『アベノマスク』を大肯定してみせよう

齋藤 龍彦

【『アベノマスク』を大肯定してみせよう】

 西暦2020年4月現在、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。

 そんな中、日本国内閣総理大臣安倍晋三が国内各世帯に布マスクを二枚ずつ郵便で送ると表明した。

 この政策が発表されるや安倍政権の経済政策アベノミクスをもじった『アベノマスク』なる造語が発明されネット上を飛び交い、酷評の嵐が吹き荒れ、誉める者はどこにも見当たらない。

 この政策が発表されたのが4月1日ということも手伝ってネット上では「エイプリールフールの冗談ではないのか」とさえ言われる始末。


 ネット以外でも例えば、テレビ朝日「モーニングショー」の番組中では『官邸付きの官僚が首相にこの〝布マスク二枚配布案〟を提案した』との新聞記事が紹介され、あの長嶋一茂までもが「俺もバカだけど、こいつはもっとバカ」と、提案したとされる官僚に対しマウントをとっていた。

 またさらに、日本医師会会長は「ウイルス防止の役割はあまりない。国民の安心をつくるということではそれなりの効果はある」とコメントし、ほとんど役立たずであると、太鼓判を押していた。


 この日本の騒動にアメリカマスコミが飛びつかないわけがなかった。

 4月2日、アメリカ・ブルームバーグ通信は「マスク配布の計画は物笑いの種になっている」と報道。

 また、あのCNNも「さえない政策だと多くの人が感じている」と報じ、日本語ネット世界の反応を引用する形で結局自分達で物笑いの種にしている。


 ハッキリと言っておこう。相変わらずアメリカのマスコミはタチが悪い、という感想を新たにしただけだった、と。


 『アベノマスク』と揶揄する全ての人のために、ぜひとも紹介しておきたい事柄がある。



 4月2日、アメリカ・ニューヨーク市のデブラシオ市長は市民に対し『外出時にはマスクや布で口を覆うよう』要請。(https://www.47news.jp/world/4681383.html参照)

 またロサンゼルス市のガーセッティ市長も市民に対し、マスク着用を呼びかけている。


 横浜港に寄港し『ウイルス培養容器』とさえ報じられ、日本叩きの象徴となった〝クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号〟。その事件の頃には日本国内において、にわかに権威の象徴ともされたCDC(アメリカ疾病対策センター)だが、今やその権威は揺らいでいる。


 CDCはこれまで『健康な人はマスク着用の必要なし』との方針を示してきたが、この度ニューヨーク、ロサンゼルスの両市はCDCの方針に公然と反旗を翻したのである。


 これまでアメリカ国内ではCDCの方針が社会に定着していたせいか、『マスクをしている者=新型コロナ感染者=外に出てるんじゃねえコノヤロー!』という図式がまかり通り、危害を加えられたアジア人すらも出たのである。だがしかし、マスク着用に関する潮目は変わりつつある。



 こういう事を言い出すとおそらく、以下のような事を言い出す者が出てくるに違いない。

「目の粗い布マスクは、しても意味が無い」と。


 私は専門家ではない単なるド素人である。だがしかし、ド素人であっても論理的考察くらいはできる。そこでひとつ、『アベノマスク』には本当に効果が無いのかを考えてみることにした。

 そこで 厚生労働省のサイトである。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q4)には以下のようにある。


>『新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)令和2年4月3日時点版』


>感染様式

>問4 新型コロナウイルス感染症にはどのように感染しますか?

>現時点では、飛沫感染(ひまつかんせん)と接触感染の2つが考えられます。

>(1)飛沫感染 感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば など)と一緒にウイルスが放出され、他者がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。

>※感染を注意すべき場面:屋内などで、お互いの距離が十分に確保できない状況で一定時間を過ごすとき

>(2)接触感染 感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、自らの手で周りの物に触れると感染者のウイルスが付きます。未感染者がその部分に接触すると感染者のウイルスが未感染者の手に付着し、感染者に直接接触しなくても感染します。

>※感染場所の例:電車やバスのつり革、ドアノブ、エスカレーターの手すり、スイッチなど


>問5 空気感染は起きているのでしょうか?

