君にはシんでもらいたい

セツナ

第1話 こことの別れ

「ふぁぁ......」


近くのスーパーだと欲しいものが売ってなかったので、若干遠出して隣の市まで買い物に出かけた帰り道。俺は、3秒あれば眠りに落ちるくらいには眠かった。

大きなあくびをしたあと、早く帰りたい一心で、少し早足になりながら家路を歩く。

地元から出てきて3週間ちょっと。ある程度手続き等は終えたものの、未だここの華やかさには慣れない。そこまで都会じゃなくてもよかった。むしろ、いきなり大都会に放り出されては、右も左もわからないどころか、上と下の区別もつかなくなりそうだ。


_そう。俺は、特別変わったことはしていなかった。強いていうなら、ちょっと遠出をしたくらい。

そんな何気ない日が、俺の人生で1番最悪の日になるなんて__。


「ただいまぁ」


俺に帰ってくる言葉がないのはわかっている。しかし、気の抜けた声でも声を発していれば、少し寂しさが和らぐ気がした。

手を洗い、そのまま直行で風呂場に行く。シャァシャァというシャワーの水温が心地いい。


いつもより短い時間でシャワーを浴び終えると服を着て、バスタオルを頭から被り、その上から頭をわしわしと乱雑に拭く。

再度大きなあくびをしながらテレビをつけると、どこのチャンネルでもお花見特集をやっていることに気付く。

大学が始まるということは、同時に桜も開花しているということ。そんなことにすら気付けないとは、余程頭が回ってないんだろう。

早く寝よう、と足を踏み出す。家に着いた安心感、遠出と大学が始まるという緊張。家事を今までやってなかったせいで溜まった疲れから、よく足元を見ていなかった。


「うぉあっ!?」


ゴミ箱に捨てたはずのビニール袋で足を滑らせ、見事なまでに綺麗な弧を俺の頭が描く。

ゴンッという鈍い音と同時にザッと意識が刈り取られる。

まだいくつか残っているダンボール。それが、ここで見た最後の景色だった__。





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