線なんてのは美化しすぎか。別世界線もどき、というべきかな。都合が良いことこの上ないが、その方がすっきり__」
『おい』
考えがまとまったとは思っていたが、こうして口に出していると、まだ形のなかった疑問がどんどん形を持ってくる。それがまた楽しく、他の事そっちのけで考えを深めていってしまうのは、子供のころからの悪い癖だった。
その癖がまた出てしまったとき、奴からストップがかかる。どうやら奴は、まだうまく理解できてない様子だ。
「悪い、悪い。まず、なんで俺がこの結論に至ったかなんだけど...」
1つ1つ、優しく丁寧に話を進めていく。
別世界線上の同じ存在なんてミラクルに辿り着いた理由、それに基づく根拠、そして最後に、俺自身の勘。自分という存在と同等以上に信頼出来る相手なんて、俺なんかは特に将来出来る自信もない。そう、俺は俺が大好きで、俺のことを最優先に人生を歩んだ結果、人並外れた勘を磨くまでに達していたのだ。
話すこと約10分。奴からの質問に答えながら、ひとまず話したいことは話し終えた。大体意見は同じだったが、唯一驚いたのは、俺が別の世界から来た人間だと話してもさほど驚かなかったことだ。それも、信じずに小馬鹿にしているのではなく、ただ静かに受け入れてくれた。こちらが真剣に話していることは、どれだけ現実味がなくてもある程度受け入れられるところは、俺にはない奴だけの長所なんだろう。
『...ふぅん、何となくわかった。...あぁ、名乗り忘れていたな。俺は戌亥。漢字で書く。''乾く''じゃない方の戌亥だ』
少し間をおいてから漢字の説明をされる。奴_いや、戌亥なりに自分の漢字の説明を頑張ったんだろう。言い終わると、リラックスしたのがわかった。
さて、ここからは生活の確認だ。
俺の目に狂いがなければ、窓の外は__。
魔法が飛び交っている。
君にはシんでもらいたい セツナ @S_T_N
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