>国内の感染状況を見ても、空気感染は起きていないと考えられるものの、閉鎖空間において近距離で多くの人と会話する等の一定の環境下であれば、咳やくしゃみ等がなくても感染を拡大させるリスクがあります。



 新型コロナウイルスは空気感染は考えにくく、飛沫感染で伝染していると考えられる、とのことである。

 で、『飛沫』とはなんでしょうか?

 辞書を引けば『細かな粒となって飛び散る水』とあります。


 時に『飛沫』と聞いて何が思い浮かびますか? スプレー、霧吹きの類いを連想はしませんか?

 ここに空のガラスマイペットの容器があり、その中に水を入れたとしましょう。

 噴出口のすぐ前に手の平をかざして容器の引き金を引けば、手の平は濡れます。

 次に手の平を噴出口から徐々に離していって容器の引き金を引いた場合、手の平は濡れるでしょうか?

 距離が離れれば離れるほど水滴の粒は小さくなり霧のようになり、じきに濡れたという感覚すら無くなります。


 なに? 『そんなの当たり前だろ!』だって?

 そう、その当たり前が解らん奴が多すぎるのです。


 ガラスマイペット容器の噴出口を『口』、噴出する水を『唾』、噴出口のすぐ前にかざした手の平を『マスク』として考えてみてください。

 手の平が噴出された水を遮ったなら、遠くの方まで霧状の水が届く道理があるでしょうか?

 要は唾を飛沫にしなければ、ウイルスも遠くへは拡散できない、という意味になります。


 確かに、目の前に新型コロナウイルス感染者がいて咳をする。ウイルスを含んだ飛沫が飛んでくる。布マスクはそのウイルスを防いではくれない。そういう意味では布マスクに意味は無い。だがこれはそういう意味のマスクではない。逆転の発想のマスクである。

 唾の飛沫化を防ぐという意味では布マスクであっても効果があると考えるのが道理ではないでしょうか。


 なに? なにを言っているのかよく解らない?

 これは政府も悪い。もっとハッキリ言うべきなのだ。日本の政治家はかの曹操孟徳のようにはなれないのでしょうか。

 例えばこう言えば誰でもその意図を理解することでしょう。


「この布マスクはお前の命を守るマスクではない。お前の周囲にいる人間達の命を守るマスクである。全ての国民が体調の善し悪しに関わらず常時マスクを着用すれば新型コロナウイルスを含む唾は飛沫化せず、よって誰にも伝染しない」と。


 これくらい言わないと、解らん奴には解らんのです。


 いつの間にか日本人は自己愛中心の人々になってしまいました。

「こんな布マスクなんてつけても私の身は守られない」

 こういう発想でしか物事を考えられない連中が『アベノマスク』などという造語を発明し非難しているのです。

 長嶋一茂はともかく日本医師会の会長までこのレベルとは本当に情けない限りです。




 極端な事を敢えて言っちゃいましょう。この日本にいる全ての人間一億二千万人全てがマスクを常時着用したなら、感染はこれ以上広がらないのです。


 なに? それは全体主義だって? マスクをつけないだけで非国民にされるって?


 敢えて言おう。結構であると!


 『そのイデオロギー』と『人の死』、特に自分に近い人の死が等価交換できるかどうかをぜひとも考えてみてください。


 こういう事を言い出すとおそらく、以下のような事を言い出す者が出てくるに違いない。


 『インフルエンザの方がもっと人が死んでいる』とか『ただの肺炎の方がもっと人が死んでいる』とか言って、統計学的視点でものを言うタイプである。

 しかし無為無策で『だからいーやー』で何もしないで後々後悔しませんかね。死んだ人は生き返りません。そういう諦観主義の手合いに限って自らに近い人が死んだとき錯乱し醜態をさらすのだと。残念ながら人間なんてそんなもんです。


 そんな醜い姿を見せられるくらいだったら後悔するよりは、できる対策はした方がいいんじゃないですか。たかだか日常的にマスクをするだけなんですから。そのための『アベノマスク』です。

 『アベノマスク』は新型コロナウイルス拡散を防ぐためのポジティブな流行語にならねばなりません。『布マスクを全世帯に送るべき』と提言した官僚が実在するなら実に有能なブレーンです。

 それともまだ長嶋一茂や日本医師会会長の方が有能だと思う人がいるでしょうか?



