〜エピローグ〜

 大切なものは失ってから気付くとはこういうことなのかもしれない。純恋さんが死んでから三日ほどは俺はまともに飯が食えず、一言も言葉を発しなかった。それからというものあまりの喪失感で家に引きこもるようになってしまった。二次試験が終わるまで俺は誰とも連絡を取ることはなかったし、会うこともなかった。

 そして、大学一年の夏休み、俺はこのころには現実を受け止めることができ、落ち着きを取り戻すことができている。俺の試験は大成功だった、見事第一志望に受かった。そして高校の卒業証書とセンター試験の得点表は純恋さんの墓前に置いている。ちなみに和樹も見事合格。翼は、都外の国立大に受かった、今まで判定はEだったらしいが、もう勉強で逆転を果たしたらしい。そして心配な木下は、都内の会社に就職した。先生たちにはかなり止められたらしいが、何とか押し切ったらしい。そして部活仲間だった高村は、テニスをするために強豪大学に推薦で入った。みんなそれぞれ思うような進路に進めれたみたいだ。

 そして今日、今はまだ早朝だった。俺は今、純恋さんのお墓参りにきている。俺はいつも、純恋さんの遺影を拝むときや、お墓参りの時は、いつも左手の薬指に指輪をはめる。この後高村と、久々にテニスをする約束があり、それも午前中からだったのでこの時間に来ている。

 まず最初に墓周りのそうじを始める。それから、花の取り換え、お供え物を置く。そして線香をあげ俺は静かに手を合わせた。夏ということもあり空は明るかった。

「純恋さん、元気ですか?僕は大学がとても楽しいです。自分と話が合う人、同じ志をもった仲間そんな人たちに囲まれて、今とても幸せです。僕は、あなたが死んでから誰とも付き合うつもりはありませんでした。でも、あなたが手紙で書いていた、『狭く生きずに、一度きりの人生を謳歌しなきゃ!』という一文を思い出して、今は自分の気持ちに正直になり、やりたいように生きています。そのおかげで、いろんなタイプの友達も増え、女の人の友達もいます。そして今、僕には彼女がいます。どうですか?嫉妬してくれましたか?でも安心してください。確かに今の彼女は良い人ですし可愛いです。でもあなたには到底及びません。こんなこと言うと未練がましいといわれるかもしれないので、これは僕の心にだけとどめています。

 あなたが僕に言ってくれた、僕とは二人の男女として出会いたかったって言葉なんですけど、あれは、僕は肯定できません。なんでかというと、あなたに惹かれるまでの僕は基本他人なんかどうでもよかったし、執拗に絡まれることを嫌ってました。だからもし、姉弟として出会えてなくて他人として出会ってたら、僕はきっとあなたを好きになることもなかったし、今、こんなに変わることはなかったとおもいます。だから僕はこの出会い方は正解なんだと思います。時々僕は思うんです、あの時の僕たちの出会いはもしかしたら単なる偶然なんかじゃない、そういう運命だったんじゃないかなって思ってしまいます。神様が僕たちに輝きを与えようと僕たちにくれた、一年ちょっとの光、そんな気がします。

 また、いつここに来るかはわかりません。でも年内には来ます。その時にまたいい報告ができるようにしておきます。それじゃあ失礼します。」

 俺は立ち上がり、荷物をもって、墓を後にする、しかし次の瞬間

「・・っ!?」

 俺は急いで、後ろを振り向く、一瞬だが純恋さんのお墓に気配を感じた。でもまわりを見渡しても、誰もいなかった。きっと純恋さんが、天国で俺を呼んだのだろう。

「大丈夫ですよ、また来ますし、指輪もちゃんとついてます。」

「・・・・大好きです。」

 

 俺は快晴の空の下を再び歩き、墓場を後にする。

 

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この出会いは間違いじゃない 山谷希望 @nozomi_yamatani

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