第2話 望まぬ出会い
「いってて...って、んだよここ!?」
目が覚めると、まず打った頭の具合を手で確かめる。
うん、問題なし。この時ばかりは心の底から感謝した。正直、俺にとって俺という存在は、他の誰よりも愛しい。それに、ただのビニール袋に逝かされるなんて、まっぴら御免だ。
俺の無事を1秒経たずに確認すると、今度は周りの確認作業に移る。
1ミリも体を動かさず、目だけでじっくりと周りを見ていく。なぜって、起きたらまた痛みで気絶なんて、絶対に嫌だから。
目を動かしてやっと思う。これは夢なのか、と。
考えてもみてほしい。自分は足を滑らせて、タンスの角に頭を思いっきり打ちつけ、段ボールのすぐそばに倒れこんだはずだった。それなのに、目覚めた、否、目を開けて見た場所が、段ボールの影すらどこにも感じない、そこそこいいお部屋だった時、どうするか。
どうやら、俺も例外ではないようだ。俺の心はあと2時間は寝返りすら許さないと言っているのに、俺自身は慌てて起き上がり、全力で周りを確認したんだから。
「あぁ、お目覚めですか?」なんて声をかけてくる、可愛い女性はいない。その代わりというように、気持ち悪い声が頭に響いた。
『おい、聞こえてんのか?』
気持ち悪いなんてレベルじゃない。脳内できついハウリングを起こされた挙句、それが誰でもない俺自身からの声で、直感で感じるに、この声は俺にしか聞こえない。そんなのは、もう気持ち悪いの次元を超えて、吐き気までもを催してくる。俺がそんな中正気を保っていられたのは、声の主が俺だったからだろう。
「聞こえてるよ。だからもう少し小さい声で、いっそのこと囁く程度で話してくれ」
もう一度、今度は理性が飛ぶくらいに大きな声で言われる前に、声のボリュームを抑えるよう頼む。
『...このくらいでいいか?』
成程、囁きレベルまで声が小さくなると、それもそれで気持ち悪い。俺にそんな趣味はないから尚更だ。
しかし、俺の声といっても、怒らせてさっきより酷いハウリングを聞きたくはない。
「あぁ、大丈夫だ」
早々に答えると、声もそれ以上何も言ってこなくなった。
自分でも驚くほど、この状況に対しては至極冷静だった。
...訂正しよう。現実味があまりないから、どこか他人事のように思っていただけだ。地元じゃ毎日のように、出てきてからは時間が出来たら、所謂''異世界ファンタジー''系を読み漁っていたからだろうか。たまに関係のある妄想をしていたかは言うまでもない。
顎に手をそっと添えて、頭の中でパズルを組み立てていく。
会話が途切れて約30秒。俺は結構この状況を自分なりに考え、把握出来始めていた。
異世界というには、部屋の構造が似すぎている。家具の形は違えど、俺の家とここは、あまりにも同じ位置に同じ機能の家具が置かれすぎだ。それがやりやすいから、と言われればそれまでだが、ベッドの質や家具の装飾を見る限り、そこまでお金に困っていない。しかしながら、俺特有の「台所に勉強机を置いて、光熱費の節約」というのがそっくりそのまま再現されているのは、やはり偶然ではないんだろう。余程の貧困状態に陥らない限り、火の近くで紙を出そうだなんて、思わないもんな。
そして、ふと窓の外を見たとき、ありえなくはない可能性が最後のピースに当てはまる。
あとは、声の返答だけだ。
「...なぁ。お前って、俺だろ」
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