 こういう事を言い出すとおそらく、以下のような事を言い出す者が出てくるに違いない。


 『この政権のネット工作員め』だとか『この与党サポーターズクラブめ』とかである。

 ネットというところは非常にめんどくさい。だがそういう人を想定し敢えて言っておこう。 


 新型コロナウイルスで安倍政権を攻撃できるネタはある。最も根本的且つ核心的なネタが。なのにそっちにはまるで言及しないで『アベノマスク』で政権攻撃とはこれいかに、と。


 中華人民共和国国家主席の国賓来日、中国人観光客のインバウンド経済効果に惑わされ、明らかに初動(中国人入国拒否)が遅れた点に関し、世論は未だ激しい非難を加えてはいない。

 台湾という成功例が近くにあって世論が『台湾では』とならないのはなぜだろう。(2020年4月3日現在 台湾における新型コロナ感染者355人、死者5人。 https://www.sankei.com/world/news/200404/wor2004040020-n3.html参照)

 『アベノマスク』と言って政権攻撃している人達は前述したネタで政権を非難しているだろうか?


 なに? 過ぎた過去のことを今さら言っても始まらない? そういう言い分もあるだろう。しかし未来はどうなるか?


 東京オリンピックが1年延期となったが、その頃はどうなっているだろうか。

 外国人が『新型コロナの日本になど行きたくない』と言うようになるか、

 日本人が『外国人のオリンピック観戦でまた新型コロナが日本に持ち込まれないか』と言うようになるか。

 問題は後者になった時。もしかしたらアベノマスクより『オリンピック感染』が流行語になるかもしれません。

 その場合、現政権がなんの反省も無くこれまで通り、やれ『インバウンドだ』『観光立国だ』とやり始めたら当然こんな政権支持はできません。



 どうも『アベノマスク』で政権攻撃している人達は現政権の対中宥和政策を非難できない人々なのではないか、そんな気が激しくします。そしてそんな方々はたぶんドイツが大好きです。

 そこで最後に、いわゆる『出羽の守』の方々の信仰対象とも言える『ドイツでは』の話しを紹介しておきましょう。


 今月4月より、ドイツ政府の公衆衛生研究機関ロベルト・コッホ研究所は、新型コロナウイルス対策として公共交通機関利用時や勤務先においてマスクを積極的にするよう呼びかけ始めています。

 ドイツもアメリカと同じく『急性の呼吸器疾患のある人に限ってマスク着用を推奨』という政策をとってきました。しかし方針は既に転換されたのである。

 その転換理由は『症状の無い感染者が他人を感染させるおそれがあるから』、そのように地元メディアは報じています。

 『ウイルスから身を守るためにマスクをするわけではない。他者を守るためにマスクをするのだ』というのがドイツの方針となったのです。

 またドイツの一部自治体では『公共交通機関利用時や店舗内でのマスク着用を義務化する』とのこと。

(https://www.de.emb-japan.go.jp/itpr_ja/konsular_coronavirus020420.html

在ドイツ日本国大使館サイト『テューリンゲン州イェ−ナ市及びノルトハウゼン郡におけるマスク着用義務化』参照)


これではマスクが無かったら食料品の買い出しもできませんね。


 『ドイツを見習え!』『ドイツでは!』と言いそうな『アベノマスク!』の皆さん、ドイツではこうですよ!



 日本の上に暮らす全ての人間がマスクを常時着用すること、という条件付きですが、『アベノマスク』は世界に先駆けた新型コロナ対策の決定的政策になるかもしれません。


 その際は『アベノマスク』をポジティブな流行語として、首相や提案した官僚を表彰して頂きたいものです。

                                                                    (了)

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