date:2020.08.27 case:無 income:¥0 notes:差し入れ
あれから、
幽霊の不在証明。
今思えば、穴だらけの証明だったねえ。根っからの理系だからこそ、対偶の概念でどうにかなったってだけだなあ。
いや、同じ市に住んでるからもしかしたら、はあるけれども。
相変わらずテレビの向こうでは新型肺炎についての情報を垂れ流し、俺は冷房の涼しさを甘受するだけの日々。
その代わりに、季節の先取りをするかのように懐は日々寒くなっていく訳だ。
お湯で三分ラーメンが、生命線。
――ピンポーン、とインターホンが鳴った。
そういえば今日、会って話をしたいから行きますって連絡入っていたっけか。
「ほいほーいっと。今出ますよーっ……!」
鍵を開けて、扉を開けて。
無言になる。
「……こんにちは、樫木さん」
懐かしい顔が、居た。そして開口一番に、俺の苗字を呼ぶとはね。
「元気そうで。全然変わってないですね」
先代のまま夏目探偵事務所と看板を掲げているから、会ったことある奴じゃないと苗字を知らない筈だ。つまりは。
「お前さんこそ元気そうで何よりだねぇ。おじさんびっくりだよ」
コイツ、記憶を保持しているって訳だ。何の因果かねぇ。
「よう、真崎くん。今日は何の依頼かねぇ?」
とは言え、依頼なんて無いんだろうね。手に持つ大きめの菓子折が、それを物語る。
きっと、何気ない日常はこうやって戻ってくるんだろう。
探偵事務所が閑古鳥なんて、今日も街は平和だ。
夏、幽霊、不在の証明 蟬時雨あさぎ @shigure_asagi
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