10.癒しの聖女 その2

 シュライクの街。パーティーを組んでいればさほど高くない戦力でも辿り着ける街。そしてV3の世界で五指に入る巨大都市でもある。


 マリカは目を輝かせながら街を歩く。冒険用のアイテムは街によって並べられている商品が違う。シュライクでは数多くのものを買うことが可能だ。

 アイテムの他にも、食料、装備品、スキル、職業などもV3では購入対象である。



 反対に現実の商品はどこでも品揃えを統一している。いざ現実の商品を買うときにわざわざ街を移動する手間をかけさせないためだ。


 落ち着いたら街と見てみよう、とマリカは誓っていた。


 そんな仮想と現実が混在した街をしばらく歩くと、真っ白な中世の教会を思わせる建物に辿り着いた。思ったよりも大きい。隠れ家のようなものを想像していたマリカは意外そうな顔をする。


「ここがチーム『癒しの聖女』の本拠地だよ」

「教会っぽいね」

「れいが教会をイメージして造ったらしいからね」

「そっか。V3って課金すれば自分の建物も造れるんだっけ?」

「うん。まあ安くはないけどね。さ、入ろう」


 白塗りの扉をリンタが開き、中に入る。マリカも続いた。


 内装はまさに中世の教会。ステンドグラスに女神像の置かれた典型的な礼拝施設である。中央奥には祭壇があり、これまた典型的な白と青の修道服に身を包んだ女性が背を向けて立っていた。


「れい、連れてきたよ、マリカだ」


 リンタが修道服の女性に声をかける。女性が振り返る。金髪に碧い目、モデルのような高身長、そして慈愛に満ちた表情。マリカも見とれるほどの美人である。


「マリカさんようこそ『癒しの聖女』へ。私がリーダーの『JDれい』と申します」


「はじめまして。マリカです、よろしくお願いします」


 深々とお辞儀をするれいに合わせてマリカもお辞儀をする。JDってことはれいさんも女子大生なのかな、などと思索する。


「あはははは! れい、もうそれはやめなって言ってるのに。うちはもっとフレンドリーなチームでしょ」


 リンタが笑い出す。マリカが顔を上げるとれいも笑っていた。


「ごめんねえマリカちゃん。なんか最初は雰囲気出した方がいいかなーって思って」 


 れいはマリカに近付いてきて手を取る。


「わざわざ来てくれてありがと! リンタから聞いたよ、トンボとフレンドなんだって? しかもリンタとの会話でそれを交渉の材料に使うなんてね。なかなか見込みあるよ。改めてよろしくね。あ、私のことはれいって呼んでくれて構わないから。敬語もいらないよ」


 まくし立てるれいに戸惑うマリカ。リンタが助け舟を出す。


「急にびっくりしたでしょ。最初のはチームに入るとき誰もがやられるんだ。こっちのフレンドリーな方がれいの本当の姿だから」

「そういうこと。ちなみについでに言うと私リアルでは男だから。課金で美女になってるだけね」

「え? え?」


 マリカは話の展開についていけない。


「でもJDは本当よ。女子大生じゃあなくて柔道(JUDO)だけどね。リアルでは全国大会で優勝したこともあるのよ。まあV3ではしっかり大人の女やらせてもらってるから」

「うわああ! れい、いろいろ最初に言うのやめなよ。混乱するだけだって」

「だってマリカって可愛いんだもの。課金してないでその見た目でしょ? ちょっとからかいたくなっちゃうのよ。それにリーダーとして隠し事はイケナイと思うわ」

「隠し事とかじゃあなくって、情報を一気に流し込み過ぎだよ」


 混乱する頭でもマリカは居心地の良さを早くも感じていた。


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VRMMOで生計を立てる方法 =マリカのV3奮闘記= エス @esu1211

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